4.過保護な母

子の帰りが遅い。

小学校に連絡するともう下校したと言われ、子の友人宅に連絡すると今日は来ていないと言われ、ついには交番に届け出た。

夫は「あんまり過保護じゃないかね。俺が子どもの頃にはねぇ……」などとのんきに昔話を始めて頼りにならない。

あちこち探し回って、気が付くと空は朱色に染まっていた。何か事件に巻き込まれているのかもしれない。

不安で叫び出しそうになるのをなんとかこらえ、子の名前を呼び続ける。

ふいに「おかあさん?」と、返事があった。東に目を向けるとそこには小さな人影がひとつ。逆光になって顔が見えず、子の名を呼びかけながら近付いた。その顔は確かに我が子であったが、あっけらかんとしている。子と大人とでは感覚が違うのだろうか、こんな時間まで出歩いていたというのに悪びれる様子もない。

湧き上がる怒りはあったが、それ以上に無事だったことに安心した。抱きしめておかえりと呼びかけると弾む声で返してくれた。

「ただいま」

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