【完結済】桜の季節に失くした恋と…。【仮】

三愛紫月

桜の下の天使

桂木丈助、一ノ瀬倫

「蕪木、死ね」


グサリと刺さった刃物を見つめた。


人違いだ。って、犯人は気づかずに行ってしまった。


蕪木祥介かぶらぎしょうすけの家から出てきた俺、桂木丈助かつらぎじょうすけは、全くの見ず知らずの他人に刺された。


5歳から40年間の腐れ縁の幼馴染みは、とにかく手癖が悪かった。


特に、あそこのテクニックに自信があるせいか女に対する手癖が酷かった。


俺は、祥介のせいで結婚すら出来ずにいた。


死ぬんだな、俺。


刺された腹を庇いながら、蕪木の家から500メートル先にある桜の木にもたれ掛かった。


手にヌメヌメと纏わりつく俺の血を桜の木に塗りつけていた。


「やべーな。俺、死ぬわ」


スマホを落としたせたいで、救急車に連絡すら出来なかった。


「結婚ぐらいしたかったし、長く続く彼女の一人も見つけたかったなぁー。いてーわ。マジで」


クラクラしてきた、意識はぶっ飛びそうだった。


「大丈夫ですか?救急車呼びますね」


何か、綺麗な人だな。


「これ、天国?」


「しっかりして下さい」


白色の天使に、桜の花がハラハラ舞い落ちてきて、驚く程に美しかった。


.

.

.

.

.


「目、覚めましたか?」


「はっ、死んだか?俺」


「あー。大丈夫です。生きてまーす」


変わった先生は、けだるそうな話し方をしながら、俺にそう言った。


「生きてんのかよ」


「死にたかったですか?自殺ですか?」


「いや」


「そうですか、では」


医者は、部屋から出ていった。


祥介のせいで、仕事をクビになったばかりだった。


あいつは、ガキの頃から俺を利用していた。


スゲー、金持ちじゃないけど…。


俺の親父はリストラ後、祥介の親父が経営する小さな居酒屋に再就職した。


これが、俺の地獄の始まりだった。


中学一年の頃だった。


「丈助、悪いけど。寺谷に殴られてきてくんない?」


「はあ?何でだよ」


「亜由美とったのキレててさ。丈助でもいいってさ」


「ふざけんなよ」


「親父さん、クビになってもいいのかな?」


「あー。もうわかったよ」


俺は、祥介の為に殴られに行った。


権力を持つ人間は、恐ろしい事をこの時に学んだ。


父親は、高一の夏に居酒屋の常連の女と失踪。


母親は、高2に入ってすぐパート先の店長と駆け落ちした。


俺は、一人っ子だった。


両親は、二人とも天涯孤独だった。


俺は、蕪木の親父の居酒屋で働きながら高校を卒業した。


大学に行かずに、就職をするも…


「困るんだよ、毎回毎回」


職場に、祥介の女の彼氏がかけてきてクビ。


何度も、クビになった。


で、昨日


「お前さ。もー。子供いんだしさ」


祥介の親父は、居酒屋をチェーン展開させた。


「無理無理、一人とか無理だから」


と言われた。


45歳の俺を路頭に迷わせても不倫がしたい、イカれた幼馴染みが大嫌いだった。


で、刺された。


借金、1000万、無職。


「死ねばよかったな」


俺は、窓の景色を見て呟いた。


「その借金チャラにしてやるから、また、丈助が謝ってくれる役してよ。」


と祥介に言われた。


断って、家を出たら、間違いで刺された。


馬に蹴られて死ねとかなんとか、ことわざなかったか?


あれ、俺の事だわ。


安くても、生命保険入っててよかったわ。


刺されたら、でんのかな?


そもそも、実費か?


わかんねーな。


貯金ねーし、どうしたもんかな。


俺は、頭を掻いた。


とりあえず退院したら、スマホを再発行だな。


再発行って言うのかな?


俺、蕪木に使われ過ぎて相当頭悪くなってるよな


いや、元から悪いのか?


よく、高校いけたレベルだったしな。


まあ、いいよな。


とりあえず、家はなくなってもここにいるし。



神様どうか、蕪木祥介に見つかりませんように

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る