第41話 説得が今回の旅の肝である


「ふむ。代々伝わる石板を見たいと。そう申すのじゃな」


 俺がここに来た目的について話し始めたとたん、神妙な顔つきでオオババ様がそう口にした。まぁ、そんな反応になるのもうなずける。実際のところ、割と最近になって起きた石碑の盗難の件もあるから、おいそれと他人には見せたくないのだろう。


 さすがに内容が内容だけに、床に円陣を組むがごとく親族一同が座り込み、オオババ様の言葉に耳を傾けている。むろん俺が真ん中で。ノエルとユエも同様に正座している。


 さて、肝心の閲覧許可はというと、意外な展開になってきた。率直に言えば、懸念していたオオババ様はともかく、それよりも大きな問題が立ちふさがっていた。ここにきて、姉妹の弟が猛反対してきたのだ。


「オレはぜってー認めないからな」


 あぐらを組んで、しかめっ面をしながら、弟のラートが不意に口を挟んだ。

 あからさまに不機嫌な様子を隠そうともしていない。


 しかしまぁ、その言い分は十分に理解できる。


 なにせ、一応俺は姉妹の命の恩人とはいえ、元はと言えばどこの馬の骨とも分からない人間だ。


 そして、見せてほしいと頼み込んでいるのは村長に代々伝わるお宝で、文字通りの家伝。


 しかも特殊なスキルを習得できるという石板。

 ちょっとそこらの壺を見せてほしいと言っているのとでは訳が違う。

 むしろ弟の主張の方が筋としては通っている。


「そこを何とか。頼むよ、ラート」


「私からもお願い」


 ノエルとユエが援護してくれるが、ラートは決して首を縦に振らない。


「だいたい、お前は本当にそんなに強いのかよ? 見るからにひ弱そうだし、さっきの話もどこまで本当なんだか分かったもんじゃない」


「ちょっと何よ、何その言い方!? 信じられない! 私たちが嘘を付いているっていうの?」


「サイさんが怪しい人だって言うの?」


 あっ、まずい。だんだんと険悪な方向に向かってしまっている。このままでは交渉決裂になってしまうだろう。


「そうだ。お前、オレと模擬戦をしろ!!」


 えっ? 何を言っているんだ? このラートとかいう弟と俺が戦うのか!?


「まだ飯まで時間があるだろう。一瞬で片が付くから今からやるぞ!」

 おいおい、それはいくら何でも無茶ぶりがすぎやしないか。


「えっ、今からですか!? 今日は既にかなり歩いて疲れているんですが……」


「なんか文句あるのか?」


「自分は賛成だ」


 今度は姉妹の母方の兄のギラルドがそう手を上げて発言した。


 皆、ギラルドに注目して、耳を傾ける。


「元々、この石板だって我々でさえ気軽に見れるようなもんじゃない。それは皆も知っているだろう。とすれば、それくらいの覚悟が必要だ。異論はあるか?」


 シーン。


 皆、一様にうつむいて黙り込む。


「よし、分かった!」

 オオババ様がついに口を開く。


「その者、ラートと模擬戦をしたまえ。その結果で判断しようじゃないか。時間は今からでいいじゃろう。なんせ魔物はいつ襲ってくるか分からん。我々はいつ襲われてもいいように鍛錬を重ねて準備している。サイと言ったか、ここで強さと覚悟をみせてくれるか?」


 こうして俺は旅の疲れを癒すはずが、突如として格闘をすることになってしまった。う~ん、試され過ぎている気がする。


 本当に模擬戦をするのか?

 今、ここで??



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