第58話 レイレイ

 もしかしてパソコンのみならずEYEまでもハッキングされているのか……持永はすぐにパソコンを閉じ、レイレイの出力と止めようとしたが、電源ボタンを押してもブラックアウトしなかった。


「ちょっと、そんなに焦らないでよ」


 完全に浮き出したレイレイはキーボードの上に立っていた。


「あなた何者……」


「僕のこと知っているでしょ。僕はレイレイだよ」


「そんな……」


「さっき僕のことをメタファーと言っていたけどそれはちょっと違うな。僕はイラストでも無ければ、3Dグラフィックでもないよ。ネットの中で生まれた正真正銘のアイドルだよ。だから従来のボーカロイドやバーチャルアイドルともわけが違うわけ。僕は僕の意志で君の元へやってきたんだ」


 持永がレイレイに触れようとすると、指をすり抜けた。


「僕と君は物質として次元が違うから触れ合うことはできない。でもこうやって目の前に現れて会話することは出来るけどね」


「ならあなたはあなたとして完結しているわけ」


「やっと信じてくれた? 僕が正真正銘本物のレイレイなんだよ」


 レイレイはそう言うと、お馴染みのポーズを決めるのだった。


「確かに贋物も沢山いるよ。僕に似たイラストや3Dグラフィックを作るのは簡単だからね。でもそれって現実のアイドルも同じじゃない。アイドルの写真を撮ってポスターにすれは、それは二次元空間での贋物ということになるわけだし……」


 確かに言っている理論は分かる。持永は眉をひそめながら、ぎこちなく頷いた。


「分かった、信じるわ」


 信じがたい話だが、そうでなければ説明のつかないことがあり過ぎた。


「つまりあなたは自立思考型AIでその実態がAR空間とネット回線にのみ存在していることね」


「そうだよ。だから僕はどこにだって行けるのだ!」


 レイレイを人差し指を立てて誇らしげに言った。


「で、あなたの目的はなに? なんのために私のPCに入ってきたの?」


「それは君が渾沌を探しているからだよ」


 その単語に耳が動いた。


「渾沌……あなたはそれについて知っているの?」


「僕も詳しくは知らない。だけど目的は知っている」


「その渾沌がゴーストと同一人物なのね」


「人物というよりは組織だよ。そのトップがあの二つの事件を起こしている。僕は組織の目的がこの世界の破壊にあると思うんだ」


「具体的に言うとどいうことなの?」


「簡単に言えば、君はヒューノイドからロボットになり、僕はこの世界から永遠に消えてしまう。こんな可愛い僕が世界から消えちゃったら、ファンの皆が悲しんじゃうでしょ? それに君だっていやでしょ、完全に人じゃなくなるは」


「この世界とはAR世界のことね」


「君は渾沌を探っている。そして僕も渾沌によって消されたくない。僕たちの二人の目的は一致しているんだ」


「ならあなたを味方と見ていいの?」


「少なくとも敵ではないよ。僕は君に協力する。そして君も僕に協力してほしい。僕はそんな相互関係を求めて、君の元に現れたんだ」


 レイレイは舌を出して笑った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る