告白

前野先生の車の助手席に、乗り込んだ。


「ごめんね、情けない所を見せてしまって」


「情けなくなんかないです。」


「そうか、今だってまだ泣ける」


「泣いていいんですよ。先生」


「ごめん、送るよ」


「私、先生が好きです」


「伊納、こんな時に冗談はやめてくれ」


「冗談なんか言いませんよ。先生」


私は、先生のハンドルに置いた手を握りしめた。


「ごめん、それは」


「別にいいんです。送って下さい」


私は、ニコッと微笑んだ。


その日をきっかけに、先生はあっという間に弱っていった。


それは、明日から夏休みが始まる前の日の出来事だった。


「前野先生、弱ってるな」


「まだ、早乙女先生。目が覚めないから」


「そっか」


「今日、日直だから、ちょっと遅いから待っててよ」


「無理だよ」


「上條、なんで?」


「今だろ?もう、ひとおしするなら」


「何言ってるの?」


「最後の夏休み、先生と過ごせるかも知れないだろ?頑張れよ」


そう言って、上條は笑った。


その言葉通り、上條は待ってくれなくて…。


私は、一人教室でボッーとしていた。


やばい、渡しに行かなきゃ


「伊納、日誌。時間かかってるか?」


前野先生が、やってきた。


「すみません、これです。」


誰かに、足を掴まれたような感覚がした。


ガタッ、ガタン…


「イッタ」


「伊納、大丈夫か?」


「大丈夫です。」


ズキン


「イッ」


どうやら、捻挫をしたらしかった。


「足挫いたか?」


先生は、椅子に座らせてくれた。


「保健の先生、帰っちゃったんだよ。どうしようか?」


「こんなのたいした事じゃないですから…。」


「立てるか?」


立つと激痛が走った。


「先生、大丈夫ですから。これ、どうぞ」


気持ちもないのに、優しくされるのはウンザリだった。


「伊納」


「私、帰ります」


フラッとして、先生に抱き締められた。


「伊納、大丈夫か?」


もう、抑えられなかった。



「優しくしないで、私の気持ち知ってますよね。あれから、何ヵ月経ったと思ってますか?ここが、さらに先生でいっぱいなんです。だから、離して下さい」


涙が、ボロボロとまらなかった。


「伊納」


「離して下さい」


「嫌だ」


えっ?何で、そんな事を言うの…


「先生?」


「伊納の気持ちが、嬉しかった。私は、もう駄目だ。気力がどんどんなくなっていく」


先生は、学校では私を使う。


早乙女先生には、俺だったのに…


私は、先生を抱き締めていた。


「どうして、欲しいのか言って下さい」


「少しでいいから、私の元にいてくれないか?」


「はい」


私は、先生を強く抱き締めた。


純愛だったのだろか?


そんな、純粋なものじゃないって思う。


キスだって、その先にだっていきたかったもの


私の身体全てを先生にしたかったんだもん…。


先生は、弱っていた。


だから、判断をミスしただけ…


「伊納、送るよ」


そう言われた。


私は、教室で先生を待っていた。


「立てるか?」


「はい、イッ」


「足は、つけそうにないな。こっちにもたれて」


「はい」


私は、先生に体重を預けた。


他の先生には、病院に連れていくとでも言ったのではないだろうか?


私達を怪しく思う人は、いなかった。


「手当てしなくちゃな」


「寝てれば直りますから」


「そうか」


先生は、車のエンジンをかけた。


窓の外の景色が、家の近くにかわる瞬間。


私は、先生に声をかけた。


「先生、私。」


「どうした?」


「夏休みを全て下さい。私に」


「伊納」


「お願いします。この夏休みだけでいいですから」


「いいよ。伊納」


先生は、笑ってくれた。


「じゃあ、待ってて」


私は、ケンケンで家に帰った。


「円香、大丈夫?」


「お母さん、今日から上條の家に勉強で泊まるから」


「いつまで?」


「一週間ぐらい」


「なに、それ。急に」


「ごめん、今日決まったの」


「まあ、いいわ。好きにしなさい」


上條は、この家にとって無害だった。


私は、先生の車に乗った。


「先生、その家でおろして」


「ああ」


私は、インターホンを鳴らした。


「わかった。楽しんで」


上條は、私の嘘を応援してくれた。




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