第21話 ワンパン
「何の用だ、てめぇら?」
倉庫へと向かう俺と葛城に声を掛けてきたのは、周辺をうろついていた若いチンピラたちだった。
人数は全部で5人。
ここで無駄に時間を費やすのは悪手だ。
「葛城、黙らせろ。俺は先に行く」
「了解しました」
俺の言葉に、葛城は頷いた。
「あ? いやいや……頭おかしいのか?」
革ジャンのチンピラが、俺の前に立ちはだかる。
彼はバタフライナイフを取り出し、見せつけてきた。
葛城はそんなことお構いなく、無言でそのチンピラの顔面をぶん殴った。
空中で3回転ほどしてから、無様に着地。
チンピラは失神し失禁していた。
「面倒だから、殺すなよ」
「分かっています」
手加減をするつもりはあるので、安心して俺は倉庫の入り口に手を掛けた。
「ば、化け物野郎が! ふざけやがって」
「ぶっ殺してやる!」
恐怖と怒りが混ざっているのか、チンピラたちは得物を持って葛城に向かっていった。
大したことはなさそうだ。
あの様子だと、すぐに決着はつきそうだ。
俺も、さっさとけりをつけよう。
「……ああん、誰だぁ?」
「見ない顔だけど、どうなってるんだい鬼道君?」
倉庫の扉を開き、中に入った俺に、先客たちの視線が向けられる。
鬼道と傷跡の男、そして40~50代くらいの男4人とトップレスの若い女たち。
「……助けてっ!」
切羽詰まった様子で俺にそう言ったのは、クラスメイトのバカ女だった。
彼女は引き裂かれた服から、白い肌が露わになっていた。しかし、動きを封じられて肌を隠すこともできていない。
パンティーを頭に被った髭面のおっさんと、ブラジャーを身に着けた小太りのおっさんに羽交い絞めにされ――注射を打たれる寸前だった。
その注射器の中の薬品が何なのか、簡単に想像がついた。
俺は怒りを押し殺してから、スマホのカメラでこの現場を数回、写真に撮った。
あっけにとられている連中に向かって、俺は言い放つ。
「ドラッグ使ったパーティーの様子は、このスマホで押さえさせてもらった。今すぐ解散して自首を約束してくれるなら、このまま見逃してやるけど……どうする?」
俺の言葉に、呆然としていたおっさん二人を蹴り飛ばしたバカ女。
彼女は俺に駆け寄ってきた。
「逃げよっ!?」
焦った様子のバカ女の言葉に応えるのは、
「逃がすわけないやろがい、このボケナスがぁっ!」
怒りに顔を真っ赤にした鬼道だった。
「逃がしてはくれないみたいだ」
俺はそう言って、羽織っていたシャツをバカ女に渡す。
「すぐに終わるから、それ着て待ってろ」
俺の言葉に「は、はい……」と殊勝な態度で頷いた。
「隆矢さんが出るまでもないっす。こんな勘違いヤロー、俺が速攻で殺してやりますよ」
傷跡の男が拳を握りながら、鬼道の前に出た。
こいつと鬼道以外はまともに喧嘩も出来そうにない、見たまんま運動不足の中年だ。
もうすぐ葛城が来るだろうが、それまでに片付けておきたい。
……と思っていたが。
「雑魚が勘違いすんなや!」
そう言って、鬼道は傷跡の男を腕力だけでぶん投げた。
傷跡の男は驚きの声を発する間もなく壁に叩きつけられ、気絶をした。
「ひぃっ!」
と短い悲鳴を上げて俺の腕にしがみついたバカ女。
確かに恐ろしい光景かもしれないが、ついさっき葛城がもっと恐ろしいことをしてたから、いまいち迫力に欠けるな……。
「鬼道さんの喧嘩が見れるのかい」
「こいつは楽しみだ」
「あの小僧がどのタイミングで命乞いを始めるか、賭けませんか?」
「良いですな。腕一本折られた時点で泣きが入るでしょうな」
「じゃあ、私はパンチ一発で命乞いに一口ですわ」
鬼道が喧嘩をすると分かったとたん、おっさんどもは楽しそうに騒ぎ始めた。
「俺もその賭け乗っていいかい? 無傷の勝利で命乞いは無しに、107兆円」
俺の言葉に、バカ騒ぎをしていたおっさんどもが、静かに切れる。
「……てめぇの〇〇〇切り取って、自分の口に突っ込ませてからぶっ殺してやるよ」
そう言ってから、鬼道がタックルをしてきた。
さすがはレスリングで鳴らしただけはある。
普通の人間が相手なら、これでマウントを取られてお終いだろう。
しかし、俺はそのタックルのタイミングに合わせて、力任せに背中に拳を叩きつけた。
無様に床に貼り付けになった鬼道は、どうやらまだ意識があるらしい。
タフだな、と思いつつ背中を踏みつけてから言う。
「俺は優しいから、〇〇〇を切り取って自分の口に突っ込ませてからぶっ殺すことなんてしねえよ」
そう言ってから俺は、鬼道の両腕をへし折った。
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