第2話 カタリナ

「妹……」

 そう呟くように言ったきり、私は黙り込んでしまった。だが、頭の中だけは、自分の納得のいく結論を導こうと必死に働かせていた。

 


 生涯において、聖女はたった一人だけ娘を産むことを許されている。

 それは、聖女の血を絶やさぬことと、聖女の力を分散させない――娘を産めば産むほど娘たちの聖女の力が弱まっていくとされているためである。

 しかし、後者の、〈聖女の力を分散させないため〉というのは、あくまで表向きの理由だ。

 本当の理由は、無用な争いを避けることにあった。

 聖女の血を確実に残したければ、娘はたくさんいた方がいいに決まっている。だが、〈たった一人〉と限定しているのには、それ相応の理由がある。

 たった一つの聖女の椅子に、二人以上は座れない。二人以上の人間が一つの椅子に群がれば、その椅子を巡って争いになるのは目に見えている。

 国と民のために、その身を犠牲にして祈りを捧げる聖女――一見、争いごととは無縁のように思えるが、その実、国王をも凌ぐ権力を持っているのだ。



(養女、ということかしら……?)

 私は一つの結論にたどり着いた。

 聖女は、実子を一人しか持つことができないが、養女を迎えることはできるのである。

 身寄りのない子どもを引き取り、教育を受けさせ、身の回りの世話をさせるのである。

(そうね。そうに決まっている)

 ところが、次に母が発した言葉は、私の予想を裏切るものであった。

「カタリナにもあなたと同じ教育を施します」

「……」

 今度こそ、私は完全に言葉を失った。

 私が今受けている教育――聖女になるための教育は、次期聖女のみが受けられる教育である。それをカタリナが受けるというのはどういうことなのか?

 この時、私は初めてカタリナの顔をちゃんと見た。

 カタリナの顔は、若い時の母に瓜二つだった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る