side《邪神様》の信者 黒 ー 1

《黒瀬月》



 入学式を終えた私は他の生徒達と共に教室へ入って、自分の席へと着席する。



 成績順によって決められた席。


 私は窓際の隅の席に腰を下ろした。


 私の後ろには空いている席があり、その席には男子が座ることが決まっている。



 空いた席以外に二人の男子が最後尾の席に座っている。

 見た目こそ綺麗な男の子たち。

 教室の女子達は男子たちの容姿に興奮して話をしているが私は興味がない。


 私には兄が居ればそれでいいのだから、ふと隣を見ると黄色い髪を巻髪にセットした女の子が視線に写る。


 彼女も私と同じで男子に興味はないようで、黙って正面を見ていた。



「黒瀬月です。よろしくお願いします」



 私は美少女へ声をかけた。



「あら、あなたからわたくしに声をかけてくるなんて思いもしませんでしたわ」



 彼女から帰ってきたのは、挨拶でも、自己紹介でもなく、よく分からない言葉だった。



「わたくしは、黄島愛莉キジマアイリですわ。首席合格者の黒瀬月さん」


「私のことを知っているの?」


「ええ。少しばかり因縁が私たちにはあるものですから」


「因縁?」


「ええ。それはあなたには関係ないことかもしれませんが、わたくしにはあなたと距離を置く理由があるとだけお伝えしておきます」



 丁寧な言葉ながら、完全な拒絶を伝える言葉。



 私にとって、これまで媚びてくる者や対等に話をする同い年はいなかった。


 だからこそ、それが拒絶であったとしても対等な立場で話をしてくれるアイリは面白く写った。



「そう。でも、距離を置くことはないんじゃないかしら?」


「どういうことですの?」


「だって、あなたには目的があってそれは私に関係があることのでしょ?」


「まぁ、そうですわね」


「なら、私と距離を置くのではなく。私の近くで目的の情報を集めることが正しい判断ではありませんか?」



 私は不思議な感覚を覚えていた。


 彼女と話してみたい。


 そう思った相手は兄とランさんでは初めてのことだった。



「……確かにそうかもしれませんわね」


「ええ。賢い判断です」


「少しばかり腑に落ちない点はありますが、いいでしょう。改めて黄島愛莉ですわ。趣味は兄様のお世話ですわ。休みの日は兄様と過ごす時間が何よりも幸せな一時ですの」



 自己紹介として語られた彼女の思想。



「……わかるわ」


「えっ?」


「私も……私の人生も兄さんが全てです」



 ヨルのことを思うと胸が熱くなる。



「そうですの……わたくしと同じですのね」



 意外な共通点で私はアイリと仲良くなった。


 アイリのお家は外資系を一手に取り仕切る家系だそうだ。


 幼いころからお嬢様として育てられて、青葉高校に入るまでは兄以外の男性はほとんどみたことがないという。



 そのため男性とは兄のことであり、異性を好きになる経験も、兄以外にありえなかったという。



「私と似たような境遇なのね」



 私も生まれたときから兄がいた。


 異性は兄しか居らず、世界は兄を守るために存在していると思っていた。



「そうですね。わたくしのことを分かってくださる。あなたは悪い人ではないのかもしれませんね」


「そうね。よかったら私のことはツキと呼んで」


「わたくしもアイリでかまいませんわ」



 アイリと仲良くなれた私は始めて対等に友達を言える相手に会えたかも知れない。



 それからはクラスメイトたちの自己紹介をして終えて解散となった。



 自己紹介が終わりを迎える頃、一人の男子生徒が教室へと入ってくる。



 金髪碧眼色白の美少年が登場したことにクラスメイトたちは唖然として静まりかえる。



「遅れてすいません。体調が優れなくて……自己紹介は終わったみたいですね。小金井綺羅コガネイキラです。今日は体調が悪いのでこのまま失礼します」



 彼は私の後ろに置かれていた鞄を持ち上げるとそのまま教室を後にした。



 全ての空気を彼一人が持って行ったような。

 少し面白くない雰囲気ではあったけど。



 担任の先生が終わりを告げたことで解散することになった。



「明日からよろしくお願いしますね」


「ええ。アイリ」



 私たちは別れを告げて、兄さんと待ち合わせをしている男子応援団の部室へと向かった。


 部室では、テルミ姉さんとタエ姉さんと共に兄さんがお茶を飲んでいた。



 先ほどの殿方も綺麗な方でしたが、やっぱり兄さんが一番です。



 最近は歌手としてデビューなされて、ますます輝きが増しているような気がします。



 ご自身の輝きに気づいて、羽ばたいて行かれたのですから。



「兄さん」


「うん?ああ。ツキ来たのか。どうだった?クラスメイトは?」


「ええ。友達になれそうな子がいました」


「それはよかった」


「兄さん。大好きです」


「なんだ急に?」



 私は兄さんに抱きついた。



 これからも兄さんを支えようと心に決めて。



「あっ、そうだ。なぁツキ」


「はい?」


「俺は多くのことが出来る方じゃない」



 そんなことはないと思う。

 兄さんは他の男性よりも素晴らしい人だ。



「だから、俺が大切にしたい人たちを大切にする。そのために全力を尽くしたい」


「はい?」


「意味わかんないよな。でも、ちょっと気づいたことがあってさ。だから宣言」


「そうですか。兄さんのしたいように。私はそれを支えます」


「ああ。よろしく」



 兄さんの笑顔は全てが許される。



 私はもう一度兄さんに抱きついた。

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