EPISODE3 『コーラルピンクの中に、優しいレモンイエローが見えますね』

 ボクは、ショッカクから落ちてきたソレを受け取り、目の前に見やすいように掲げました。確かに前回の丸みを帯びていただけのソレよりも、少しだけ持ちにくさを感じましたが、前回が異端だったので、いつものソレはこんな感じだったなぁ、と冷静に思いましたけど。

 

 「どうどう?何色に見える?」

 横にいるショッカクが急かしてきます。ボクはその声に『少し待ってください』と言って、じぃっとソレの中を見つめました。


 始めに見えた色は、派手さにはやや欠けるものの、それでも色鮮やかに世界を彩るコーラルピンク。……だけでは無いですね。奥の方に、もう一色。とろけ、たゆたうようなコーラルピンクの奥の方、少しずつグラデーションがかって奥にいくほどに鮮やかに見えるその色は、パステルカラーの中でも元気な彩色のイメージがある、レモンイエローです。


 「コーラルピンクの中に、レモンイエロー、ですかね」

 「え!? こんなにトゲトゲしてるのに!?」

 「……まぁ、ソレにはよくあること、じゃないですか」

 「……確かに」


 今回は前回と違ってちゃんと色の見えるソレに、安心を覚えました。前回の異端のソレが続くようなら、と内心少しだけ怖かったのですが、今回はちゃんと色も見ることが出来たので。


 「また、みんなの所を回るんですよね?」

 ボクがショッカクに聞くと、ショッカクは頷き答えました。

 「もちろんそのつもり。今日はちゃんと温度と形がわかったから、初めにどんな色か気になってシカクの所に来た」

 「なるほど、そういうことでしたか。そしたら次はだれに見せに行きましょうか?」

 その問いに、ややあってからショッカクは答えました。

 「キュウカクの所に行ってみない? トゲトゲの件だけ、ちょっと気になってて」

 「なるほど。そのトゲトゲが嫌なものなら、キュウカクが『嫌な臭い』を感じ取るかもしれない……ってことですか?」

 「うん」

 「良い案だと思います。早速キュウカクの元へ行きましょう」

 そう言って今まで抱えっぱなしだったソレを一度、ショッカクの元へと返しました。ショッカクが『えー、これボクが持つの……。チクチクして痛いんだけど……』と零したので、結局ボクが抱え直すことになりましたけど。


 キュウカクはいつも家の中でたくさんの香りに囲まれて暮らしています。彼の家の中にはたくさんの試験官があって、今まで香ってきたいい匂いのするものをたくさん閉じ込めているのだそうです。お花や緑の葉っぱ、ギリギリでお醤油までは理解できますが、マニキュアは理解に苦しむなぁ……とボク的には思っています。……シンナーの香りが少々苦手なんです。


 チャイムを鳴らすとキュウカクが顔を覗かせました。

 「やっほー、キュウカク!」

 「キュウカク、今日もソレが落ちてきました」

 「あ、ショッカクさんにシカクさん!」

 キュウカクは一度ボクの抱えていたソレに目をやると、『今度は大丈夫ですよね?』と聞いてきました。

 「はい。大丈夫です。ボクも、コーラルピンクとレモンイエローが見えています」

 「ボクも、温かくて、だけどちょっとだけチクチクするのが気になってさ……」

 僕らの言葉を聞いて少し安心した顔のキュウカクは『シカクさん、オレにも貸していただけますか』と言って、ボクの腕からソレを受け取りました。

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