第126話 伝道師か。なるほど、興味深い話を聞いたな


 「さあ、どうぞこちらへ」


 案内された隣の部屋は見るからに宝物庫…… ではなく、まるで個人の部屋といった感じだ。


 奥の方に上品な個人机が置いてあり、壁に沿って大きな棚がいくつか並んでいる。部屋の中心部には先ほどの部屋と同じく大きなテーブルが置いてあるが、上には様々な品が乱雑に置かれている。どうやら作業スペースのようだ。


 「ここが研究所での私の部屋だよ」


 そんな俺の頭の中を見透かしたかのように、そうブロドリオが付け加える。

 やはりそうだったか!


 この部屋が作業部屋。となると、先ほどの特級遺物が収められている部屋が宝物庫といった具合だろうか。


 「それじゃあ、スキルを習得できる複製品レプリカを出そうか」


 どうやら巨大な棚の引き出しの中に保管されているようだ。これまた頑丈そうな作りになっている。こちらは鍵を2個も使わないと引き出しが開かないらしい。


 カチャ、カチャ。ガチャリ。


 ついに引き出しの中身があらわになった。


 目の前に現れた遺物の複製、それは額縁だった。厳密には紙がはめ込まれている。それには文字がびっしりと書かれている。魔法陣ではなかった。


 これまでの経験上、この紙はけっして普通のものではないだろう。おそらくは特殊仕様。地図屋で買った地図と同じく、魔石粉を振りかけて効果が発揮される類の複製品に違いない。


「スキル 魔力感知を取得しました」


 おしっ! うぉっしゃーー!!


 ついに待ち望んだ瞬間がやってきた。習得が危ぶまれた『魔力感知』を間一髪のところで何とか習得できた。ブロドリオが快く見せてくれなかったら絶望的だったな。俺もよく機転が回って質問したよな、あのタイミングで。


 「これまた素晴らしいものを見せてもらった。感謝する。俺の予想では本や粘土板のようなものを考えていたのだが……」


 「いやいや。これで満足してくれてこちらとしても何よりだ。そうだね…… 確かに写本のような形で複製が出来れば話が早い。だけど、そうは問屋が卸さない、といったところかな」


 「つまりはどういう……?」


 「なに、簡単なことだ。確かに遺物の内容を正確に書き写すのはそもそもの大前提だ。しかし、それだけでは足りないのだ。詳しいことは話せないが、この書かれている紙などには見えない細工が施されている。それに書き写した職人は『伝道師』と呼ばれる大陸でも数人しかいない人材だ。つまり複製品と言っても、それなりに手間暇がかかっているのだよ」


 う~む。こうして知識が着実に増えていく。しかもこの手の情報は正攻法で入手できるような代物ではない。貴族から直接このような極秘かもしれない知見を得られたのはラッキーだった。


 しかし、そうか。単に書き写しただけでは効果が発動しないとなると、俺が模倣した魔法陣が機能したのが不思議だ。


 その疑問はとにかくとして、ブロドリオに訊きたいことができた。

 「その『伝道師』とやらが気になるな。どうやったら会えるのだろうか? そもそも会えるのかどうかも分からないのだが」


 「ふむ。サイ君は伝道師に興味があるんだね。本来ならば情報は一切、出せないのだが……、特別に教えよう」


 「おおっ! それは助かるな」


 「ここから西に100キロほど向かったところにランドコールという場所がある。そこに伝道師は住んでいてね。もちろん、ちゃんとした紹介が無ければ会うことさえ叶わないのだが……。そうだな。これを持っていきたまえ」


 そう言ってブロドリオが机の引き出しを解錠して取り出したのは小さな金色のメダルだった。表面には透明感のある装飾が施されており、まるで七宝焼きのようだ。家紋のようなものが浮き上がっている仕様になっている。


 「これを持っていくといい。私の名前を添えて出せば丁寧に対応してくれるはずだ」


 「これまた素晴らしいものを! 大変ありがたい!!」


 これで目的も達成して一息かと思いきや、実はそうではなかったことを知るよしも無かった。





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