白兵戦

 鼻口を手で抑えたくなるほどの粉塵が舞い、視界もままならない中、華澄由子を中心に集まった者たちが一堂に会する。


「これじゃ何が何だか」


 万屋がピエロのマスクを外して、視界の確保に走った矢先、山岸の手刀が首筋を襲う。予期しない死角からのダメージは、冷や水を浴びせられたかのように身体の自由を奪い、万屋はあえなく床へ突っ伏す。アルファ隊の動きは鮮やかだった。吸血鬼の臭いを正確に嗅ぎ取り、粉塵に紛れて奇襲をかける。


 金井も吸血鬼の背後を取ろうと動くが、


「おっと、それはうまくいかないぜ」


 双子の吸血鬼は互いの背中を守る、補完関係にあり、金井の奇襲を見事に防いだ。


「チッ。吸血鬼よぉ、群れてんじゃないよ」


「群れる? 家族なんだから群れて当然、守って当然。自然の摂理だろうが」


 金井の額に一筋の汗が流れる。双子の吸血鬼は、流れるような攻防を織りなし、反撃の隙を与えない勢いがあった。金井はひたすらソレをいなしつつ、動きに目を慣らしていく。一人が攻撃に転じると、一人が守りに徹する。流麗な身体の入れ違いは規則的ともいえ、互いを慮った二人の隙間に腕を突っ込めば、ボタンを一つ掛け違えたかのように阿吽の呼吸が乱れた。


「?!」


 精緻に連動した双子の吸血鬼は少しの乱れが波状していき、忽ちコントロールを失う。金井はすかさず、双子の吸血鬼を一つにまとめる蹴り払いで反撃した。双子の吸血鬼は糸のように絡まりながら床を転がって、消沈する。


「さぁ、次!」


 床を破壊し、状況の攪拌を図ったイロウの判断は素早く理に適った行動だった。迎え撃つ構えであった八人の吸血鬼の虚をつき、まんまと白兵戦と持ち込んだ。


「アンタがボスかい?」


 イロウは華澄由子を前にして、先程までの思い切りの良さを剥落させ、慎重な構えを見せる。


「いや? どちらかと言うと、隠し味かな」


 華澄由子はこの状況に些かも慌てる様子がなく、イロウとの会話を悠々とこなす。不気味なまでの落ち着きにイロウは強い警戒心を抱いていた。


「どれくらい食ったんだ? 人間を」


 イロウは華澄由子が持つ力の幾ばくかを測ろうと直裁に尋ねる。


「私に聞かないで、こっちに聞けば?」


 そう云うと華澄由子の脇から、ピエロのマスクを被った吸血鬼が飛び出してきた。イロウが思わず防御姿勢をとるほどの速度でもって、間合いを詰めるピエロは、腕と足で身体全体を守るイロウを前蹴りで吹っ飛ばす。

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