第7話 親友?
夜。
自分の部屋でスマホをいじっていると、何だか小腹が空いた。
コンビニに行きたい所だけど、
「だりぃな~」
とか思っていたら、スマホが震えた。
「んっ? って、清成じゃん」
届いたメッセを確認すると、
『今、お前の家の前にいる』
え、ちょっ、こわっ。
カーテンを開けてチラッと様子を伺うと、暗闇の中でニヤつく男がいた。
こわっ。あいつ、イケメンじゃなかったら、とっくに職質食らって終わってんぞ。
「はぁ~、仕方ねえなぁ」
オレはため息をこぼしながら、嫌々と階段を下りて、玄関先に向かう。
がちゃり、と開くと、
「け~いす~けく~ん、あ~そび~ましょ~♪」
「にゃあ」
「…………」
黒猫を抱える黒ずくめの男がいた。
縁起わるっ。
「……何だ、その猫?」
「相棒だ。地獄へと誘う番人のな」
「にゃあ」
「……とりあえず、入れよ」
「うむ、邪魔する。ほら、ベロ助、あいさつをしろ」
「にゃあ?」
「こいつは、俺の親友の、
「えっと、この子はベロ助って言うのか?」
「まあ、俗称だけどな。真名はケルベロスだ」
「それって犬だろ。こいつ猫やん」
「ところで、お前の親はどうしている?」
「ちょうど良くというか、出かけているけど……お前、こんな時間に何をしてんの?」
「パトロールだ」
「むしろ、お前は治安を乱すだろうが」
「ふっ」
「嬉しそうにすんな」
「まあ、正直に言うと、親が良い雰囲気になったから、気を利かせてやったんだ」
「あー、なる……お前んとこ、再婚だもんなぁ」
「ああ。ちなみに、タダで邪魔するとは言わん」
清成は、ベロ助を下ろすと、背後に手を回す。
ゴソゴソと何かを取り出した。
「ジャン」
「えっ、これどうした?」
「コンビニで買って来た」
「マジで? ちょうど今、コンビニ行きたいけど、だりぃと思っていたんだよ~」
「そうか。まあ、お前は俺のただ1人の親友だからな。自然と通じているんだろう」
「……とりあえず、上がれよ」
「ベロ助も良いか?」
「こいつだけ、追い返す訳にもいかないだろ」
「にゃあ」
「ありがとう、と言っている」
「あっそ」
オレは面倒な男と猫を家に招き入れる。
「てか、何で背中に入れてたんだ? 猫を抱えるから?」
「いや、嫌われ者の俺は、いつ夜道で背後から刺されるかもしれないからな」
「何で嬉しそうに言うんだよ……」
この頭トチ狂いめ。
「クンクン」
オレの部屋に入るなり、奴は鼻を動かす。
「何だよ?」
「……また女を連れ込んだのか」
「まあな。だから、せっかくフローラルな香りがしてたのに、ムサいお前らが来たせいで、台無しだ」
「それはすまなかった。けど、お前は俺と違ってイケメンでモテるから、またすぐ別の女で上書きできるだろう?」
「……ああ、そうだな」
頷きつつ、俺は目の前の奴を見た。
こいつと出会ったのは高校に入ってから。
その時から、ずっと思っていたけど……やっぱり、こいつはバカだ。
確かに、オレ様はイケメンだ。
小中学生の頃から、ずっとモテて来た。
ずっと、ナンバーワンのモテ男だった。
けど、高校に入って、こいつと出会ってから、衝撃を受けた。
生まれて初めて、男として、脅威を抱いた。
ぶっちゃけ、敗北を認めてしまった。
オレよりもモテる男は、初めて見た。
しかも、何が恐ろしいって……こいつは、そのことに対して、無自覚だ。
さらに、こいつは自分がイケメンだと自覚していない。
つーか、ブサイクだと思っているくらいだ。
ちなみに、オレのことをイケメンと言うくらいだから、審美眼は狂っていない。
ただし、自分に対する目が、クソほどに歪んでいるというか……うん、とにかくバカなんだ。
「おい、圭介。早く食べないと、俺がみんな食っちゃうぞ?」
「ああ、分かっているよ」
俺は適当に菓子をつまむ。
そして、目の前の奴を見た。
こいつは、俺のことを親友と呼ぶ。
こいつは、嫌われ者の自分と唯一、仲良くしてくれるオレのことを、親友と思っているらしい。
そもそも、こいつがバカなせいで、色々と渋滞しているというか、こんがらがっているのだけど……
ハッキリと、これだけは言える。
オレはこいつのことが……嫌いだ。
大嫌いだ。
理由は単純明快、オレよりもモテるから。
実際、女を食った数は、オレの方が多い。
こいつをダシにして、今まで多くの可愛い女を抱いて来た。
けどみんな、心の中の1番はずっと、こいつだった。
どうあがいても、清成には勝てなかった。
けど、そんな事情もろとも、のんきなこいつは知りもしない。
だからこそ、余計にムカつく。
お前が親友だと思っている男は、お前のことをいつでもぶっ殺してやりたいと思っているっていうのに。
「おい、圭介。この新作の菓子、美味いぞ」
笑いながら、そんなことを言って来やがる。
「まあ、母さんの手作り菓子の方が美味いけどな」
しかも、マザコンかよ!
「いや~、みんなに嫌われて敵だらけの俺だし、そんな人生を自ら望んで歩んでいる訳だが……たまには、心を許せる親友とこうして過ごす夜も、悪くないな」
……あ~、こいつ、マジでウザいわ。
今まで、利用価値があったから、仲の良い親友のフリをしてやったけど……もう限界だわ。
今この場で、絶交してやろう。
「なあ、清成……」
「そうだ、圭介。今週末はヒマか?」
「ああん? いきなり何だよ?」
「今日はお前の家にお邪魔しちゃったから、久しぶりに俺の家に来いよ」
何だ、その理屈は。
いちいち、暑苦しいなぁ。
まあ、こいつの美人ママを拝んでその手作りスイーツをいただくのは乙なものだが……
そのママンも、可愛い息子にデレデレだからな~、つまんね!
やっぱ、断るわ。
てか、縁きるし。
「ああ、悪い、オレさ……」
「ちなみに、道長が来るんだけど」
「……えっ? 道長って……
「そうだよ」
こいつは何食わぬ顔で、学年トップの美少女さまの名前を言いやがる。
あの清楚かつドスケベボディの、最高の女の名前を……
「……付き合っているのか?」
「おいおい、圭介。俺に彼女なんて出来る訳ないだろ? イケメンのお前と違って、ブサイクなんだから」
「……ああ、そうだったな」
いつもなら、この無自覚バカっぷりが本当にイラつくんだけど……
今回ばかりは、ラッキ~♪
「仕方ねえなぁ。本当は、女と遊ぶ約束していたけど……親友の頼みだし、断るわ」
「えっ、無理しなくても良いぞ?」
「あー、良いの、良いの、気にしないで。ちなみに、来るのは道長さんだけ?」
「ああ、そうだけど」
「ふぅ~ん?」
まあ、道長だけでも、十分に価値ありまくりだけど……
何となーく、美味し過ぎるオマケが付いて来る、ヨ・カ・ンがするなぁ~♪
「オッケ、分かった。じゃあ、今週末はバリバリ気合を入れて行くから」
「いや、親友同士なんだから、気を遣う必要はないぞ? 道長なんて、置物だと思っておけば良いし」
「いやいや、無理っしょ。むしろ、お前が置物になれよ」
「あはは、圭介は本当に面白いなぁ。俺が認める、唯一の男、いや人間と言っても過言ではない」
「いや~、それほどでも~」
こいつ、やっぱり超ズレてやがるけど……もうこの際、どうでも良いや。
あの道長杏子をいただけるチャンスと来れば~?
こんなクソウザ野郎とつるんで来た甲斐もあるってもんよ~♪
「喜べ、ベロ助。今週末は、賑やかになるぞ」
「にゃあ~……」
「いや、猫はやかましいの嫌いだろ」
「そうか。じゃあ、お前はその日、ちょっと外に出ていろ」
「鬼畜だな、お前」
まあ、オレ様ほどじゃないけど♪
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