第139話 ここのギルドはあっさりしている。それに何というかチャラい


 俺たちは朝一番でギルド会館に向かった。


 それには大きな理由がある。

 言わずもがな、昨日の『ポイズン・アナコンダ』の一件があるからだ。


 死闘とまではいかないものの、それなりの闘いを繰り広げた。まずはその報告をしなければならない。まぁ、俺たちのことはどうでもよい。それよりもあの場で襲われていた冒険者の一行の件を早く伝えなければならない。


 実は宿のご主人など数人には既に昨夜の内に相談していたのだが、「ギルドはもう閉まっているし、そういう事故は日常茶飯事だからそれほど急がなくてもいいんじゃない?」との助言があって今日になったのだ。


 事の重大さと比べて扱いが雑なのは見ての通り。


 実際、何を隠そう人が死んでいる訳だが、何しろ俺がいるのは異世界。ここでは死人よりも生きている人間の方が優先される。葬式よりも飲食の方が大事なのが決まり事だ。


 当然と言えばそうだが、まだ前世との価値観の違いに戸惑うことがある。


 どうやら、ここミナスの周辺には凶暴な魔物が多く出没するので、『魔のミナス地方』と呼ばれて恐れられているようだ。


 さて、何はともあれ三人全員でギルド会館に向かい、まずは簡潔に状況の説明をする。


 とはいえ、倒した『ポイズン・アナコンダ』は異常種では無いこともあり、案外すんなりと話は終わった。これから調査団が編成されるようだが、ひとまずここで我々は解放された。


 それにしてもスムーズに済んだのはこちらとしては大変助かる。思い返しても、実にあっさりとした対応だったな。カディナのギルド会館で受けた過剰なまでの取り調べとは大違いだ。


 あぁ、そうだった!

 ついうっかり忘れかけていた。


 俺はギルドの受付けにて大事な話を切り出した。


 「……そういう訳で、我々が討伐した『ポイズン・アナコンダ』の魔石を売りたいんだが、ここで買い取って貰えるのだろうか?」


 「えぇ。もちろん構いませんよ。奥のカウンターで買い取りを行います。身分証はありますね?」


 「あぁ。サンローゼのしか無いが、それで問題ないか?」


 「大丈夫です。問題ありません。では、こちらへどうぞ」


 わざわざ受付け嬢が案内してくれた。


 さっそくノエルが例の『ポイズン・アナコンダ』の魔石を誇らしげに取り出す。


 「これは……。たいそう立派な魔石ね。素晴らしいわ!」


 鑑定士のお姉さんが目を見開きながら、しげしげと魔石を眺める。


 「割れも欠けもなし。品質に問題は無いようね。それにしても『ポイズン・アナコンダ』の魔石だなんて。B級以上のパーティーが何とか討伐するような魔物よ。それをよくまぁ、倒せたわね。感心、感心。能ある鷹は爪を隠すパーティーなのかしら? 冗談よ、冗談」


 やっぱり鑑定士もサンローゼとは雰囲気が違う気がする。


 「それじゃ、査定は期待していいんだな?」


 「えぇ、もちろんよ!」


 「よかったね、お姉ちゃん。高値で買い取ってくれるかも」


 「そうね。期待で胸が高まるわ」


 「えっと、基準価格では1個7万クランということになっているわ」


 「おぉ!」

 「やったわ!」

 「すごい、すごいよ、サイさん、お姉ちゃん!」


 まずまずの金額だ。とは言うものの、金銭感覚がマヒしていて、今一つ高値だとは感じない。だけど、冒険者が稼ぐ日銭としてはかなりの額だろう。


 しかしこれで話は終わりでは無かった。


 「実は上から指示が来ていて、情報提供代もお支払いすることになっているわ」


 「情報提供代?」


 「そうよ。で、それが3万ね。だから合計で10万を渡すことになるわ。それでいいかしら?」


 「「「えぇーー!?」」」


 ということで、濡れ手で粟の10万クランを手に入れた。


 それから、その鑑定士のお姉さんと情報交換をしていると、にわかに周囲が騒がしくなってきた。ものすごくザワザワした雰囲気だ。とくに事件が起こっている感じには見えないが、興奮がギルド会館全体に伝播していく。


 これは一体何がどうなっているのだろうか?


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