7. 女神様はおっしゃいました

7. 女神様はおっしゃいました





 そして翌日。昨日はどこかの誰かさんのせいで、散々だったせいか目覚めがあまりよくない。


「んー……」


 布団を頭まで被って寝ていたのだが、それでも暑いのでゆっくりと起き上がる。


「ふわぁ~……ねむ」


「おはようございます。ずいぶん遅くまで寝ているんですね?あまり感心しませんけど。」


「あーおはよう……」


 私の耳に入ってくる声は、いつものギル坊の声ではなく、可愛らしい女性の声だ。しかしその声の主が分かると一気に不快に感じた。


「はぁ!?ディアナなんであんたがここにいるのよ!?」


「事情を説明させてもらい、ギルフォードさんに中に入れていただきましたが?あっギルフォードさんならルナさんと買い物に行くと言ってましたよ?デートですかね?一応伝えておきますよ」


 あのガキ……帰ってきたらアイアンクローをかましてやるわ!


「とりあえず早く起きてください。まだ昨日の話、終わっていませんよ?」


「私は話すことなんてないわ!さっさと出てけ!」


 そう言って私は扉の方へ押し出す。すると抵抗なく出ていくと思ったのだが、ディアナは足を踏ん張らせ、私を押し返してきた。


「ぐぬぅうう!!」


「ふふっ無駄ですよ?この程度の力で私が動くはずがないでしょう?」


 なにこいつうざいんだけど。それになんかムカつく。こうなったら力ずくでも追い出してやろうと思い、腕に力を入れる。だがその瞬間にディアナは素早く動き、私の足を払ってきた。


「きゃっ!?」


 予想外の出来事に反応が遅れてしまい、そのまま床へと倒れ込む。その際顔を打ったため鼻を押さえながら痛みに耐える。


「いったぁ……」


「すみません。ある程度の護身術は身に付けているので?それより、さっきまでの威勢はどうしたんですか?」


「うるさい!!いいから出てけぇええ!!!」


 そんなこんなで私は着替えやら色々準備をしてディアナを再度部屋に入れることにした。私は大人だから、簡単に無下にはしないのだ。決して面倒になったとかではない。本当だから。


「っで話って何よ?」


「あっこれ美味しい。香りもいいですし、どこのお紅茶ですか?」


「話す気がないなら、もう帰ってくれないかしら?」


「なぜそんなに怒ってるんですか?身体に良くないですよ?」


 あんたのせいなんだよ。しかも私は普通ですけど?みたいな顔をやめてくれないかしら?本当にムカつくわね。


「はぁ……それで要件は何よ?」


「あっその前にこのお紅茶のおかわりをいただきたいのですが?」


「…………はいはい分かったから。ちょっと待ってなさい」


 なんだこいつ?めっちゃ図々しいじゃん。まあ紅茶くらい出してあげるけどさ。


「あんたって本当に図々しいわね」


「良く言われます。でも自分の信念を貫くことは良いことだと昔から女神様もおっしゃってましたよ?」


「あんたのは信念でもなんでもないわ」


「それなら将来は我慢しないで生きていくことをおすすめしますよロゼッタさん?」


 私も大概自由に生きてきたけど、こんなに遠慮を知らないやつは初めて見たかもしれない。というより、ここまで自由人だと逆に尊敬できるレベルだわ。


「ロゼッタさん。私、昨日あなたに言われたことを考えたんです」


「私何か言ったっけ?」


「あなたが昨日私に『だったらあんたがどうにかしなさいよ』と。確かにそう思いました。私は今まで無益な争いや戦乱を『聖女』として止めてきたつもりです。でも、世界を救おうなんて考えたことはありませんでした。」


「回りくどいわね。何が言いたいのよ?」


「私は自分が世界を救う英雄になろうなんて思っていません。それでも人々が幸せに生きていくには『黒い魔力』の解決が必要。だから私はあなたと共に旅に出て、原因を探り解決しようと思います。『黒い魔力』を感知できるほどの魔力の持ち主なら私に協力してください。」


 は?いきなり何を言い出すんだこいつは?意味分かんないし。なんでこいつが私と行く必要があるわけ?


「何を勝手に決めているか知らないけど、私はあんたとは行かないわよ?『黒い魔力』の問題を解決したければ勝手にどうぞ」


「ただでとは言いません。もしあなたが協力してくれるのなら、ギルフォードさん、ルナさんを私が必ず守ると約束しましょう。それならあなたの負担が減りますよね?」


 確かに魔法都市への旅路はそう簡単なものじゃないし、危険も伴う。ディアナは聖女で私の魔法を防ぐほどの強力な防御魔法も使える。もちろん回復魔法も。道中の安全度は格段に上がるだろうし……。悪い条件じゃないのは事実。


「あんたはそれでいいの?聖女が魔女と行動するなんて、世間がなんて言うか知らないわよ?」


「私には覚悟があります。それに昨日あなたも言ってましたよ?自分の物差しではかるなって?周りの風評被害くらい私が説き伏せてみせますよ」


 はぁ。私はディアナを少し誤解していたのかもしれないわ。こいつの性格上、すぐには信用できないと思っていたけれど、意外と芯が通っているみたい。


「はぁ~分かったわよ!その代わり、ギル坊とルナを守ること。そして私に必ず協力すること。それが条件よ!」


「分かりました。交渉成立ですね。これからよろしくお願いいたします」


「はぁ。本当になんでこんなことに……」


「あ。お紅茶のおかわりをいただきたいのですが?」


「もう自分で勝手にいれなさいよ!」


 こうして魔女の私と聖女のディアナの旅が始まるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る