【自主企画】鏡は冷たく六花を誘う【第一回キャッチボール小説マラソン大会】

おくとりょう

第1球 始まり

「みどりー!何してるの?」


 お母さんの声にハッとして我に返る。外は蝉の声がうるさくて、照りつけるような日射しが窓から差し込んでいた。

 ひんやり冷たい廊下のフローリング。生ぬるい風が通り抜けていく。薄暗い廊下の壁にかかった鏡の中で、ぼんやりしている自分を見ながら、私は昨夜の雪景色を思い出していた。

 ……この鏡の先にあった、あるはずのない白銀の世界を。


「……もう。いつまで鏡に見惚れてるの?

 いくら美人に生まれたからって、お母さんを待たせてまで、眺めるのはちょっと違うんじゃなーい?」


 腰に手を当てたお母さんが白い歯をニヤッと見せて、首を傾げる。後ろでキュっと括られた綺麗な黒髪がさらさらと優しく揺れた。


「えへへー、ごめーん」


 彼女とは似ても似つかないゴワゴワとした私の癖毛。それを押さえるようにキャップを被り、トントントンと靴を履く。扉を開けると夏の光が包み込むように私を照らした。

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