迷子の神絵師を助けたら、妙に懐かれてしまった私の日常と生活について
mkm
#22 1月22日 深夜/読書/眠りに落ちて
年末年始の浮ついた気分も概ね薄れてきた今日この頃。
日付が変わって、更にもう少し時間が経っている。十分に深夜と言える時間。
止め時を失った読書に没頭する私を置いて、湊咲はずいぶん前にベッドへ入っていた。耳を澄ませば穏やかな寝息が聞こえてくる。
湊咲が布団を被った時点で部屋の照明は消した。小さなデスクライトを点け、光がなるべくベッドの方へ広がらないように角度を調節して、私はその下で本を開いている。
そのまま読み進めてキリ良く1冊を読み切った。本を閉じて、静かな部屋に意識が戻ってくる。キリがいいと言っても3巻構成のうちの上巻だったので続きが気になってしょうがない。同時発売だった中巻と下巻も買ってあるから、読もうと思えばすぐに続きに取りかかれるけれど……
もしここで次の巻に手を出せば、きっと朝まで読みたくなってしまう。
一方、湊咲の体温で暖まった布団の中が心地いいのも確かなことだ。
悩ましく思いながらベッドの上の湊咲を眺めた。長い髪を丁寧に掛け布団の上へ流し、穏やかな寝顔で静かな呼吸を繰り返している。相変わらずな目元の隈もこの光量では判別しにくく、余計に安らかに見えた。目を閉じていると童顔な印象が薄くなって、彼女の横顔はいつもより少しだけ大人びる。
次のアクションを決めかねていたせいもあって、私はそのまましばらく湊咲の寝顔を眺めていた。
「ん……」
こちらを向くように寝返りを打つ動作と、微かに漏れる声。その拍子に湊咲の髪の毛が崩れ、顔全体にばらけてかかった。そして数秒空けてから、髪の毛の隙間で湊咲の目が薄く開く。
起こしてしまっただろうか。
彼女は眠そうに緩んだ瞳で私を見つめてから。
「まだ、ねないの……?」
丸っきり寝ぼけたままの声でそう聞いてくる。
「そろそろ寝ようと思ってた。ごめんね」
反射的にそう答えてしまう。
「……ん」
湊咲は私の返答を聞き取ったのか、小さく頷いてまた目を閉じた。そしてすぐに寝息が戻ってくる。
嘘をつくわけにもいかなくなってしまったので、読書の続きは後日に回すことにした。どうせ湊咲は自分が目を覚ましたことなんて覚えていないだろうけれど。
そっと立ち上がって、乱れた湊咲の髪を整えてやる。それから音を立てないように洗面所へ向かった。水音を遮るために扉を閉めてから歯を磨く。
無意識に手を動かし続けながら、湊咲の使っている方の歯ブラシが視界に入った。だいぶ毛先が開いてきていて、そろそろ交換したほうが良さそうだ。
歯を磨き終えて口の中を洗い流すと、ひんやりとしたミントの風味だけが残った。
デスクライトも消した暗い部屋の中。眠りこけているであろう湊咲を起こさないよう、慎重にベッドへ上る。続けてこれまた慎重に、掛け布団の中へ身体を潜り込ませた。
湊咲が居る左側だけが明らかに暖かい。室温のままの右側との対比で、余計にその存在を感じる。
読書の続きはやはり気になるけれど、この暖かさを一回分逃さなくてよかった。
そう思いながら、唇だけでおやすみと呟く。
意識が眠りに溶けるまでは、あっという間だった。
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