36.「言うことを聞かせたいのならば、知力ではなく暴力を用いるのだな……」

 瞬間、君の制服が弾け飛んだ。

 厚手の生地といえど、服は服――君の強大な筋肉を抑えつける拘束具にはならない。

 もっとも、君の力を抑えつけられるものなど、この世界にどれほどいるというのか。

 みるみる内に君の身体は巨大化していき、頭部は図書室の天井をぶち抜いて上階層、更には屋上へと到達する。身体は図書室にいながらも見る景色は屋上から見渡す街並みであった。君の身長は現在八メートル、君の巨体は三階建てのビルに匹敵する。

 図書室――否、学校中がこの異常事態にどよめいている。


「……ずいぶん成長期みたいだね」

 広井さんがナイフを構えて、振るった。

 目標は君の足の腱、容赦のない一撃である。

 だが、ナイフは肉ではなく空を切った――君の巨体は学校を崩しながら、跳んでいる。


「ここじゃ狭すぎる……屋上で待ってるぜ!」

「やれやれ、とんだデートの誘いだなぁ」

 広井さんは階段を駆け上り、屋上へと向かう。

 君の身体に空いた巨大な穴、そして巨大な君が広井さんを待ち受けている。


「……なんで、急に力を解放したりしたんだい?」

 余念なく構えながら、広井さんが君に尋ねる。


「俺はパワー全振りの中学時代を過ごし、パワーで全ての試験を合格してきた。そして、高校ではこの有り余るパワーを勉強に向けることにした……つもりだった」

「なに?」

「だが、貴様に勝負を挑まれた瞬間に眠っていた俺のパワーが目覚めた……テストの点数で決まるような生ぬるい勝負はないッ!!傷つき倒れた者を……勝者が見下す……それこそが勝負よッ!!」

「なるほど……なるほど……だったら、君の望む勝負でやらせてもらうよ」

 広井さんが無数のナイフを君に放りながら、君に接近する。


「アタシが勝ったら、まともにテストを受けてもらうよ!!」

「ふん……なら俺が勝ったら……俺が勝ったら……!!」


 俺が勝ったら――何がしたいのだろうか。

 君は考える。

 どこまでもパワーの連鎖が続くのだろうか、広井さんとはパワーなど関係ない付き合いが出来ていたはずだ。


 君の強大なパワーと広井さんのナイフが衝突し、衝撃波を起こす。


(別にパワー関係なく、広井さんと勉強するのは楽しかったなぁ……)


 それでも君は止まらない。

 愚かだとわかっていても――止まることは出来ない。



 粉々に砕け散った校舎の残骸の上で、君と広井さんは対峙する。


「「うおおおおおおおおおお!!!!!!!」」

 悩み、ぶつかり、そして答えを出す――それが青春である。


【青春END】

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