みんなの嫌われ者(自称)は毒と刺激を求めている。でも主に女子たちの好感度がカンストしていることを知らない。

三葉 空

第1話 嫌われ者?

Q.人生を楽しく生きるために必要なモノは?


A.毒と刺激。




 好感度。


 芸能人、タレントがやたらと気にする。


 それも仕方のないこと。


 彼らはスポンサーあっての存在だから。


 不祥事を起こして好感度が下がったら、イメージ商売において大きな損害。


 ましてや、昨今はひと昔前に比べて、特に厳しくなっている。


 けど、それは芸能人に限ったことじゃない。


 一般人だって、好感度を気にしている。


 身近にいる家族、友人、クラスメイト……


 さらに昨今はSNSの普及により、見知らぬ人の顔色を伺うようにまでなっている。


 けど若気の至りというか、負けん気を発してイキり発言をし、炎上するバカ者……いや、若者たちは後を絶たない。


 そして、炎上してフルボッコにされ、自ら命を絶つ……そんな悲しい事件も後を絶たない。


 だから、まともな人間であれば好感度を気にする。


 自ら好んで嫌われようとは思わない。


 嫌われたら、社会で生きて行くのがしんどくなるから。


 ましてや、学校などという閉鎖された社会で嫌われようものなら、それこそ自ら命を絶つ悲しい結末へと至ってしまう可能性が高くなってしまう。


 高校生の頃って、バカみたいに繊細だからな。


 小、中学生のように無邪気になれず、大学生のように自由になれない。


 1番輝いているようで、1番苦しいモラトリアムの時期かもしれない。


 そう、だからみんな、この時期に自ら進んで嫌われようなんて、誰も思わない。


「――お前はブスだ、道長みちなが


 俺は目の前にいる、黒髪ロングの少女に向かって言う。


 その顔の造形は良く整っている。


 ぶっちゃけ、美人だ。


 学年、いや学園でもトップクラスの美少女だろう。


 では、なぜ俺はそんな彼女に対して、ブスなどと言うのか?


「なぜか分かるか、道長?」


「……分からないわ、児玉こだまくん」


 目の前にいる完璧な美少女さまはクールな表情を保っているが、内心ではザワついていることだろう。


 こいつをディスるのは初めてじゃないから、ある程度は分かっている。


 こいつだって大人びていても、所詮は女子高生。


 繊細な乙女なのだ。


 しかも、何だかんだ自分が美人だと自覚しているだろうから。


 いつも、周りから『可愛い~』とか『きれい~』とか言われてばかりだから。


 面と向かって『お前はブスだ』などと言われたら、動揺の極みだろう。


 そして、俺はスッと指を上げて、彼女を差す。


「枝毛」


「えっ?」


「完璧な美少女ともあろうお前が、その体たらく……お前も知っているだろう? イケメンが減点方式なように、美少女もそれ然りなのだよ。しかも、イケメンであればあるほど、美少女であればあるほど、些細なほころびが、一気にブス化させる」


「は、はぁ……」


 この女は、どうやらあまり腑に落ちていないようだ。


「道長……道長杏子きょうこ


「フ、フルネームで呼ばないで」


 ふっ、まあそうだろうな。


 みんなから嫌われている俺だ。


 当然、お前も嫌いだろう。


 そんな男に、名字だけでなく、下の名前も込み、フルネームで呼ばれたら、身の毛がよだつだろう。


 だからこそ、あえて言ってやる。


「道長杏子、普段は完璧な美少女であるお前だからこそ、わずかなその綻びによって、一気にブスとなる……そう、今のお前はブスだ」


「…………」


 とうとう、道長は完全に口を閉ざしてしまう。


 ふっ、勝った。


 って、いやいや、違う。


 俺は別に、いじめをしたい訳じゃない。


 クールだけど恐らくプライドの高いこの女は、俺になじられまくればきっと言い返して来る。


 そして、こいつを慕う周りの連中も一斉に俺を攻撃して来る。


 その罵声が、毒が、刺激が……早く欲しい。


 ちなみに、俺は決してドMではない。


 そんなチンケな性癖の枠に収まるものではない。


 この欲望と渇望は、もっと高みへの……ククク。


「……ごめんなさい、次から気を付けるわ」


「えっ?」


 予想外の返しに、俺はキョトンとする。


 いや、そこは普通、怒るところだよね?


 アレか? そんなに完璧な美少女のプライドが許さないのか?


「じゃあ、また」


 奴はくるっと背中を向けて、立ち去ろうとする。


 クソ、このままでは、俺の欲する毒と刺激が……


「……おい、道長」


 俺が呼び止めると、奴は顔だけ振り向く。


 かくなる上は……


「……俺は毎晩、お前をオ◯ズにしている」


「へっ?」


「ふっ、純粋なお嬢さんには通じないかな? じゃあ、もっとハッキリ言ってやろう」


「いえ、あの……」


「俺は毎晩、お前でエロいことを妄想し、致している……とな」


 再度、ビシッと奴を指差し、言ってやる。


「お前はそれくらい、ドスケベな体をしている……この将来グラドル有望女め」


「…………」


 またしても、道長は沈黙する。


 顔をうつむけていた。


 いや、だから、そんな風に落ち込まれても……


 俺はポリポリと指で頬をかきつつ、ふと周りを見渡す。


 気付けば、いつの間にかギャラリーに囲まれていた。


 うぅむ、こいつら、みんな俺のことを罵倒してくれないかな?


 さすれば、最高の毒と刺激が俺のモノとなるのに……


 なぜ、誰も俺を罵倒しない!?


 いや、待てよ……そうか、分かったぞ。


 ここで罵倒されたら、それはある種のイジりだ。


 イジられる奴は何だかんだ好かれている、人気者だ。


 一方で、本当に嫌われている奴は、何かしてもイジられもしない。


 けど、きっと陰ではボロクソ言われているんだろうなぁ……主に女子から。


 昨今、女性の社会進出が加速し、女性が主張を強めている。


 そんな中で、ゲスな男は排除される傾向にある。


 だから、いま大人しく黙って、俺のことをジッと見ている女たちも……きっと、内心でははらわたが煮えくり返っている。


 今すぐにでも、俺のことを抹殺したいだろう、この社会から。


「ふっ……」


 まあ、望んだ罵詈雑言は得られなかったが、良しとしよう。


 いずれ、道長を慕う女子から総攻撃を食らうだろう。


 また、道長に惚れている男子からも然り。


 ただ、暴力はやめて欲しいな。


 別にそこまでひ弱じゃないけど。


 俺はもっと陰湿で嫌らしい、陰でコソコソされるような悪口とか無視にゾクゾクするんだ。


 カバンを肩に担ぎ直すと、俺は歩き出す。


 自然と、人の輪に切れ目が出来た。


 俺は玄関へと進む。


 お前ら、ラストチャンスだぞ?


 今ここで、思い切り俺の背中に向かって、罵詈雑言を浴びせろ。


 そうすれば、俺のカタルシスは……いや、だから、決してドMではない。


 そんな上っ面の単純な性癖に分類されない。


 俺ははもっと、人の根幹の魂の部分で、ブルりたい。


 それだけのことだ。




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