第40話 ローズのお願い
「シャーロット……王女……!?」
驚きの表情を浮かべたニコライさんが、声を漏らす。
シャーロット王女って、誰だろう。
なんとなく、その名に覚えがあるけど、思い出せない。
シャーロット、 シャーロット……。
ああっ、わかった。
確か、ローズの本名が シャーロットじゃなかっただろうか。
以前、ステータスを確認したときに、見た気がするぞ。
「貴方は確か、御用商人のニコライだったかしら?
今日は、一冒険者のローズよ。そう、接してもらえると嬉しいわ」
と、答えるローズさん。
シャーロット王女で、間違いないようだ。
それにしても、ローズが王女ってマジか。
何で、冒険者なんかやっているんだよ。
「わかりました。では、そのように」
ナイスミドルと、同じようにローズに向かって、一礼をするニコライさん。
それから、本家ナイスミドルにイスを引かれて席につく。
丸いテーブルを囲んで、正面にニコライさん、左にはクリスティーナ、右にはローズ。そして、ローズの横にクレアさんが座る配置だ。
「しかし、ヤマダさんが、 王女……いや、ローズ様のお知り合いだったとは驚きました」
俺も、驚いたじゃんね。だって、初めて聞いたし。
「彼には、仲間の命を救ってもらったことがあるのよ」
「それは奇遇ですね、私もヤマダさんには、助けられた経験がありまして。今日も、そのお礼をしたくて、食事の機会を頂いたのですよ」
などと、会話が進むうちに、数人の給仕によって食事が運ばれてきた。
どうやらコース料理のようで、一品目はスープだ。
オレンジ色のスープが、陶器の大きめなお皿に盛られている。
湯気が運ぶ、美味そうな匂いが堪らないな。
そして、グラスにワインのような物が注がれ、準備は完了のようだ。
ニコライさんが、グラスを掲げる。
それに合わせるように、皆がグラスを掲げた。
「それでは、始めましょうか。ヤマダさんに感謝をっ!」
ニコライさんの合図で、グラスのワインに似た液体をゴクリ。
やはり、見た目通りワインのようだ。
葡萄の芳醇な香りが、鼻を抜ける感じが気持ちいい。
そして、スープをスプーンですくって口に運ぶ。
少し、酸味の効い濃厚な豆のスープ。
後からくる、ピリッと辛い、香辛料の味がスープをすくう手を止められない。
「そういえば、以前ご一緒したダンジョンが踏破されたようで、『レコード』にはヤマダさんと同じ名前が刻まれていましたが、もしかして……?」
ニコライさんからのお問い掛け。
って、もう知れ渡っているの。
さすが、迷宮都市、情報が早すぎるだろ。
さてと、どう答えたものか。
隠したところで、特にメリットもあるわけでもないし。
普通に、答えちゃってもいいだろう。
「はい、ニコライさんが仰る通り、ここにいるクリスティーナと一緒に踏破しました」
と、言ったところ。
何故だか、クリスティーナ以外の全員から視線が集まる。
あれ、マズイことでも言ってしまったか。
もしかして、勝手に踏破しちゃうと、ダメな感じだったらどうしよう。
いや、でも。出口で警備兵に、何も言われなかったし。
大丈夫、大丈夫。……たぶん。
などと思いつつも、次の言葉を待つ。
「やはり……ヤマダさんでしたか。さすがと言ったところですな」
と、ニコライさん。
よほど、トレインを撃破した事実がニコライさんの中で大きいようだ。
「あの、あれは、そんなに難しいダンジョンだったのでしょうか?」
「っ……」
またしても、フリーズ。
ややあって、今度はローズさんの口が開いた。
「知らなかったのっ!? あのダンジョンは今まで、誰もクリアされていなかったのよっ」
少し興奮気味で語る姿を見るに、大事件の予感。
チラリ、横を見ればスプーンを両手で握りキョトンとした様子。
薄々感じていたけど、このクリスティーナさん、ダンジョンには余り詳しくないらしい。
ローズの力説を聞くに、あのダンジョンは比較的に新しいもののようだ。
しかし、ダンジョンの探索者として有名な『ニッカー』が、攻略を断念したことで、一躍有名に。
ダンジョン入り口付近が、賑わっていたのもそれが原因らしい。
きっと有名探索者が断念したダンジョンを踏破して、名をあげようとしている冒険者達なのだろう。
それが、ついに攻略され、『レコード』に踏破者の名が刻まれた。
そのニュースは瞬く間に、迷宮都市に広まり、今一番ホットな話題になっているだとか。
「いやぁー、憧れますよ、ヤマダさん。いつかは、『レコード』に自分の名も刻んでみたいものです」
と言ったニコライさんにローズが、うんうんと頷く。
ローズも、かなりのダンジョン好きらしい。
力説しているときの目が、マジだったもん。
そういえば、ローズは何でついて来たのだろうか。
何か用事でもあったような、雰囲気だったけど。
「そういえば、ローズさん。自分に何か用事でもあったのではないですか?」
さりげなく、お声がけ。
「そ、そうよっ、貴方に頼みたい事があって来たのよっ」
一応、ローズは王女らしいし、出切る事なら受けておいたほうが良さそうな気がする。
やっぱ、コネは大事だって、叔父のよしえさんが口癖のように言ってたからな。
女装で、黄昏る姿は結構くるものがあった。
「なんでしょう」
「あ、貴方に、護衛依頼をしたいのっ!」
ローズさんからヤマダに、ご指名が入ってしまったぞ。
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