side殺し屋 ー 2
【シャドー】
東堂家に救助されてからの日々は私にとって……初めての穏やかで平穏な日々だった。
女ばかりの世界は、表面的な戦争など行わない。
暴力という名の愚かな自然災害をすることなく。
ただただ、縄張り争いと口論……そして、秘密裏な暗殺が主流である。
そのため世界中に殺し屋が存在しており、ずっと誰かの命を狙い、命を狙われる日々を生きてきた。
私にとって、誰からも監視されない。
誰からも命を狙われない日々が訪れたことに一種に違和感と緊張感が共同する。
夜になると辺りは静かに寝息だけが聞こえ始め、虫の声や風の音だけが窓から響く。
銃声も、悲鳴も、怒声も何も聞こえない。
【邪神様】を見つけるためにやってきたこの国は本当に穏やかで、私にこんなにも緊張感の無い日々が訪れると思えなくて、恐れすら感じていた。
だけど……
「シャドー?何をしているんだ?こっちに来て一緒に茶を飲もう」
和装に着替えた【邪神様】は、それは見事な品を持つ雰囲気を持ち。
また用意された茶室で、抹茶を提供された私は旨味と苦みで抹茶が大好きになった。
それ以外にも私が作る自国の料理を、【邪神様】が「美味いな!」と笑顔で褒めてくれる。
それは私が知らなかった愛する者と過ごす日々であり……夢のような時間でしかない。
だから、私は仕事をしなければならない。
テロが起こる直前に接触した【邪神様】が選んだワイフの一人。
東堂麗華の下を訪ねる。
「依頼……達成」
私は自分が調べた資料を東堂麗華へ提出する。
「依頼はしていないけれど。報酬はお渡しします。そう……彼女が……」
資料に目を通した東堂麗華は残念そうな顔をする。
資料にはテロ行為を行った者に加担した人物の名前が記されている。
事前にテロ行為が行われることは予想出来ていた。
そのため東堂麗華は【邪神様】に関連する施設に人を配置して、人員整理や避難誘導。異変に対して事前処置を行うことで被害を最小限に収めた。
「ありがとう。あなたが私達の味方になってくれていなければ、被害はもっと大きなものになっていたでしょうね」
東堂麗華から礼を述べられ、私は首を横に振る。
「私は、情報を渡しただけ。実際に事件を止めることはできなかった」
「それでもよ。あなたがくれた情報のお陰で、私は人員を配置して、一般人に被害を出すことがなかったのだから。ヨルとランには囮になってもらったから申し訳ないけど。あなたが側にいてくれてよかったわ」
あのショッピングモールにいた者に一般人はいない。
全てが、【邪神様】を守るために配置された人員だったのだ。
「全ては」
「【邪神様】のためということね。あなたは意外にも健気なのね」
「健気?」
「自分の仕事を放り出して、ヨルに尽くそうとしている。だけど、一つ聞いておきたいんだけど」
「ナニ?」
「あなたはある組織から依頼されて、ここに来たのでしょ?依頼者はどうするつもり?」
東堂麗華の疑問はもっともなことだ。
私はヒットマン。
依頼者が存在する限り、ターゲットも存在する。
今回の依頼者は某共和国のある組織。
そして、ターゲットは【邪神様】。
「話を付けてくる」
「大丈夫なのかしら?」
「必ず帰ってくる」
「そう。そういえば、ヨルがあなたに話があると言っていたわよ。それにあなたが帰ってきたら私からもあなたに話があります。ですので、必ず帰ってきてください」
「わかった」
私は東堂麗華の部屋を出て【邪神様】の下へ迎う。
「シャドー来てくれたのか?」
「ナニ?」
「シャドーには家族がいるか?」
「私に家族はいない。もう誰も……」
聞かれた質問に答えながら、両親の顔を思い出そうとして諦める。
私には存在しない過去。
生まれながらにヒットマンとして育てられた私に家族など。
「なぁ、シャドー。確認して起きたことがあるんだ」
「ナニ?」
「お前は【邪神様】をファンなんだよな?」
「ファンじゃない。下僕。【邪神様】は私の神」
【邪神様】は私に光を与えてくれた。色をくれた。生をくれた。
私という存在がただ真っ黒で、任務を遂行するだけの存在ではないことを教えてくれた。
「なぁ、シャドー。これからも俺の側にいる気はあるか?」
「一生!あなたの側にいます」
絶対に離れない。離れたくない。
この気持ちが何なのかはわからない。
だけど、私はずっと【邪神様】の側にいたい。
「そうか……」
【邪神様】はしばらく景色を眺めて、二人で過ごす穏やかな時間が好き。
「なぁ、今すぐじゃないが……もしも、俺がお前を求めたら答えてくれるか?」
質問の意図がわからない。
「……それは依頼?誰を殺すの?」
「依頼じゃない……誰も殺さない」
「???」
依頼じゃない?何を言っているのかわからない。
「シャドー。俺の嫁に来ないか?」
「嫁?」
「俺のワイフになってくれないか?」
「ワイフ!!!」
ワイフ?私が【邪神様】と結婚する?私はヒットマンで、彼は【邪神様】で……
「俺とファミリーになろう」
ファミリー……私は言葉を失って、自分自身が【邪神様】の家族になってもいいのか自問自答する。
「【邪神様】じゃない俺は嫌か?」
黒瀬夜が【邪神様】であることは間違いない。
彼だからこそ側にいたい。
私は首を横に振る。
「私……ヒットマン……あなたは私を恐いのでしょ?」
「ああ。恐い。だけどな、お前には助けられた。それに今日までお前と過ごした日々はお前という人間を知ることが出来た。お前にウソはない」
【邪神様】は私を受け入れてくれる?何もない私を?
「シャドー!俺の手を取れよ。俺と」
彼が手を伸ばす。
コワイ!この手を取ってしまえば、自分は自分ではなくなってしまうかもしれない。
それでもこの差し出された手を拒否することは私にはできない。
「いいんだな?」
コクリと小さく首を縦にふった。
必ず、私は清算してあなたの下へ帰ってきます。
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