第110話 選択

目の前に選択肢が現れたとき、人はとっさに選択肢を間違えないで選べるのだろうか?


爆発から逃げながら、シャドーに誘導されて走っていく。

ランの手を握り、逃げ惑う人々の中。

シャドーを信じて走り続ける。



「こっち」



シャドーに誘導されて辿りついた場所は公園だった。

辺りには建物はなく。

森に囲まれた公園は人々の避難場所になっているようだ。



「シャドー!タエはタエたちはどこにいるんだ?」

「ここにはいない。だけど大丈夫だから。信じて」

「ハァ~いったい何が起きてるんだ。どうしてこんなことに……」



俺は近くの草むらに腰かけて息を吐く。



「……言った。彼女たちは止まらない」

「これが君が言っていた依頼ってってことか?」

「そう」


シャドーの返答に俺は頭を抱えることになる。


俺のせいで……


「ごめんなさい。二人の会話を聞いていて分からなかったのだけど。二人はなんの話をしているの?」



ランの質問にどう答えればいいのか……正直にシャドーが殺し屋であることを伝えていいのか……俺がどうしたらいいのか考えていると……



「ヨル様の彼女であるラン様の質問にお答えします。私の職業はヒットマンをしていました。現在はわけあって【邪神様】であるヨル様の護衛をさせて頂いております」


「ヒットマン?……そう。そういうこと」


シャドーの答えにランは思案するような顔になる。


「驚かないのか?」


「ええ。ヨルは知らなかったかもしれないけど。ヨルの彼女たちでmainのグループを作っているんだけど。レイカからシャドーさんというボディーガードをヨルが雇い入れたことは聞いていたし。シャドーさんに何かしらのわけがあることは聞いていたからね」


相変わらず、うちの彼女たちは交流を続けていて、こんな状況でも肝が据わっている。


「シャドーさん。今の状況は分かっていたの?」

「何か良くないことが起きることはわかっていたけど。ここまで大規模なことをするとは思っていなかった」

「そう……タエたちは大丈夫なのよね?」

「それは安心してほしい。彼女さんたちの安否は全員確認出来ている」


ランの質問に答えていくシャドー。

慌てている俺よりも冷静に会話をするランの姿を呆然と見つめてしまう。


「全員無事なのね。ホッ」


ランはシャドーの言葉を疑うことなく安堵した顔をする。


「あなたがそういうなら問題ないと言うことね。それで、これから私たちはどうすればいいのかしら?」

「今はこの場で。相手は【邪神様】の正体を掴めていないから大規模なテロ行為を行ったのだと思う。東堂家には連絡をしてあるから、すぐに迎えが来る」


レイカが迎えをよこしてくれる?いつの間にそこまで手を回していたのかわからないが、助かるのか?


「ありがとう。シャドーさん。あなたが影で動いてくれたおかげで私たちは無事に逃げ出せました」



ランはシャドーに向かって礼を言って頭を下げた。


そういえば、俺は助けてもらうことが当たり前でシャドーに一度も礼を言っていない。

彼女が殺し屋だと言うだけで、俺は彼女の行動をいつの間にか軽視していた。


「シャドー。俺からも礼を言う。助けてくれてありがとう」


俺が礼を伝えると、シャドーは片膝をついて頭を下げた。


「私は【邪神様】に仕える者。お褒めいただき光栄」


彼女のことを誤解していたのかもしれない。

殺し屋だと言うだけで、彼女のことをしようとしていなかった。


「仕えるの意味はわからないけど。シャドーが味方でいてくれてよかった。それで?みんなが無事ってことだけど。どうして分かるんだ?」


「それは私が答えるわ」


シャドーへの質問に対して、ランが返事をする。


「ランが?」

「ええ。数日前にヨルに危険が迫っているとレイカから連絡があったの。それでレイカから一人一人へGPSを預かっているの」

「GPS?」

「ええ。ヨルに危険があるということは、私たち彼女たちにも危険が迫るということだから。レイカに忠告されたの。衛星を介して私の位置と健康状態が分かるようになっているの。シャドーさんはそれを見ることが出来るってことでしょ?」


ランの質問にシャドーが頷き。

スマホの画面を見せてくれる。


そこにはそれぞれの彼女の健康状態と位置が分かる画面が映し出されていた。


「これは?」

「東堂家から配給された物」

「それぞれ腕時計型なのよ」


そう言って見せてくれた某会社のウォッチのような形はオシャレなデザインだった。


「ハァ~とりあえずはみんが無事ならよかった」


「ええ。今はレイカのお迎えを待ちましょう」


避難してくれる人々も二次的な爆発が起きていないこともあり、騒ぎは時間と共に静まりつつあった。






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