第142話 なんと想定外のランクアップ×2のチャンスが到来!!
ギルドの試験官がカウントダウンを始める。
「5、4、3、2、1、始め!!」
ついに昇級試験が始まった。俺としては興味津々でこの試験の行く末を見守りたい。この受験者の男のランクはEだという。つまり俺と同じ条件だ。一体どのように的を倒していくのだろうか。これは見ものだ。
……シュパッ、……シュパッ、……シュパッ、……シュパッ。
「えっ!?」
男は連続して4発のファイアー・ボールをそれぞれ異なる的に向けて放った。
ビックリしたのはこの時点で既に3発も外している。
本当に!?
まだ目の前の光景が飲み込めていない。
これってそんなに難しい試験なのか。
しかも各ファイアー・ボールを放つのにそれぞれ20秒ほどもあるクールタイムが必要なようだ。それで大きな時間のロスが生じてしまっている。
とはいえ相手はただの動かない的だ。
いくら小さくて細い的とはいえ、これ位はさっくり倒せないと魔物を討伐できないのではないか?
まぁ、仮に昇級したとしても討伐依頼を受けられないD級だ。それはさすがに気にしすぎなのかもしれないが。
そして追加で2発を放ったものの、片方が外れてその時点で失格となってしまった。結局、男が倒せたのは5つの的の中で2つだけだった。
「うわーー。惜しかったなぁ」
「いやー、良いものを見れた。あともう少しだった」
「時間内で的を二つも倒したか。大したものだ。すごいじゃないか」
ところが俺の感想とは異なり、ギャラリーの反応はすこぶる良い。
というより、まさに真逆。
なぜだ。
「さすが特別昇級試験に挑むだけあるわ。あれだけの魔法制御を見せつけるなんて!」
まさかのノエルからの評価も上々だと!?
う~ん。
でも外したよな。4発も。
合計で6発を放った訳だから外した数の方が多いのだが。
確かにどれもカスったりしながらの外し方だから、全くの的外れという訳ではない。的に当てるだけではなく『倒す』という条件が厳しいのか。まるでボーリングみたいだな。
しかし……。
◇
「なぁ。これって俺も受けられたりするのか?」
俺はゆっくりと男の試験官に近づき、そう質問する。
もしこんな低レベルな試験内容であまつさえ昇級できるのであれば、ここで是非ともD級に上がっておきたい。こんな好機を逃すのはありえない。
「おっ!? おお、受験希望者か。それは大丈夫だと思うが、まず君は何級かね?」
「俺は先ほどの受験者と同じE級なんだが……」
「それなら可能だ。歓迎するよ」
試験官は立ち去ろうとしている群衆に向けて大声を放った。
「お~い! まだ、皆帰らないでくれ。新しい挑戦者だ。これから再び特別昇級試験を行うぞ!!」
「「「うぉおおーーーー」」」
周囲がにわかに沸き立つ。
この街の冒険者はこういうイベントが大好きなんだな。
「サイ、あなたこれに挑戦するの? いくらサイでも難しいんじゃ……」
「お姉ちゃん、サイさんはきっと大丈夫だよ!」
「まぁ、二人ともよく見ててくれ。一瞬で終わらせるから」
俺は試験官の指示に従い、一旦、自分だけギルド会館の建物に戻った。そこの受付けで書類の手続きを行う最中に思いがけない説明を受けることとなる。
「そうだ。これも一応規則だから、説明するだけしておくけど、昇級は1ランクのみで良かったね?」
???
頭の中にクエスチョンマークが点灯する。
「それはどういう意味なんだ?」
「君はEランクだから2ランクアップの特別昇級試験を受けることも可能なんだよ」
「えぇーー!? そうなのか。それじゃあ、ぜひそれでお願いしたい」
「えっとね、1ランクアップの特別試験は無料だけれど、2ランクアップは気軽に受けられないよう受験料として5千クランを徴収しているのだが、それでも構わないかい?」
「あぁ、もちろんそれで大丈夫だ。ところで試験内容はどう変わるんだ? さらに特別な試験になるとか?」
「その点は心配いらないよ。試験内容は大体さっき見たものとさほど変わらない」
「えっ! そうなのか。そうすると、何がどう違うんだ?」
「的の数だね。E級からD級までの1ランクアップなら5つの的を倒さなければならないけど、E級からC級の2ランクとなれば10個の的を完全に倒さないと合格と認められない。言っておくけど、これはかなり難しいよ。これまでこの支部で達成したのは二人だけだ」
「なるほど……。それでも2ランクアップの方で頼む」
「知っての通り、Cランクから魔物の討伐依頼が受注できるようになる。厳しめの条件なのは勘弁してもらいたい。それと、注意事項として返金は一切認めないから注意してね。あと、仮に5つ的を倒せたとしてもD級への昇格は認められないし、一人一回しか昇級試験を受けられないんだ」
「それは大丈夫だ。問題ない」
「もう一つ。2ランクアップの特別昇級試験の場合、もし失敗したら1万クランの罰金が発生してしまう。本当にそれでも大丈夫かい?」
「ああ、それで構わないぞ」
「では、受験料の5千クランをここに」
予想外の展開に俺自身が戸惑いを隠せない。
こうして俺は2ランクアップの飛び級試験を受けることとなった。
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