4. 駆け出し魔法槍騎士

4. 駆け出し魔法槍騎士




 そして次の日。私はギル坊と共にギルドに向かうことにする。昨日良く考えてみたらギル坊が自分の意志で私に意見をしたのは初めてのことだ。私は隣を歩くギル坊を見ると、私があげた魔法書を大事に持ち歩いているのが微笑ましい。


「ん?なんですかロゼッタ様?」


「なんでもないわよ」


 ギル坊は本当に可愛い子だなぁ。そんなことを思いながら私たちはギルドに到着した。ギルドに入ると受付嬢が駆け寄ってきた。


「あ!ロゼッタさん!!ちょうどよかった!」


「え?どうしたのかしら?」


 受付嬢が慌てている様子に疑問を持ちつつ、私は事情を聞くことにした。すると受付嬢は焦った表情のまま説明してくれた。


「実は……東の洞窟に『黒い魔物』が目撃されて、このギルドの冒険者が相次いで怪我をして困ってるんです」


 昨日の話しは本当のようね。とりあえず詳しく聞こうかしら。


「その魔物の特徴とかわかるかしら?」


「はい!その魔物の特徴は黒い大きな体に大きな爪と牙を持っていて……」


「おい!それはもうわかったから早く行こうぜ!!」


 話の途中で、カウンターの奥で冒険者同士がやり合っている。


「まてよお前!これは重要な情報なんだぞ!?俺らが先に聞いたんだから少しぐらい譲れよ!!」


「うるせぇな!!俺だって大事な情報を聞かせてもらってんだよ!!」


 2人の言い合いが始まり、周りもそれに気づき始めたためギルド内は騒然となった。私はその様子を見て大きく息を吐いた。


「はぁー……2人ともやめなさい」


「「ッ!?」」


 2人は私の言葉を聞いて黙り込んだ。それを見た周りの冒険者たちはホッとしたような顔をしていた。私は2人に近づいていき静かに言った。


「あなたたちがどんな理由で喧嘩してるかなんて知らないけど、ここはギルド内よ?そんなことで騒いでたら他の冒険者に迷惑でしょう?」


「「す、すいません……」」


 まったく。近頃の若い奴らはマナーがなってないわね、と思いながら受付嬢の方を見る。すると受付嬢は苦笑いをしていた。


「ごめんなさいね、話の続きをお願いできるかしら?」


「あ、はい。えっとですね、それで特徴なんですけど、その魔物は洞窟から出てこなくてずっと中にいるみたいなんですよ」


 ふむ。日に弱い魔物なのか、それとももう縄張りを確立したか……どちらにせよ早めに手を打っておかないと厄介ね。


「わかったわ。それなら私が様子を見てくるわ。」


「ほ、本当ですか!?ありがとうございます!!」


 受付嬢はとても嬉しそうな顔をしながら頭を下げた。私はその姿を見て満足しながら、ギル坊を連れて外へ出た。外に出るとギル坊は不安そうな顔をしていた。


「ロゼッタ様……。大丈夫でしょうか……」


「はぁ?あんたがこの依頼気になるって昨日言ったんじゃない。怖じ気づいたの?情けないわねぇ」


「そ、そうじゃないです!!ただ心配なだけで……」


 ギル坊は必死になって否定する。その姿を見るととても可愛く思えて仕方がない。私はそんなギル坊を見て微笑みながら答える。


「大丈夫よ。危険ならすぐに引き返すし、あなたは私が守ってあげるから」


「……はい!!」


 うん。やっぱり笑顔が一番いいわよね。私はギル坊と共にギルドを出て行く。しばらく歩いていくと目的の東の洞窟が見えてきた。するとその洞窟の前に1人の少女がいた。


 彼女はこちらに気づくと話しかけてきた。


「あっ!あなたたちもギルドの冒険者ですか!?」


「えぇ、そうだけれど……」


「よかったぁ!!実は私も依頼を受けた冒険者なんです!!」


 そういうことか。彼女もあの話を聞いていたのだろう。私は納得しつつ彼女の方を見つめる。年齢はおそらく16歳ぐらいだろうか?茶色の長い髪で身長は150cmくらいで小柄だが胸は大きくスタイルが良い。


 そして特徴的なのはその瞳だ。青い綺麗な目をしているのだが、なぜか片方の目だけが赤いのだ。まるで左目が青くて右目が赤という珍しいオッドアイのような感じだ。そんな不思議な魅力を持った女性だった。


「あの……もし良ければ一緒に『黒い魔物』を討伐しませんか?私がパーティー組んだ方々は怖じ気づいて逃げ出してしちゃって……」


「その前にあなたは?」


「あっ!すいません!自己紹介がまだでしたね!私はルナ。ルナ=ノワール。駆け出しの魔法槍騎士なの!夢は魔法都市で有名になること!よろしくね!」


 ふーん。魔法都市かギル坊と一緒ね。でも……


「ごめんなさい。私たち急いでいるから」


「えっ!?ちょ、ちょっと待って!!」


 私たちはそのまま歩き去ろうとすると、慌てて呼び止めてきた。


「どうして断るの!?同じ冒険者同士助け合おうとは思わないの!?」


「残念だけど、あなたの実力じゃ足手まといなのよ。大人しく街に戻りなさい」


「そんな!ひどいですよ!!私の何がいけないんですか!?」


「あの……ロゼッタ様……少し可哀想ですよ」


「嫌よ。私は面倒な事が嫌いなの。」


 うーん……どうしようかしら。本当に危険かもしれないし、ギル坊の他にこの子まで守るのは面倒だから断ってるんだけど。でも、このままだとしつこく付きまとわれそうね。私は少しだけ考えると、あることを思いついた。


「それなら、私と勝負して勝てたら組んでもいいわよ?」


「本当!?わかりました!!ぜひやりましょう!!」


「えぇ、もちろんよ。場所はここでいいわね?」


「はい!構いませんよ!!」


 軽く一撃を与えれば諦めるでしょこの子も。私とルナはお互い距離を取って武器を構える。私は杖を構え、ルナは背中に背負っていた槍を構えた。


「それでは始めますよ?準備はいいですね?」


「ええ」


「行きます!!」


 そう言うとルナは地面を蹴って飛び上がりながら槍を突き出してきた。私はそれを避けると、さらに連続で突きを放ってきた。それを全て避けると、今度は私に向かって走り出していた。


「ハァッ!!」


「ふんっ!!」


 ガキンッ!!基礎的なところはできるみたいね?それでも……全然甘いわ。私はそのまま左手で魔方陣を描き魔法を放つ。


「終わりよ火炎魔法・ファイアブリッド」


 炎の弾丸を放ち攻撃するが、なぜか私の魔法はそれてしまう。それを見たルナはその隙に一気に距離を詰めると槍を振り下ろした。


「あっ……」


「やった……私の勝ちですね!やったやった!」


 凄く喜ぶルナ。それよりも私はギル坊を睨み付けるように見る。それに気づいたギル坊は冷や汗を流しながら目をそらす。ギル坊のやつ、やりやがったわね。咄嗟に風魔法で私の魔法をそらしたのね。しかもあんな無茶苦茶な軌道で。おかげでローブが焦げそうだったじゃないの。


 私は怒りを込めてギル坊に近づくと、ギル坊はビクつきながらも必死になって言い訳を始めた。


「ち、違うんですよ!あれはわざとじゃなくて!!ほら、あのままロゼッタ様の魔法を受けてたら危なかったですから!!」


「うるさい!!あんたのせいでこんな面倒なことになったのよ!!」


「痛い!痛いですよ!!」


 私はギル坊にアイアンクローをする。しかし、すぐに手を離すとため息をつく。


「はぁ……もういいわ。私はロゼッタ。魔女よ」


「はい。えっと……」


「ギルフォードです!ルナさん!」


「うん。ギル君にロゼッタ様。よろしくね!」


 顔を赤くしているギル坊。まったく……私はまだ怒っているんだからね?そんなに胸がいいか!このマセガキが!大きけりゃいいもんじゃないのよ!とか思いつつも、威力を抑えたとはいえ、私の魔法を弾くほどに成長しているギル坊を見て少し微笑ましくなるのだった。

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