31.苦情

帰宅途中、すれ違った隣人がわざとらしく咳き込んだ

オレがタバコ吸いなのが気に入らないのか、この隣人はいつも態度で抗議する

嫌な気持ちを抱えながら帰宅すると、準備していたらしい夕飯のにおいがした

笑顔で迎える妻にスーツを預けて言う

「今日は外で食べるって言ったじゃないか」

「えぇ、でも連絡もらったときにはもう作り始めてたから。いまから片づけるところだったの」

オレはここ最近帰宅時間が遅くなることを残業だとか接待だとか言っているが、実のところ浮気をしている

妻はオレの離れていく心に気付きつつあるのか、献身ぶりを見せつけてくる

あてつけがましい女だ

「この頃お隣さんから苦情を頂くのよ。ここはペット禁止でしょう、って」

「うちでペットを飼ってるって言いたいのか? なに勘違いしてんだか」

「あの奥さん、重度のアレルギーなんですって」

「動物の毛がダメというのは聞いたが、頭の方もダメなんじゃないか」

妻は背広を粘着ローラーで掃除する

そんな良妻アピールをする妻を視界の隅にとらえながら、オレはタバコに火をつけた

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