第6話 船を造ろう(2)

 レタの王都の散策はこれまでも多くの成果を上げてきました、でも今回の件は成果と言って良いのか疑問があります、いえ成果に違いありませんがあまりにも幸運過ぎて宙に浮く男が頭に浮かんでしまいます。


 レタがその商人に付いて報告して来たのは、町で中古船を探し始めて3日目、宿へ5日延長する事を告げて料金を払った日でした。


 レタはその日これまでの買い物などで仕入れた情報から幾つかの造船工房を当たって中古船の情報や船の修理が出来る工房で貸し出している所が無いか探していました。


 まだ大した情報が無いまま昼7時(午後0時)になり、お昼にする事にしました。


 ナミの教えてくれた情報でこの近くにスッパゲッティと言う名の麵料理を出す料理店で”ミラの旨いもの屋”と言う名のお店があるそうなので行って見る事にしたそうです。


 トマトの濃厚な味と酸味が程よいとても美味しい料理だと聞いていたのでとても楽しみにしていたのだそうです。


 しばらく歩いて行くと、お昼時なので人が多くなって道も混雑して来ます。

 道路へ椅子とテーブルを出して店の外で食事が出来る様にしていると聞いていたので直ぐその店は分かりました。

 まだテーブルに空きがあったのでお店の人に案内されて空いたテーブルの1つへ腰かけました。

 レタがスッパゲッティを食べ終わり、店員へ食後の紅茶を頼んでいると、一人の男が声を掛けてきました。

 「お嬢さん、少しお話をさせてもらってよろしいでしょうか。」

 「私は船商を営んでいます、ナミーゴ・ステイスルと言う者で、ビチェンパスト王国王都で造船工房を幾つか持っています、又新造船やお探しの中古船の他に船大工の紹介や船材の仕入れも行っています。」


 レタはすぐさま脳内会話で知らせてきた。

 『お嬢様、船商だと言う男が接近してきましたが、警戒をお願いしますです』

 『レタどの様な状況なの?』急に言われてもどうすれば良いのでしょう。

 『今食事が終わった所なのですが、男が造船工房を持っていて又船大工の紹介や船材の仕入れが出来ると言って来ているであります』

 (カスミ、警戒とは男が帝国の裏か王都の闇組織の者なのか聞いてくれ by大姉)

 『レタ、その男は裏の組織の者なのですか?』


 『いえ、分かりませんが、私が中古船を探していることを知っていますです』

 これは如何判断すれば良いでしょうか、探りを入れるべきですね。

 『レタ、男と話して見て下さい特に、何処でレタの話を聞いたのか聞いてください』


 『はい、わかりましたです』レタが男と話すと返事をしてきました。


 「お座りください、お話をお聞きしても良いのですが、その前に私が中古船を探しているとどこで聞いたのか教えてもらいたいです」


 男は、店員を捕まえるとコーヒーを注文しながら答えます。

 「いや失礼、コーヒーが大好きな物でね。」

 「さて、ご質問に答えますか、実は簡単な事なのですよ、貴方がここ数日で探して回った造船工房の幾つかが私が所有する造船工房だったのです、で私ならあなたのお力になれると思いましてお探ししていましたのです」

 「この店も私の古くからの知り合いが経営していまして、貴方が朝からこの近くを歩かれていることを知って、店主にもし見えたなら教えて欲しいとお願いしていたのです。」


 「そうですか、では一つお聞きしますが、あなたは中古船を直ぐにでも用意できるのですか?」とレタが探りを入れると。


 「ええ、もちろんですとも、中古船なら大小数隻ご用意できるだけの物を持っています。」

 と男が自信ありげに言います。


 『お嬢様、怪しさは感じませんが、うさん臭さはありそうです、ただ中古船を直ぐにでも用意できると豪語しておりますです』


 『ナミにそちらに行ってもらいます、船の大きさなどの具体的な内容を話して時間を稼いでください』とレタに指示しながら、ナミにレタの居るお店まで行くように指示します。

 「ナミ、レタがスパゲッティのお店にいるので、レタと話している男を探ってください」

 「畏まりましてござる、訂正でござるが、スパゲッティではござらぬスッパゲッティでござりますぞ」と言って、素早くカスミちゃんが開けた家の玄関から出て行った。

 「ああ、そうね」としか言えないです。


 レタと男との会話が続きます。

 レタの紅茶と男のコーヒーが届き、会話が一時中断する。

 レタは紅茶をゆっくり一口、二口飲んで、男がコーヒーを飲み終わるのを待つ。


 そして、レタが男に聞く。

 「今、中古の船で陸に引き上げられている物はありますか?」と。


 男は、少し考えてから答えた。

 「陸に上がっているのは修理を必要とする船ばかりだがある事はある。」

 「だが、海に浮かんでいる方が直ぐに乗れて、しかも安上がりですが良いのですか?」


 もう一度紅茶をゆっくり飲んでから質問を再開する。

 「大きさをお聞きしたいのですが、陸に上がっている船に着いてですけど」

 とレタが念押しをする。


 「分かりました、どうぞ何でもお聞きください。」

 と男は疑問に思っていても、その気持ちを押し殺して答える。


 レタはぬるくなってきた紅茶を下に置いて、男を見て話を続ける。

 「私どもは小型か中型の中古船を手に入れて船の全面的な改修を考えています」


 それを聞いて男は驚いたような顔をしたが、黙って話の続きを聞く。

 「出来ましたら、中古船だけでなく船用の材料と船大工を何人か人手が欲しいと考えています」

 とレタが続ける。

 「貴方はそれらをご用意できますでしょうか?」


 男がしばらく黙って考えている。

 やっと顔を上げレタに返事をした。

 「ご用意できます。」


 「ナミーゴ・ステイスルさんとおっしゃられましたね、明日あなたの店でこの続きをお話したいと思いますがいかがでしょう?」レタが怪しい微笑みを称えて男を見ながら答える。


 男も笑顔でそれに応え、歓迎の言葉を言う。

 「はい、お話を聞いて下さいましてありがとうございます。」

 「明日は昼7前(午前中)にお越しいただければありがたいのですが。」

 と名刺とそれに書き込んだ住所を差し出しながら打ち合わせ時間の都合を聞いて来る。


 レタは名刺と住所を見ながら答える。

 「ええ、昼5時(午前10時)にはあなたのお店に伺うわ」

 と答え、ゆっくりお辞儀をした。

 それを見て寄ってきた店員に料金を確認して、食事代金とチップを込みで銀貨2枚を渡し、お店を出た。


 男も立ち上がり答礼をしながら見送る。


 レタはしばらく歩いて、近寄ってきたナミに男の特徴と空間把握のパターンを知らせて後を付ける様に命令する。


 ナミが離れていく、レタは宿へと帰って行く。

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