第42話 銀の創造主

 ブラックホールの中は、きっとこんな感じだろう。

 ここには、光が無かった。

 なぜ、光が無いのか?

 この部屋に居る者が、必要ないと言ったからだ。

 この部屋に居る者、それはこの銀の塔の創造主だった。

 銀の塔の創造主、これからは、銀の創造主と呼ぼう。

 部屋には、光が無いので、銀の創造主を見た者がいない。

 もちろん、ここが銀の塔の何処にあるかも分からない。

 銀の創造主はどこから来たのか、誰も知らなかった。

  

 銀の創造主は、人間界の技術は自分が最初に発明したと主張していた。

 ただ、人間は自分たちが発明したものと勘違いしているにすぎないとも言っていた。

 人間界では、別の者が発明したことになっていて、膨大な利益得て、称賛されていた。

 銀の創造主は、それをよく思ってはいなかった。

 なぜなら、発明をしたのは自分だからで、称賛されるのは自分なのだと考えたからだ。

 称賛されないのなら、自分の力を分からせてやろうと考えた時に、銀の塔が生まれた。

 銀の創造主が、人間界に新しい発明を送り込む(発明そのものではなく、多くはきっかけを与えた)と、銀の塔は成長をしていった。

 人間は、その発明を使い、貧富の差を生み出そうと、経済的な共食いを始める。

 創造主は、その様子を見ると愉快だった。

 圧倒的な優越感。それが、創造主の喜びだった。

 発明が、人間界の成長を停滞するために使われた時、笑いが止まらなかった。

 多分、復讐が果たされた時の感情に近かった。


 コンピュータの発明は、銀の塔を成長させた。

 人は、一人ずつその掌に小さな窓、フレームを持つようになった。

 人は、このフレームから送られる情報に魅せられていった。


 このフレームと言う概念は、すばらしい発明だった。

 絵画は、このフレームを境に別世界を感じさせてくれた。

 物語は、文章上のフレームを通して、読者に別世界を創造する喜びを与えたいた。

 しかし、このすばらしいフレームの使い方をマイナスに使い始めたのだ。


 それは、フレームを掌に収まるような大きさにし、個人一人ひとりに持つようになった為だ。

 これが、銀の塔を急速に発達させた。

 掌に収まるフレームが悪い訳ではない。使い方、使われ方が悪かったのだ。

 その小さなフレームはから、送られる過剰な写真や映像は、時間と想像力を欠落させていった。

 真実か虚実かも分からない情報や罠や誘導による富の略奪が始まったからだ。

 隣の人とも話さず、小さなフレームの事しか信じなくなり、それが、洗脳という危険もあるというのに。

 この小さなフレームは、直ぐ近くで起きている事件や戦争までも、遠い過去か未来かさえも判断できなくなった。

 自分はその場にいないという安心感が、自分さえという考えを植え付け、何もしても感じなくなるのだ。

 対岸の火事のように。

 人間は、集団脳として生き残るに成功してきたのに、その策を簡単に捨て去るか。

 そのことが、人間の発達を止めることが容易にしてしまった。

 小さなフレームは、残念ながら人間を孤立化させる方向に向かっている。

 それこそが、銀の創造主の願うところだった。


 銀の創造主は、侵入者と捉えてきた人間が気になっていた。

「侵入者は、どうした?」

「ノウム様の部屋へ、連れて行きました。オルクスより、問合せが来ています。侵入者を確認したが、創造主様の許可は降りているのかと」

「許可は出していないが、ノウムが色々と調べてくれるだろう」

「いったい、彼らは何者なのです?”バルバルス”が壊されたので心配です。画像を送ります」

 銀の創造主は、画像を見つめた。

「こいつらか……。絶対にこの塔から出すな!絶対だ!」

「了解です」

「ノウムの部屋には、捉えてきた者も居るのか?」

「コックとパテシエともう一人の三人です」

「もう一人?」

「ぬいぐるみを着た小さな子供ですよ。確か……パイロとか」

「何、パウロも居るのか!なぜ、早くそれを言わない。ノウムとパウロだけは、会わせてはならないのだ。ノウムがもしも」

と、慌てて口に手を当て、言いかけた言葉を飲み込んだ。

「彼らをここから出すな!”バルバルス”を出せ!ここから出してはならん!」

「ノウム様が拒まれましたらどうしましょう?」

「私の命に逆らうなら構わぬ。その時は、ノウムを始末してもよい」

 銀の創造主は、拳を握りしめ立ち上がった。

 ボディの隙間から細い肌色の足が覗いたが、光のない部屋なので、見た者は居なかった。

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