第74話 旅と魔物は切っても切れない関係だ
さて、ひょんなことから二人の女冒険者と道中を共にすることになった。そんな俺は、何だか不思議な感覚に襲われていた。
もちろんソロで誰にも干渉されずに一人旅というのは心地よい。まさに自由そのものだろう。
だが、こうして複数人で行動というのもそれほど悪くないんじゃないか。少しずつだが、心変わりしている気がしなくはない。
森の中の道を彼女らと一緒に進んでいくと、お約束のように魔物が目の前に現れた。
ぱっと見にはキツネのような動物が1匹、ひょこひょこと道の真ん中まで出てくる。
これは危険な魔物なのだろうか?
「あぁ、ジャンピング・フォックスです!!」
シンディーが指をさす。これは以前にパーティーを組んだ際に狩場まで行くことを諦めた魔物だ。フォックスという名の通り、やはりキツネのような動物なのだろう。
「かなり高くまでジャンプができる、運動能力の高い魔物だからちょっと厄介かもしれません」
そうシンディーが言葉を続ける。口元には発達した牙が見える。見るからに、これと強力な跳躍力が奴の武器なのだろう。
やはり、多少なりとも面倒な相手のようだ。
この魔物は大きさこそ小さいが、むしろそれが倒し方のネックになっているような気がする。というのも、小さければファイアー・ボールを当てにくいし、剣で倒すにしてもあまりにも的が小さすぎる。
「ここはフロウに任せます」
ふむ。
フロウはこういう役回りが得意なのだろうか。
しかし、どうやって倒すのか興味深い。
見たところ、フロウの戦闘スタイルは装備されている武器からして『剣』しかない。
もしかすると、魔法の使い手かもしれないが、それでも素早そうな『ジャンピング・フォックス』を仕留めるのは容易いことではなさそうだ。
さて、ここは大人しく見物と決め込もう。
お手並み拝見だ。
すっかり他人任せで見ていると、フロウは腰から小型の短剣を1本だけ取り出した。
そして次の瞬間には、迷うことなく、まるでブーメランを放るかのように右手を大きく振りかざし、短剣を勢いよく投げつけた。
カシュッ!
そう小さい音がしたと思ったら、見事なまでにバタッと『ジャンピング・フォックス』が倒れた。
おぉ!!
完璧過ぎる。
これ以上ない鮮やかな倒し方。
まさにパーフェクトという言葉がふさわしい。
「さすがだな。見事だ」
思わず、そうねぎらいの言葉をかけるほどに俺は彼女の手さばきの良さに見惚れてしまっていた。
あの魔物を見たときに、俺はファイアー・ボールか投石で倒すことしか頭になかった。
それこそ、やや距離がある小さな魔物を剣で倒すという発想はまるで眼中にあらず。
やはり現代日本の生活が長いと短剣を投げつけるという発想がそもそも出てこない。それは仕方ないことではあるが……。
だが、例えそのような考えに至ったとしても、大事な剣を投げて仕留められる保証はどこにもない。
あの迷いのない動きから察するに、この手の名人なのだろう。
俺も今後の参考にしよう。
二人はテキパキと倒したばかりの魔物を解体してしまった。
牙と魔石を難なく回収している。
これは前々から感じていたが、この世界でC級冒険者というのはけっこう凄い存在のような気がしている。
アニメ漫画ではC級程度はレベルが低い描き方をされていることが多かったと思う。
それがどうだろう。
ノエルといい、彼女らといい、とにかく戦闘力がある。
実戦投入できるほどの能力が備わっている。
さすが、魔物の討伐依頼を受注できるCランクだけのことはある。
しかし、ひとしきり感心したり感慨にふけっていたりと余裕があったのも、本当につかの間のことだった。
それから我々がさらに進むと巨大な魔物が目の前に姿を現した。
そのイノシシのような巨体はまさに俺の見覚えがある魔物『ジャイアント・ボア』そのものだった。
「ジャイアント・ボアだな」
低めのテンションでボソッとつぶやいた俺。
それとはまるで正反対と言った方が正確だろう。
彼女らが見せた反応は実に大げさなものだった。
「ど、どど、どうしましょう! ジャイアント・ボアがこんなところに現れるなんて知りません」
「厄介な相手だが、やるしかないわね」
そう言うと、フロウは大きな剣を腰から抜いた。
「いいえ、フロウ。あれは私たちでは倒せません。知っているでしょう。C級二人とE級では残念ですが、相手にもならないでしょうね」
「今度は俺が倒す番だな」
まだテンション低めの声でそう発言する。
「アナタ、あれを何だと心得ているのかしら? Bランク級の手強い魔物よ。Eランク風情のアナタごときで倒せる相手じゃないわ」
それは逆だ。
俺はずっとこの機会を待っていた。
以前、ノエルとユエの里からサンローゼの街へ戻る途中に遭遇した『ジャイアント・ボア』。
そのことが頭から離れていなかったのだ。
あの時は自分で特別にアレンジしたお手製ファイアー・フレア(?)で容易く倒せたところまでは良かったが、肝心の骨や牙もろともすべて灰と化してしまった。まさかオーバーキルのし過ぎで魔石もろとも灰になるとは大失敗もいいところだ。なにしろ素材がまったく取れなかったのだから。
そんなところに再度この魔物が現れた。
これはリベンジの好機である。
我々が無傷のまま奴を倒すのは当たり前だが、特に今回は『エレガントな勝ち方』にこだわりたい。
言うまでもなく、全て灰にするのは論外だ。
とはいうものの、俺が遠方の強大な相手に使える戦闘手段は火焔魔法のみ。
そして特殊で派手な火焔魔法は二人の前では使いたくない。
そこから導かれる結論は、カディナで『ブラッド・ベアー』を2頭まとめて討伐した際に使った【偽装ファイアー・ボール】の一択だ。見た目は普通のファイアー・ボールだが、その実、高火力の青色ファイアー・ボールが内側に隠されている自信作の魔法だ。
「吹き飛べ、ジャイアント・ボア!!」
女冒険者の前なのでちょっとカッコつけたつもりだったが、逆に痛々しい感じになってしまった。やはり慣れないことをするのは良くないな。
バシュッ!!
それはさておき、俺が放った偽装ファイアー・ボールこと『偽装火球・
わざと頭を狙わなかったのは意図的で、素材として価値のある牙を痛めたくなかったのと、分厚い頭蓋骨を気にかけてのことであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます