第112話 尋問?
シャドーが故郷へ帰ると聞いたとき……嫌な予感がした。
もしかしたらもう帰ってこないのかも知れない。
彼女はヒットマンだ。
家族もいないと言っていた。
なのに、故郷へ帰ると言う。
その意味を考えたとき。彼女は精算しに行ったんだ。
貞操概念逆転世界……そうここは女性が主流の世界だ。
それがどんな意味を持つのか異性である俺にはわからない。
彼女はヒットマンという職業について、これまでの人生を生きてきた。
精算をするということは……誰かを……
緊張と共に彼女が飛行機から降りてくるのを空港で待っていた。
帰国の連絡が来たので迎えに来たまではよかったが、心はまではまだ準備が出来ていない。
波打つ心臓の音を聞きながら、到着ゲートを見つめる。
目鼻立ちのハッキリした顔、薄い紫色の髪は少し伸びて、紅い瞳は隠されるようにサングラスをつけていた。
「シャドー?」
呼びかけると、サングラスを外した彼女が俺へかけよって抱きつく。
「ただいま。【邪神様】との約束は守った」
無表情ながら、抱きつくほど嬉しいことを身体で表現しくれる彼女から約束と言われて、俺はあの日の約束を思い出す。
「それじゃあ誰も?」
「うん。誰も殺してない」
彼女に人殺しをしてほしくなかった。
「ありがとう。約束を守ってくれて」
彼女を優しく抱きしめた。
「【邪神様】」
「どうしたシャドー?」
「その名は捨てたの……ねぇ。【邪神様】から眷属である私へ名をくれない?」
「眷属って……ふぅ~そうだな。これから黒瀬のファミリーになるんだ。
「ヒナタ?どういう意味?」
俺は彼女の耳元へ口を近づける。
「日が当たる場所って意味だ。もう
意味を伝えると彼女は少しだけ無表情から驚いたような顔を見せた。
「ありがとう。今日から私はヒナタ。黒瀬ヒナタとして生きていくわね」
色々聞きたいことはあるけど。
無事に彼女が帰ってきてくれて、まずは喜びを分かち合った。
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事件もある程度落ち着いた頃。
レイカからヒナタと共に呼び出された。
「ヨル。今日はあなたに協力してほしいことがあるの」
「協力?」
レイカが俺に協力を求めるなど珍しいことだ。
「ええ。今回の事件について尋問をするの」
「尋問?」
「その相手はあなたが居た方が正直に話してくれそうなの」
「俺が?」
そう言われて、俺はヒナタと共に尋問室へと入っていく。
尋問室には椅子に座らされたスピカ・イゾルデ・ブリニア王女の姿があった。
今は意識を失っているようでグッタリとしている。
「彼女が首謀者?」
あまりにも意外な人物だったので、俺はレイカへ問いかける。
「違う。私の調べた相手は彼女じゃない」
しかし、ヒナタがそれを否定する。
「ちょっとした準備だと思ってくれればいいわ」
俺は椅子に座って、ブリニア王女を黙って見つめていればいいと言うので成り行きを見守ることにした。
「あなたが……今回の犯人ですか?」
目を覚ましたブリニア王女は状況の把握をするために辺りを見渡し、俺とヒナタを見て驚いた顔をする。
「犯人?」
レイカの質問に対して意味が分かっていない様子だった。
「とぼけても無駄ですよ。テロリストたちにヨルの情報を売り渡し、日本政府へ貸しを作るために全面的な支援をなさったのではないですか?」
レイカの言葉を受けて、ブリニア王女は目を見開く。
再度、俺を見てヒナタに視線を向ける。
「私ではない!」
二人に弁明するようにブリニア王女はハッキリと否定を口にした。
「確かに私はテロが起こると事前に把握はしていた。それを止めることができなかった罪悪感は私にもある。だが、私が指示を出したわけじゃない!」
必死に訴えかけるブリニア王女にウソは無いように見える。
「……そう。じゃあ今回ヨルの情報はあなたが流したのではないのね?」
「そうだ!断じて私ではない!【邪神様】を守る動きをしたとしても、決してケガをさせたいとも、危害を加えたいとも思っていない」
熱烈なファンであることは間違いない。
そんな彼女が計算して事件を起こし自分の株を上げようとするだろうか?もしも、したとしても颯爽と助けに入り、良いところとりをしそうな気もしないでもない。
「では、誰がヨルの情報を裏の者に流したのかしら?」
レイカの質問に対して、ブリニア王女はどうやって返答するべきか思考を巡らせているようだ。
ここまで見ていて、彼女が悪い存在ではないように思える。
それにヒナタは、ブリニア王女が犯人ではないと断言していた。
では、このやりとりにどんな意味があるのか考える俺にはレイカの行動の心理を考えてしまう。
「……多分ではあるが……怪しい者が二人いる」
「それは誰かしら?」
ブリニア王女はこの場で犯人の名を口にしなければ、自分は解放されないと判断したようだ。
「一人は某国の傭兵をしている者だ。彼女は良くも悪くも金で雇われてここに来ている。傭兵なのだ。利があると思えば動く可能性がある」
「もう一人は?」
「マフィアのボスだ。彼女は協力を結ぶと言ってくれたが、実際は何を考えて居るのか私にはわからない」
二人の人物が出てきたが、俺には全然分からない。
レイカとヒナタには心辺りがあるようだけど……
「そう、話が聞けて良かったわ」
レイカはそれ以上質問することなく、尋問?は終わりを告げた。
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