第55話 悩み相談
体育祭も三日目を迎えて、佳境を迎えつつある。
各学年、各クラスの成績と順位が張り出された掲示板には女子が群がって、最終日にかける意気込みを話し合っている。
俺はその後ろを通りながら、溜息が漏れる。
「ヨル君。大丈夫ですか?」
連日、護衛として一緒に学校へ登校しているタエさんが心配そうに顔を覗き込んでくれる。
「すいません。ちょっと疲れが溜まってきているみたいです」
「それならいいんだけど。若いからって無理しちゃダメだよ」
タエさんは、最近は話し方や周りとの雰囲気にも慣れてきたそうで。
余裕が出来て、実の姉のように心配してくれる。
「う~ん。少しだけ。お話をしようか」
「お話?」
「そう。まだ時間はあるので」
「……そうですね。誰かに聞いてもらったら違うかもしれませんね」
俺はタエさんと共に缶ジュースを買って屋上へ向かった。
出来るなら、他の人には聞かれたくないと言ったら、タエさんが高いところに行こうと言ってくれたのだ。
屋上からは競技の準備をしている女子たちが見える。
「さぁ、お姉さんに話してみなさい」
茶化すように声をかけてくれるタエさんに笑ってしまう。
だけど、その雰囲気が今は助かる。
「えっと、俺には昔からずっと側にいて、仲が良かった女子がいるんです」
「青柳悠奈さん?」
「知ってましたか?」
「ヨル君の知り合いの方は一応ね。じゃないと護衛として判断できないから」
知らない間もタエさんに守られていたんだなぁ。
「ユウナは幼馴染で、色々なことを一緒にしてきたんです。でも、中学時代にちょっとしたすれ違いがあって。最近、また和解できたと思っていたんですけど……」
昨晩の事を思い出す。どうしてユウナがおかしくなったのか俺にはわからない。
俺は昨晩のことを話していいのかわからなくて言い淀む。
「う~ん。ケンカした友達と仲直りしたけど。まだわだかまりがあるってことかな?」
タエさんは全てを話さなくてもなんとなくわかってくれたようだ。
「男女の友情か~それはありえるのかな?」
「えっ?」
「ワタスは、スッゴイ田舎で育ったんだよ。それこそこっちに来るまで本物の男性を見たことがないぐらい田舎で……初めてあったのがヨル君だった」
タエさんと初めてあったときは痴女と間違って、そのあと痴女を捕まえて色々あったな。
「初めて会う男性のヨル君に私は興奮したよ」
「……でも、今は」
「引いた?今は仕事だから理性を総動員しているんだよ。でもね……もしも、ヨル君が私の幼馴染で私の前で無防備な姿を見せるなら……ワタスはもう我慢できなくなると思う」
タエさんの表情は理性を保ちつつも、何かを想像するような顔をして目を閉じる。
「ヨル君は他の男の子と違って凄く距離が近い人だから、女は勘違いしちゃうかもね。例えば二人きりの部屋の中で、ヨル君が自分の前で寝てしまえば……襲ってもいいかなって」
あっ……俺は……自分が貞操概念逆転世界に来ていることを忘れていたのかな?
ずっと、貞操概念逆転世界とは違う出来事ばかり起こるから、女子は襲ってこないし。自分が選ばないと選ばれないと思っていた。
ユウナを挑発したのは俺の方だったんだ。
もしも女子が、無防備に目の前で寝ていて思春期の男子なら我慢できるのか?それも仲が良くて心を許してくれている相手だと思っていれば尚更、もっと親密な関係になりたいと思うのが普通なのかもしれない。
「あはは、護衛が何言ってんだって感じだよね。今のは忘れて」
タエさんは……俺の悩みを解決するために、自分から女性のイヤな部分を話してくれた。俺に嫌われる覚悟もしてくれたんだと思う。
「忘れません。タエさんは初めて会った時から、俺を庇ってくれました。
今も嫌われる覚悟をして女性の気持ちを話してくれました。
それってちゃんと俺のことを考えてくれてるからですよね。
ありがとうございます」
俺が礼を言うとタエさんは照れくさそうに頭を掻いて立ち上がる。
「もう~そういうとこだぞ。君は本当に女性との距離が近すぎだし、男の子がそんな簡単にお礼なんて言ったら女は勘違いしちゃうんだからね」
俺も立ち上がって、タエさんを後ろから抱きしめる。
「タエさんなら勘違いしてもいいですよ。だけど、俺は悪い奴みたいです。大勢の女性のことが気になっているので……」
「バカだな君は……男性は大勢の女と子供を作ってもらわないと困るんだ。むしろ、君ほどのミステリアスイケメンなら大勢の女性が放っておくわけないでしょ」
タエさんはお姉さん風を吹かせて、余裕のあるように言葉を発している。
だけど、大きな胸元に当たる手から心臓の音が聞こえてきて、肩に置いた俺の顔の横でタエさんの顔が熱くなっているのを感じられる。
「俺、また間違えていたみたいです。相談に乗ってもらって嬉しかったです」
これは俺なりの誘惑。
今まで、ランさんにしかしてこなかったけど。
もっと我儘になってもいいのかな?
無自覚に誘惑して……ユウナを勘違いさせてしまった。
「あっあのあのあのあの……いつまで」
「あつ。すいません。そろそろ戻りましょうか」
「はい!」
「本当ありがとうございました。それと……勘違いじゃなくて、誘惑してみました」
タエさんは顔を真っ赤にして立ち止まったまま呆然としていた。
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