第38話 迷宮都市と靴

 ダンジョンを出て、屋台通りを歩く。


 出口付近は何やら騒がしかった。


 しかし、警備していた衛兵に、少し変な顔をされたものの、特に何も言われる事もなく、通る事が出来た。


 屋台通りは、以前来た時と同様に賑わいを見せている。

そして、前と同じように食欲をそそる香りが、鼻腔をくすぐり続けた。


 しかし、今は食欲に負けるわけにはいかない。


 今回の食事は、クリスティーナのお祝いも兼ねているので、もっとしっかかりとした店舗でしようと思っている。


 幸いにも、『アリス魔法商店』でスライムの魔石を売って得たお金があるから、少々お高い店でも足りないということはないだろう。


 まぁ、もし、足りないときはアレだ。


 大量に保有している魔石を、いくつか置いていけば何とかなるだろう。



「ご主人様、どこの屋台も良い匂いがしますねっ」



「ああ、どれも美味そうだな。だけど、今回は屋台じゃなくて店に入ろうと思うけど、いいかな?」



「よろしいのですか?」



「スライムの魔石を売ったお金もあるし、大丈夫だよ」



 と、思ったけど。


 今のクリスティーナは、ジャージにブカブカのスニーカー姿だ。


 俺ならそれでも構わないけど、さすがに新調したほうがいいだろう。


 ドレスコード以前、女の子相手に、こんな格好させておくのは忍びない。


 その事をクリスティーナに伝えると、



「服でしたら、ご主人様から頂いた、これがありますので不要です」



 と、言われてしまった。


 スケルトンから人間に戻っても、健気なクリスティーナさん。


 それでもやはり、サイズの合っていないスニーカーは、靴擦れの原因にもなると、力説をして何とか靴だけは買うことになった。


 後ろ髪を引かれながらも、屋台通りを後にして。


 迷宮都市の、大通りへ向かう。


 あの辺りなら店が並んでいたはずだ、きっと見つかるだろう。







 靴屋を探して、あっちへウロウロ、こっちへウロウロ。


 勝手がわからずに、大通りを歩いていると、



「ああ、やっぱり、ヤマダさんだ」



 お声がかかった。


 一体、誰だろうか。


 振り返ってみれば、トレイン騒動で途中までご一緒した、商人のニコライさんだ。



「これは、これはニコライさん」



 そう返事をすると、ニコライさんは元々浮かべていた笑顔を、さらに破顔させた。



「ご無事でなによりです。あの節は、大変お世話になりました」



「いえ、ニコライさんこそ、ご無事でなによりで」



「しかし、あのトレインを止めてしまうとは……ヤマダさんは一体……?」



 何者と言われても、フリーターですけど。


 週3勤務で、ごめんなさい。



「何者のもなにも、只の、駆け出し冒険者ですよ」



「駆け出し冒険者ですか……まぁ、詮索はよしましょう。

ところで、何かお探しのようですが、私でよかったら協力させてください。

こう見えても、ここらでは多少、名の知れた商人のつもりです」



 そう申し出てくれた、ニコライさんに靴屋の場所を尋ねる。


 ニコライさんが教えてくれた靴屋の場所は、大通りにあるようで。


 ここからも、そう遠くはない。


 お礼を言って別れようと思っていると、



「もし、お時間が空いていれば夕食をご一緒させて頂きませんか? 

あの時、助けてもらったお礼をさせてください」



「いや、お礼を貰うような事はなにも……」



 と、言ったものの、ニコライさんの意思は硬く、夕食をご馳走になる事になった。

アレはついでと言うか、成り行きだったので、改めてお礼とか言われると少しむず痒いな。




 そして、今はニコライさんから、教えてもらった靴屋の前に来ている。


 さっきほどまでの場所から、徒歩で数分とかなり近かった。

店構えも立派で、高級店の雰囲気を放っている。


 木製のドアを開くと、カラン、カランと澄んだドアベルの音が響いた。



「いらっしゃいませ」



 執事のようなナイスミドルが出迎える。



「あの、ニコライさんの紹介で来たのですが」



「ニコライ様の……!?」



 結果から言えば、ニコライさんの名前は絶大だった。


 そのおかげで、通常価格の半額で買うことが出来てしまった。

ニコライさんは、多少と言っていたけど、もしかすると、ここいらでは顔なのではないだろうか。


 デザインの良い皮製の靴を買って、店を後にする。

クリスティーナは、プレゼントした靴を気に入ったのか、終始、満面の笑みだ。


 時折、靴を眺めては「えへへっ」と、嬉しさを漏らしている。


 それだけ喜んでもらえれば、買った甲斐があるってものだ。


 さて、靴屋の後に来てくれと、ニコライさんは言っていたな。

いよいよ、本格的な異世界料理が、食べれると思うと胸が躍る。


 まだ見ぬ、異世界料理へ思いを馳せながら、


 待ち合わせ場所である店へ向かう途中だった。



「ようやく見つけたわ、探したのよっ!」



 そう、声を掛けられたのは――

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