第30話 境界の回廊2

オークの鳴き声で、仲間達が続々と集まり続ける。


 ざっと見ただけでも、30体以上。


 今尚、その数を増やし続けている。


 以前見たトレインよりも、ヤバイのじゃないだろうか。



「ご、ご主人様、この数は……どうしましょうか?」



 一体、一体はレベル差的に考えて問題はないのだが。


 こうも、数がいると……。


 しかし、だからと言って、ここで逃げたとしたらトレインが発生してしまう。

それも今回は、俺が発生源とか笑えない。


 もう、ここで迎え撃つしかないだろ。



「仕方ない……迎え撃つぞ」



「わ、わかりましたっ」



 以前のトレインで遺憾なく、その威力を発揮してくいれた。

信頼と、案心のファイアーウォールさんの出番だ。



「ファイアーウォール」



 発現場所を定めて、ファイアーウォールを撃つ。


 寸分の狂いなく、生まれた炎の壁がオークと俺達を分断する。


 轟々と、燃え盛る炎の壁。


 ここまで離れていても、ピリピリと肌を熱風が撫でる。


 それを眺めること、幾分。


 前回と同様、徐々に火力は弱まり、やがて消えるファイアーウォール。



「あっ……ご主人様」



「いい……、言わなくてもわかってる」



 ファイアーウォールが消えた向こう側、ピンピンとした無傷のオークさんの姿が。


 ……うん、わかってた。


 ファイアーウォールを、発動してから気がついたけど。


 前回、上手くいったのは魔物が獲物を狙って走っている途中、突然ファイアーウォールが進路を塞いだからであって、走って・・・いない状態でファイアーウォールが目の前に現われても、誰も突っ込んで行ったりしないよね。


 これは、そうアレだ。完全にMPの無駄遣いである。


 それでも、突然あらわれたファイアーウォールを警戒しているのか、

すぐには、襲っては来なさそうだ。


 仕方ない、違う手を考えなくては。

これだけの数を相手に、バットで立ち回るのは効率的じゃないな。


 それに囲まれてしまっては、幾らレベル差があったとしても危険があるかもしれない。

もういっそ、ファイアーボールを撃ち込んでしまうか。


 何か囲うものがあれば、一匹も逃がさずに一網打尽に出来るのだけど。


 囲うものか……。


 おう、良い事を思いついちゃった。



「ファイアーウォール」



 発現位置を定めて、 二度目のファイアーウォールを発動。


 それも、今回は一度に四枚・・だ。


 ごっそりとMPが減る感覚と共に、四枚のファイアーウォールが、オークの集団を囲う。


 そして、待つことしばらく。


 消えたファイアーウォールの先に見えたのは、倒れたオーク達。


 流れ続ける、経験値取得のログが、勝利を確認させてくれる。



「ご主人様、これは何が起きたのでしょうか?」



 疑問の声をあげる、クリスティーナ。


 ここは、一つ。ドヤ顔で解説してあげましょう。



「ファイアーウォールで囲うことで、炎が場の酸素を奪ったんだよ。生物は、酸素がないと呼吸ができないからね、その結果、一酸化炭素中毒を起こし、オークは死してしまったんだ」



「サンソなるものですか……」



 普通に酸素とか言ってしまったけど、迷宮都市の文明レベルをみれば、化学がそこまで発達しているとは思えない。良くて、中世レベルだ。


 俺達の世界ですら、酸素が発見されたのは1771年頃。

日本で言えば、明治に入ってからだ。


 それなのに酸素がどうのと、言ったところでチンプンカンプンだろ。



「まぁ、簡単に言えば、オーク達が呼吸できないようにしたってことだよ」



「な、なるほど」



 ふわっとした説明で、流してしまうしかないな。

それがいい。そうしよう、これ以上は知識の無さが露見してしまう。


 やまだとしての威厳が、消えてなくなっちゃう。


 そして、問題となったオーク達の死骸はというと。

時間の経過と共に、溶けて地面に吸収されていき、魔石だけが残った。


 それらを拾い集めて、アイテムパックにしまい込むと。

俺とクリスティーナは、ダンジョンの奥へと進み始めた。


 ちなみに、魔石の数は52個あった。

目算よりも、だいぶ多かったようだ。


 後からも、どんどんと数が増えていたしな。




 緩やかな傾斜が続く、通路を進み続けると、幅5メートルほどの石材で組まれた橋が見えてきた。

その下には、水の代わりにマグマが流れている。


 落ちないようにおっかなビックリと、その橋を渡りきったところで。


 奥へと続くであろう、階段がその姿を現わす。


 一歩、一歩、慎重に降りていく。


 階段を降りきった所で見上げれば、一瞬、外に出たのかと錯覚するほどに、広い空間が広がっていた。


 風景こそ変りはしないが、球場くらいはあるだろうか。

天井なんて、体育館のそれよりもまだ高い。


 その中央に鎮座するのは、巨大な亀。


 高さにすれば、5メートルは越えている。

岩のような甲羅から、頭が出ていなければ小山と見間違えるくらいだ。


 遠目に、ステータスを確認っと。



種族:エンシャント・タートル

性別:男

ジョブ:フロアマスター

レベル:27

HP:930

MP:330

STR:195

VIT:420

INT:235

DEX:11

AGI:12



 ついに、フロアマスターと遭遇してしまったぞ。





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