第40話 第二章最終話 俺の耳元で種付けおじさんみたいな言葉囁くのやめてくれない?

「お、おま、お前なぁ」

「未来君、顔真っ赤だよ? なんなら唇にちゅーした方が良かった?」

「ぐ……最近反射神経がおじいちゃんになっていたから止められなかった」


 以前も彩夏の不意打ちを食らってしまったのだ。反射神経のトレーニング方法を調べておかねば。


「……それと、零ちゃんに殴られるぐらいは覚悟してたんだけど。なんでそんなにニコニコしてるの? 逆に怖いんだけど」

「え? ほっぺにちゅーぐらいは普通だよ? 私もみーちゃんが寝てる時にしてるし」

「私も!」

「待って? 今聞き捨てならない言葉が聞こえたんだけど?」


 二人を見るも、首を傾げられる。無駄に顔が良いの本当に腹立つな。


「あ、でも唇はダメだからね。みーちゃんのファーストキスになっちゃうから」

「「「えっ?」」」


 零の言葉に三人が困惑の声を上げた。


「……なんでそんなに驚いてるんだよ」

「いや、だって……え? ちっちゃい頃に零ちゃんに奪われてたとかじゃないの?」

「は、はい。お嫁さんごっことか、新婚さんごっことか……そういうのでやらなかったんですか?」

「待って待って、え? お兄ちゃんまだキスしてなかったの?」


 凄い困惑具合だな。特に新が戸惑っているのは珍しい。


「まだだよ。初めてのキスは結婚式でって約束したもん」

「その割には隙あらば狙ってくるけどな」

「みーちゃんが私をムラムラさせるのが悪い」

「性犯罪者の言い訳かよ」


 ……と。話していると、三人の雰囲気が変わった。


「……未来さん、初めてなんですね」

「そっか。未来君、まだだったんだ」

「お兄ちゃんの唇って美味しそうだよね。食べていい?」

「一人だけ露骨すぎるな。どうして許可すると思ったんだ?」

「あ、お兄ちゃん! 唇にさっき食べてたハンバーグのソースが! 舐めとってあげるね!」

「だとしたら俺めちゃくちゃ恥ずかしい事してるよ? さっきあのスクリーンに映されてたんだよ?」

「大丈夫だよ、お兄ちゃん。嘘だから。とりあえず目瞑って?」

「潔くてよろしい。目は瞑らんが」

「うぅ! お兄ちゃんのバカ! 鉄壁ガード! イケメン! 好き!」

「よしよし。お前が俺の事を好きなのは分かったから」

「えへへ……」


 頭を撫でれば新は何もかもを忘れる。ちょろすぎて将来が心配になる。


 それは置いておいて、俺は改めてスクリーンを見た。


 ……ハンバーグと肉じゃが。肉じゃがの札が三つ上がっている所であった。


「……という事で、第二試合は俺の冬華が勝利を収めました! しかし、今回は俺のやり方が悪く、お互い気持ちよく勝負は出来ませんでした。そこは本当に申し訳ありません!」


 舞台の上で飛輝が頭を下げた。


「……悪い奴では無いんだよな。ハーレムを作るぐらいだし当たり前か」


 飛輝が数秒の後、頭を上げた。


「次はもっとルールを改善します! その時はまた見に来てください!」


 飛輝の言葉に会場が沸いた。


「ほら、次もあるらしいぞ。良かったな、星」

「うん、次は絶対に勝つよ」


 星が力強く頷いた。それに微笑んでいると……



 来た。問題の第三試合。


「それじゃ、最後の試合、クイズです!」


 スクリーンに零と新、そして一条と早希ちゃんが映った。


「みーちゃん! 私も頑張ったよ! それと私だけ頭撫でてもらってない! 授乳手〇ンして!」

「支離滅裂な発言界隈でもトップを張れる発言だなおい」

「え? おしりに熱烈?」

「言ってない言ってない」

「でも気になってたりは?」

「男の子にその質問はずるいです」

「私もみーちゃんのおしりに興味あるから一緒だね。相思相愛だよ」

「世界一嫌な相思相愛だな」


 などと言っている間にもスクリーンの映像が切り替わっていく。


「お、ジャックナイフだ」

「ジャックナイフ君来た」

「じ、ジャックナイフ……くく」


「殺せ。埋めろ。あ、家のスマホとパソコンは潰して海の底に沈めてくれ」

「何言ってるの? そんな事言ってたらみーちゃんを縛り付けて目の前で四人でデータ見ながら羞恥プレイするよ?」

「誠に申し訳ありませんでした許してください」

「お兄ちゃんのスマホとパソコンの画像データと映像データは私がバックアップ取ってるからね」

「何してんの? そんなに俺をいじめたいの?」

「何当たり前のこと言ってるの? お兄ちゃん」

「あぁ……(絶望)」

「未来君……そんな言葉にしなくても」

「ちゃんとかっことじまで言うんですね……」

「やべぇ。つい厨二病の頃の癖があぁぁあああぁぁあああ」

「び、ビブラートの聞いた叫び……地味に高等テクニックです」

「ちなみにその叫び方もジーちゃんの頃の癖ね」

「やめろ! 略すな!その呼び方だと祖父の方になるだろうが!」

「なんだっけ、お兄ちゃん。『俺はジャックザリッパーと对となる男、ジャックナイフだぜ(イケヴォ)』だよね」

「お兄ちゃんね。そろそろ本当に死にたくなってきた」

「ダメだよ、みーちゃん。みーちゃんが死んじゃったらお墓にジャックナイフを置くからね」

「死んでも逃げ道無いのひどくない?」


 ああもう! さっさと次にいけ! ――イケッおらっ、イケッ! 孕めっ!


「俺の耳元で種付けおじさんみたいな言葉囁くのやめてくれない? 零」

「みーちゃんがイケッて言うからつい……」

「心の中で言ったんだよ? 俺」

「だから私もみーちゃんの心に直接語りかけたじゃん」

「当たり前のように超能力使うのやめてもろて」


 とか何とかやっている間にも映像が進んでいき……


「え、待て待て待て待て。彩夏と向こうの東城とでコラボしたの?」

「あ、はい。十問目の待っている間時間が余っていたので」

「oh……彩夏の生ライブ……しかもコラボとか見たかった」

「あ、未来君。動画撮っておいたよ」

「え、神。天才。星、後で見せてくれ」


 思わず肩を掴んでしまう。星の顔が真っ赤に染まった。


「分かった、分かった。顔近いから……ガチ恋距離だから」

「あ、ああ。悪い」


 思わず顔を近づけてしまった。


「言っとくけど星ちゃん、今のチャンスだったんだよ。みーちゃんの初キスを奪う」

「……! そっか……!」

「悪知恵を授けるんじゃねえ! 数少ないマトモ枠なんだぞ! 星も頷くな!」

「ねえねえお兄ちゃん」

「ん、なん――」


 振り向くと、すぐ目の前に新の顔があった。


「むぎゅ」

「やると思ったよ。何年兄妹やってると思ってんだ?」

「ぺろぺろ」

「舐めんな! ……ってこの流れどこかでやったな」

「ボクが転入してきた時ですね」

「そういえばそうだったな……待て。あの時の彩夏もなかなかおかしくなかったか?」

「初対面はインパクトが大事って沙良ちゃんに言われたので……」

「……そういえばどこかの番組で言ってたな」


 意外な所であの時の意図も分かった。


 そして、舞台を見れば……俺と飛輝が言い合いをしているところであった。


「……それにしても。二人はなんで正解してたの? やっぱり未来が読めるの?」

「私は未来を読むよりみーちゃんを食みたいな」

「私はお兄ちゃんとどろどろに混ざりたい!」

「ねえ、会話しない? talkしよ?」

「今fuckしてって言った?」

「言ってない言ってない。最後のkしか合ってないだろうが」

「薄目で見たら……こう。なんとか見えない?」

「見えんわ。というか言葉なんだよ。必要なのはリスニング力なんだよ」

「ああ、大丈夫。私入試の英語のリスニング満点だったから。なんなら全教科満点だよ」

「この天才が。じゃなくて、聞こえてるならお前らに会話する意思がないって事だろ」

「「てへっ」」

「人として致命的な問題をその三文字で終わらせようとするな」


 というかめちゃくちゃ無駄な会話をしているが。



 ……こんなにこの二人はふざけてるのだが。


 それでも、これは言わねばならない。一度、呆れをため息に含ませて全て吐き出した。


「零、新、星、彩夏。改めて言う。ありがとうな。最初に比べて随分と悪意の篭った視線が減った。……特に零。お前の事だからここまで考えて引き受けたんだろ? この対決」

「否定はしないよ。でもね、みーちゃん。一つ勘違いしないで欲しい事があるの」


 零が俺へと近づいてくる。すぐ目の前に零の顔が。


 ……だが。いつものようにいきなり押し倒してきたり、キスをしようとしてくる様子は無い。


「元々あるべきみーちゃんの評価がこれなんだよ。だから、私達はあくまでみーちゃんが頑張る手伝いを頑張っただけなの」

「……零」

「みーちゃんは今まで低い評価しかされてこなかったから。自分が身の丈に合わない評価をされてるんじゃ、とか考えそうだから言っとくよ」

「お前は……本当に」


 その頭を撫でる。


「……いい女だよな」

「ん。みーちゃんの隣に居るのに相応しい女だよ」

「俺を高く見すぎだ。……だが」


 零を見て微笑む。


「俺ももっと頑張る。お前に……お前らに釣り合うような男に」

「ん♪ よく言いました」


 零が俺の頭を撫でてきた。


「ここで私だけに釣り合うようにって言ってたら怒ってたよ。……みーちゃんの為にあーちゃんも、星ちゃんも、彩夏ちゃんも頑張ったもんね」


 気恥ずかしく思いながらも……俺は零の言葉に頷いた。


「……ああ。そうだな」


 出来れば……全員、幸せになって欲しい。倫理的な問題を抜きにすれば、俺が幸せにしたいぐらいだ。……だが、それは無理だろう。


 とりあえず、自分磨きは欠かさないようにしよう。……この四人に見劣りしないぐらいになるために。


 それと同時に、どうするべきなのか考えていこう。零達に相談しながらでも良い。


 その時、舞台の方から飛輝の声が届いた。

「という事で、この勝負は未来ハーレムの九条零、そして蒼音新の勝利です!」


 おおっと声が上がる。一拍置いて、飛輝が続ける。


「それじゃあ振り返りも終わった事で……改めて言いましょう」


 一つ、咳払いの音がした。


「結果発表おおおぉぉヴォッホ……グォホッゲホッ……オエ」

「締まらねえなあ! リベンジしろ! ちゃんと!」


 飛輝の二度目の挑戦も失敗に終わった。


 噎せる音が続き……隣に一条が来て飛輝の背中をぽんぽんと優しく叩いた。


「ウェホッ……アホッ……あ゛ぁ゛。ンゴホンッ。ありがとな、百花。それじゃあ改めて、けっ「もうええわ!」」

 つい大声でツッコんでしまった。

「……? ……! どうも、ありがとうございました!」

「コントの終わり際でもねえよ! さっさと結果発表しろ!」


 俺の言葉に飛輝が笑いながら頷いた。

「ああ、そうだな。面倒になってきたから口調も戻すぞ」


 やっと本筋へと戻る。


「それじゃあ一回戦目! 東城樹里VS切長彩夏は切長彩夏の勝利!」


 スクリーンに二人の画像が映る。東城にLOSE、彩夏にWINと表示された。


「次に第二試合目! 姫内冬華VS西綾星は姫内冬華の勝利!」


 画像か切り替わり、今度は姫内にWINが付いた。


「それで最後に一条百花、紅露早希VS 九条零、蒼音新は九条零、蒼音新コンビの勝利!」


 そうして画面が切り替わっていき……急に俺達が映し出された。



「結果! 一対二で未来ハーレムの勝利です!」


 おおおおお、と一段大きい歓声が響いた。



「それじゃあ代表して未来、舞台に上がってきてくれ!」


「ほら、呼ばれてるよ。みーちゃん」

「……ああ、行ってくる」


 零達に背中を押され、俺は舞台へと上がる。



「それでは未来。何か言いたい事とかあったら言ってくれ。感想でも何でも良いぞ」

「……ああ」


 俺は飛輝からマイクを受け取る。



 一度、深呼吸をしてから。俺は口を開いた。


「……まず最初に。零達が勝ってくれて嬉しく思う。――それと同時に、悔しくも思う」


 やけに喉が乾く。口の中がカラカラだ。


 それでも、俺は喋らないといけない。


「どうしてこんな奴にあんな可愛い子が近寄るんだ、って考えてるのは大勢居ると思う。……俺も当事者でありながら、その一人だ」


 一度、咳払いをした。視線は泳がせない。ただ一点を見る。


「今回で、彩夏の、星の、新の……そして、零のスペックの高さを改めて確認した。だからこそ、悔しいんだ」


 この場に出れたのなら、ここに来てくれた人にこの事は伝えたかった。


「俺が一番、零達に釣り合っていると思っていない」


 勉強は程々。運動も程々。それ以外も出来ては居ても、一流には遠く及ばない。


 努力は欠かしていなかったし、欠かすつもりも無い。


 それでもまだ、四人には遠く及ばない。その事が分かった。


「だからこそ、ここで言わせて欲しい。俺は、零達と釣り合うような男になる!」




 一拍、置いて。





「「「「おおおおおお!」」」」


 今日何度目かの歓声が上がった。


「俺は応援するぜ!」

「俺もだ! 最初は気に食わないと思ってたがな!」

「私も!」



 そんな声を聞いて、俺はホッとする。


 飛輝にマイクを返すと……飛輝は言った。


「俺は凄いと思ってるぜ。もう今の段階で十分、あの四人と釣り合っている。……あの四人を見ていればそれも分かるさ」

「……そうか。ありがとな」


 飛輝が手を差し出してきた。


「だが、それはそれだ。次は絶対に負けないからな。ちゃんと二回目も出てくれよ?」

「ああ。次こそ完全勝利をしてやるよ」



 俺達は握手をした。




 そうして……ハーレム対決は終わったのだった。




 ◆◆◆



 会場が盛り上がる中。他とは違う反応を示している影が二つあった。




「……気に入らない」


 一人はつまらなさそうに未来の姿を見ていた。その目は鋭い。しかし、冷えきっている訳では無い。


 その姿は何かを妬んで……怒っているようにも見えた。


「あんな男に騙されて……絶対にそのドス黒い下心をさらけ出させてやる」


 そうして、その少女はその場から去った。










 そのもう一方で。一人の少女は潤んだ瞳で未来を見ていた。


 その少女は、ほうっと熱い吐息を漏らした。

「……未来君。相変わらずかっこいい」


 その瞳には狂気の色が孕んでおり、それ意外は視界に映っていない。



 そんな瞳の色が変わった。


「でも、悪い子だよ。未来君は。あんなにたくさんの女の子を誑かして」


 少女の表情が歪んでいく。何かに怒っているようで……妬んでいるように。


「でも、大丈夫だよ。私は許してあげる。……だから。待っていてね」




 少女は舞台に背を向けた。


「すぐ、迎えに行ってあげるから」








 第三章 『ヤンデレとツンデレ(デレ抜き)』に続く

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