Sideライバル ー 4

《黄島豊》



 妹のアイリが伝えてきた提案は、僕では考えつかないものだった。


 男子応援団に僕が入る?


 一年間彼らに活動に注目してきた。

 どのアイドルよりも僕は彼らを見てきたと言っても過言ではない。



 そして……あのアイリと行ったライブ……僕にとって衝撃的だった。



 それは推していたアイドルが引退することでも、アイドルたちの目的が夢を与える仕事じゃないことでもない。



「【邪神様】あれは黒瀬夜だった。メイクをして髪型や服装……周りの雰囲気を変えているけど。黒瀬夜に間違いない。年末年始から男子応援団が休部状態になり、動画の配信も緑埜だけの音楽提供サービスになっていた」



 黒瀬夜は、男子応援団を引退する。


 そんな噂すら飛びかっていた。


 だけど、黒瀬は次のステップへ進んでいたんだ。


【邪神様】あれは、アイドルの頂点に君臨する……まさに神のような存在。



「僕は一年間何をしてきたのだろう。

 黒瀬たちは男子応援団として活動を行うことによって成長を遂げた。


 本ばかり読んでいた赤井は筋肉をつけて一つ上の彼女をゲットした。


 白金は動画編集の技術が向上して、マネージャー業にも力を入れていると聞く。


 緑埜の音楽センスはピカイチで天才と呼んでも良い。


 そして、【邪神様】としてデビューを果たした黒瀬は、もうプロとして歩みを始めたんだ」



 もしも僕が男子応援団に入れたなら……黒瀬を倒せるほどの存在になれるだろうか?


 僕にも緑埜の楽曲を提供してもらえれば……



「やるぞ。僕は黒瀬夜を越える。【邪神様】を越えるほどのアイドルになってやる」



 僕は決意を込めた。


 悔しくはあるが、同い年で僕よりも知識を持たないと思ってきた黒瀬や緑埜に僕は完全に負けている。


 だけど、それは今だけだ。


 アイドルの知識は僕の方が持っているんだ。


 僕に足らないのは経験と、僕を引き立たせてくれる楽曲だ。


 それを両方手に入れられる環境に自ら飛び込む。



「あの、面接会場はここでよかったですか?」



 声を掛けてきたのは、顔を髪で隠した小柄な男の子だった。

 話し声を聞かなければ、女子が迷い込んできたのではないかと思うほど綺麗な顔が、髪の間から見えている。



「ああ。ここが男子応援団の面接会場だ」


「ありがとうございます。えっと、先輩ですよね?」


「ああ。僕は二年の黄島豊だ」


「あっはい。桃田です。よろしくお願いします」



 二人で挨拶をしていると、三人目がやってきた。


 名を小金井綺羅。


 高身長で白金と同じぐらい綺麗な顔をしている。



「あっあの」


「僕は二年の黄島豊だ。それに桃田君。どうやら僕たち三人だけのようだな」



 そういって僕は二人を引き連れて扉をノックする。


 部室に入ると、何故かスーツ姿にメガネスタイルの四人が座っていて、質疑応答形式で面談が進んでいく。



「2ーB 黄島豊……です。志望動機は、妹が行ってみたらどうかと打診を受けたからだ」


 敬語なのか、タメ語なのか悩みながら場の雰囲気で話す。


「黄島君は芸能関係を目指しているらしくて、ヨウヘーの音楽とか、ヨルの活動に興味があるらしいよ」


「へぇ~そうなのか?」


 白金が僕のことを説明してくれる。


 黒瀬夜が僕を見る。

 僕はどうしていいのか分からなくて視線を彷徨わせる。


「そっそんなに見つめないでくれ」


「うん?うん。悪い」


【邪神様】が僕を見ていると思うだけで胸が締め付けられる。


「うむ。芸能関係を目指しているってことは【邪神様】のことも知っているのか?」


「ああ、もちろんだ」


 知らないはずがない。【邪神様】は現アイドル会の神だ。


「正体も?」


 緑埜の質問に僕は黒瀬を見る。

 もしかしたら隠しているのかもしれない。

 それに一年生たちにとっての試験なのかもしれないと思うと口には出せない。


「ああ」


「そうか……なら、合格だな」


「うん。僕も同じ意見」


 僕の答えを聞いて、緑埜と白金が合格と告げる。


「黄島君ありがとう。座って。それじゃ最後だね」


 白金に座って良いと言われて、僕は気が抜けた気がした。


 男子応援団に入ると決めてから、面接があると聞いて、今日まで入れるのかわからなくて気が気じゃなかった。



 面談が無事に終わり、退室した後……



「黄島」


「黒瀬」



 僕を呼び止めたのは黒瀬だった。



「どうかしたか?」



 僕は生【邪神様】に緊張しながら、なんとか声を絞り出す。



「同級生なんだ。ヨルでいいぞ。俺もユタカって呼ぶからな」


「おっおう。わっわかったよ。ヨヨヨヨヨヨヨヨヨル!!!」


「はは、なんだよ。お前面白い奴だな。これから同じ応援団になるんだ。よろしくな。ちょっと俺たちは忙しくなるから、ユタカにはハヤトと共に応援団のメインをしてもらいたいんだ」


「ぼっ僕がメイン?」


「ああ、これからダンスの特訓や歌の練習は必要だけど。頼む」


「おっおう。任せてくれ」


「頼もしいな。ありがとな」



 そう言ってヨルは去って行く。



「ヨル……【邪神様】を名前呼び。それに僕がメイン?この僕が……認めてもらえたんだ……」



 僕は力が抜けて座り込んでしばらく動けなくなった。



「頑張ろう……僕はここからスタートするんだ」



 動けるようになるまで、僕はしばらく涙を流した。


 それは感動と……これからの自分を奮起させるために……



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 あとがき


 第五章前半戦終了です。


 今回は貞操概念逆転世界に生きる男性達との絡みを多めにしました。


 男性が受けるダークな部分を書いてみたいと思って始めましたが、なかなか評判は悪そうですね(^_^;


 後半戦は、前半部分の闇に着手していきます。

 どうぞ最後までお付き合いください。


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