第51話 パーティーを結成する? しない?


 ギルドの掲示板の前で話しかけてきた男はいきなり思いもよらないことを口にした。


「君があの有名なルーキーか?」


「それは俺のことか? 有名なのか?」


「そりゃそうさ。あの『シルバーメタル・アリゲーター』を倒したとあってはな」


 おっと、その情報は極秘扱いになっているはずだ。


 しかし聞くところによると、どうやら我々の買取り現場を目撃した者が何人かおり、知らぬ間にそこら中でうわさになっていた模様。なんてこったい。


 思い返せば、確かにあの量の素材を何の考え無しにギルドに持ち込んだのは迂闊だったかもしれないな。


「まぁ、それについてはただのうわさ話だろう。それが聞きたかったのか?」


「いや、そうじゃない。単刀直入に言おう。良かったら俺のパーティーに入らないか?」


「パーティー?」


「そうだ。俺はダルガー。あそこにいる3人のパーティーを仕切っている。ついこの前までもう一人いたんだが、抜けてしまってな。今はとにかく人が足りないんだ」


「それはどうも。俺はサイ。しかし、パーティーか。自分はこれまでソロでやってきて誰とも組んだことがないのだが……。それより俺はFランク・ノービスなんだが、本当に自分で大丈夫なのか?」


「確かにただのFランクならそうなるな。ただ、これは俺の勘だが、例のうわさを置いておいても何だかお前さんは強そうな気がするんだ。サイと言ったな。良かったらパーティー入りを考えてもらえないか?」


 う~ん。


 なるほど、パーティーか。


 ぼっち、もとい、ソロの期間が長すぎたせいで、そもそも選択肢にすら入っていなかった。


 確かにこの世界のことを分かり始めたこのタイミングで加わるというのはそれほど悪い選択肢ではないような気がする。


 まぁ、しかしその手があったか。


 確かにC級より下の低ランク冒険者単独だと魔物討伐の依頼は受けられないが、高ランク冒険者がいるパーティーであれば見習い兼サポート役として討伐に参加できる。経験値も全てではないが、一部が分配されるので、ランクアップも夢ではない。これは決して悪くない話だ。むしろ俺にとっては好都合かも。


「ちなみになんだが、皆のレベルを教えてくれるか?」


「おっと、すまん。そうだったな。皆、こっちに来てくれ!」


 ダルガーが声を出すと、我々の様子をじっくりと伺っていた3人がこちらに向かってきた。男1人に女2人だ。


「改めて自己紹介すると、俺はB級冒険者のダルガーだ。このパーティーを仕切っていて、背中のコイツを見れば分かるだろうが剣士をやっている」

 中肉中背でどちらかと言えばやせ型。しかしこう見えてBランクとはなかなかやり手のようだ。見るからに剣士といったところか。大きな両手剣を背中に差している。


「アタシは同じくB級のカタレナ。火焔系と電撃系の魔法で戦う。よろしく頼む」

 ダルガーよりも大きくて見るからに強そうだ。肌の露出が多く、一言で表せばグラマラスでセクシー。胸元が強調されている服装だが、動きやすくするために軽量化した結果のように見える。ダルガーと同じく司令塔の一人でありながら、戦闘時の役割はかなり異なっているのかもしれない。


「C級冒険者グラーゼだ。それにしてもうわさに聞いていたよりも平凡そうな見た目だな。よろしくな!」

 俺よりも少し長身なだけだが、筋骨隆々。肉弾戦が得意なタイプに見て取れる。そして背負っている大き目の盾から察するに壁役のようだ。


「私はクレアよ。同じくC級で、見ての通り弓矢使いなの」

 小柄でやや華奢な体形。ただ、肩の筋肉はきちんと発達している。露出は少なく清純派といったところか。


「一応、俺もか。Fランク冒険者のサイという。よろしく。剣を持っているが、基本的には火焔魔法で戦う戦闘スタイルだ」


 これで一通り自己紹介が終わった。構成はB級二人、C級二人。正直なところ、ランクはともかくとして、見た目にはあまり強くなさそうなパーティーだ。とはいえ、逆にこれ位がちょうどいいのかもしれない。これがBクラス以上のメンバーしかいないとなれば、かえって怪しい。


 するとダルガーが補足を始める。

「紹介にあった通り、クレアは弓矢使いだ。残るカタレナとグラーゼは魔法を使う。とりあえず今回だけでも構わないから入ってみてくれないだろうか?」


 うむ。この感じなら悪い話ではなさそうだ。バランスも悪くない。


「ちなみになんだが、今回は何を狙うつもりなんだ?」


 組むかどうかはこの返答次第だなと思い、そう尋ねてみる。


「ああ、そうだったな。俺たちが狙うのは『ホーン・ディア』と『ジャンピング・フォックス』の2種類だ。それぞれBランク下位とCランク上位の魔物だけど、この人数なら問題ないだろう。以前に狩った時も4人だったが大丈夫だったしな。むろんギルドの許可も下りる。それに狩場も知ってるから行けば確実に獲れる自信があるぞ。ただ、ちっと場所が遠いからそれだけは覚悟してほしい。大体、片道で2、3泊野宿する感じだな」


 一口に魔物討伐といっても、『ベリー・フェレット』のような肉や素材のために狩るものと有害な駆除対象に分かれる。


 今回は前者だ。ホーン・ディアは立派な角が良い素材になり、方やジャンピング・フォックスの強靭な毛皮は冒険者が纏う衣類の材料として好まれている。


 言うまでもないが、駆除されるような魔物は特段危険であり、おいそれとビギナーが討伐に参戦できるような相手にはなっていない。


 念のために全員の鑑定をしてみる。

 あくまでもさりげなく。


 すると、どうやら嘘を付いていないらしいことが分かった。鑑定スキルを持っているのにあえて個々人のレベルを尋ねたのは信用に値するかを値踏みする意図もあったのだ。


 しかし、MPは既に俺の方がかなり高い。

 これが戦闘技能にも反映されるか謎だが、この感じなら足手まといにならずに貢献できるかもしれない。


「分かった。俺じゃ戦力にならないかもしれないが、よろしく頼む。ただし、パーティーは暫定的にひとまず今回だけにしておきたい」


「ありがとう。礼を言う。その条件も無理からぬことだ。承知した」


 こうしてひょんなことからパーティーを結成することになった。


 聞けば、依頼受注の掲示板の前は絶好の勧誘スポットになっているそうだ。ギルドは事実上黙認しているが、あまりにも強引な場合は止めに入るのだという。


 出発は明日らしい。

 なので、さっそく打ち合わせをして、明日に備える。

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