第10話

 「そうですね」


 僕が色々巡らせていると、シーダーさんが諦めたのかそう言った。ポールアード伯爵が安堵の顔を浮かべる。僕の推測は間違っていないみたいだ。


 「では、これを最後の質問にしましょう」


 終わったと思ったらまだすると言われ、ポールアード伯爵がぎょっとする。諦めてはいなかった!


 「クレアさん、あなたは二回目・・・のお茶を入れましたか?」

 「……い、いいえ」


 オーブは、青く光った!

 そうか。一回目はクレアさん、二回目は違う者が入れたんだ。最初からこういう事も想定して、入れる者を二人に分けた。そういう質問をされなければバレないのだから。

 シーダーさん、凄い!


 「やっぱりそういう事だったのね。で、二回目はどのメイドですかイマールさん」

 「……さて、私は存じません。今日のお茶会には顔を出しておりませんし、彼女が担当したと聞いておりましたので。もうよろしいですか?」

 「証言できますか?」

 「よろしいですよ。ですが、質問は一つのみでお願いします」

 「えぇ。私はそれで」

 「刑事部調査室スカモンレが見届け人を引き受けた。では質問は一度です。お答えください。イマールさん」


 イマールが頷いて、オーブに手を乗せると、ポールアード伯爵がごくりと唾を飲み込んだ。あぁ、そうだ。回りくどい事をせずに、彼に聞けばいいんだ。というか、なぜそうしないのだろうか。


 「………」

 「どう致しました?」

 

 なかなか質問しないシーダーさんにイマールが聞く。質問は一回のみなので、慎重になっているのだろうけど。


 「あの、リダルさん。もう回りくどい事せずに、ポールアード伯爵に聞けばいいのでは?」

 「そうしたいのは山々だが、警察が立ち会って犯罪が確定した場合、調書を取った後でないと、次の罪状を問えない事になっているのです」

 「え!?」


 だったら早く連れて行ってほしいんだけど!


 「気持ちはわかる。でもシーダーさんも同行してもらわなくてはならない。今、この場を離れれば、この屋敷には令状がなければ、もう入れてはくれないだろう」


 そうか。今が色々聞き出すチャンスなのか。


 「そうね。シンプルに行きましょう。あなたは、二回目にお茶を入れたをご存じですね?」

 「なるほど。そう来ましたか。えぇ存じております」


 イマールがそう答えると、オーブは青く光った。

 さっきは、自信満々に知らないと言ったのに!


 「言葉の綾よね。メイド・・・を知っていますかと聞けば、わかりませんと言えばいいものね。私がさっき、どのメイドですかと聞いたので、同じように聞かれれば大丈夫と思ったのでしょう」

 「どういう事?」


 僕の質問にシーダーさんがニヤリとする。


 「入れたのはメイドではないのよ」


 その言葉に過剰にポールアード伯爵が反応した。もしかして……。


 「エリザ嬢が入れたとか?」

 「たぶんね。わざとリサさんにはお茶を入れなかった。そして彼女の前で四人が次々と倒れた。リサさんは驚いたでしょう。しかも犯人が自分だと言う事になり、恐怖したに違いないわ」


 僕達は確信に至った。


 「では、約束通り私はこれで失礼します」

 「待ちなさい! 犯人を知っているのに言わないおつもりですか」


 アーバンさんがそう言って、扉へ向かおうとするイマールの前に立つと、わざとらしくイマールが困り顔をする。


 「私は、約束をお守り致しました。仕事がございます」

 「では、エリザさんに直接お聞きしに行くだけです」


 アーバンさんがそう言うと、イマールは眉をひそめた。


 「あなた方は、何の犯人をお探しですか」

 「は? 毒殺未遂の犯人、いやリサさんに罪を被せた犯人です」

 「それが、お嬢様だと?」


 イマールは、大きなため息をついた。さっきからわざとらしいだけど。


 「困りましたね。私も忙しいのですが。わかりました。もう一度だけお付き合いします。ですが、ご協力はそれまでです。後は、ご自身でお探しください。それが、あなた方のお仕事です。私の仕事ではございません」

 「あなたねぇ。まあいいわ。最後にもう一度お願いするわ」

 「承知致しました」


 おかしい。さっきと同じく自信満々だ。

 シーダーさんが、メイドが誰だと言うと思っていたからさっきは余裕だった。メイドじゃないから。だったら今、余裕なのは犯人はエリザじゃないから? それともお茶を入れたのがエリザではないから。もしかして、他の令嬢だった?

 でも命令されたからと言って、自分が口をつけるティーポットに毒は入れないだろう。

 いや違うか。それだと三人の令嬢は、共犯者だ。弱みを握られていたとしても、そこまではしないだろう。万が一の事があったら死ぬかもしれないのだから。それに、そこまでするような弱みなんて、普通の令嬢にあるか?

 というか、今回の毒殺未遂のでっち上げって、ポールアード伯爵家の逆恨みだよね?


 「どうしました? またなんと聞こうかとお悩みですか?」


 イマールが、そう言ってシーダーさんをせかしている。

 シーダーさんもきっと、僕と同じ事を思っているに違いない。

 毒を入れたのはエリザで、お茶を入れたのは三人の令嬢の誰かなのか? 令嬢達は、毒が入っているのを知らずに飲んだ。

 あぁ、姉さんを起こして聞き出したい。そうすれば、そこら辺の事はわかるのに。

 チラッと姉さんを見れば、ぐっすりと眠っているようだ。


 「ねえ、父さん」

 「な、なんだ」


 真剣に成り行きを見ていたからか、突然声を掛けられた父さんは驚いていた。


 「姉さんって、父さんが来た時にはもう眠っていたの?」

 「あぁ。寝ていたよ。来た時よりは、だいぶ顔色が良くなった」

 「そう……」


 やっぱりだ。きっと眠らされているに違いない。余計な事を言わないように。


 「イマールさん……」


 とうとう、シーダーさんが質問をするようだ。


 「毒を入れたのは、あなたですね!」

 「いいえ」


 イマールさんの口もとが少し持ち上がった。オーブは青く光る。

 イマールさんは入れていない。じゃやっぱりエリザさんが!


 「あなたがお茶を入れたのではないの!?」

 「お嬢様はお疲れになっています。なので今日はゆっくり休ませてください。お嬢様も毒など入れてはおりません」


 わざとなのか、オーブに触れそう言った為、オーブは青く光った。

 僕らの予想は、ことごとく外れたのだ。

 というか、イマールもエリザも毒を盛ってないってどういう事? これじゃ姉さんが犯人って事になるじゃないか!


 皆、姉さんが眠るベッドに振り向いた。


 「まさか、そんな事って……」


 シーダーさんは、ボソッと呟く。

 あり得ない結果に、僕達は立ち尽くすのだった。

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