第80話

 ルミナスは魔王と勇者の間に割って入る様に転移する。それで流石に魔王も勇者もルミナスに気付いた。


「ん? ルミナス嬢!?」

「お前は、この前の!?」


 二人は考えは違うながらもルミナスからバッ、と距離を取った。


(まさか、勇者が来たと聞いて援護に来たのか? だとしたら、厚意に甘えさせてもらおうか)

(こいつは危険だ。魔王と共闘されては、今の俺たちでもッ!)


 などと二人が思考をめぐらす間に、ルミナスは右手を掲げて口を開く。


「お二人ともごきげんよう。勇者のあなたは、よくも前回逃げてくれたわね。ここで汚名を返上させてもらうわよ?」

「くっ!? ……ああ、どこからでも来るがいい! 今度こそ、負けはしない!」


 などと言い合う二人をしり目に、魔王は戦場から距離を取って言う。


「ルミナス嬢、来るのが遅かったではないか。しかし、よく駆けつけてくれた。今度こそ、勇者を始末してもらおう」

「うーん、一応そのつもりよ。まあ、あまり期待しないで待つことね」


 などと言いつつ、ルミナスは右手を振り降ろす。その手にはいつのまにか《死者の鎌デスサイズ》が握られていた。空気を切り裂く鎌の先は、勇者の左胸に向けられている。


「勇者、一応言い残したことがないか聞いてあげるわ」

「……お前が連れていた人は、生きているんだろうな?」

「キアラのことかしら? ええ、もちろんよ」

「そうか……それだけ確認できればいい。行くぞ、皆!」

「おう!」

「「「はい!」」」


 勇者一行が、ルミナスへ向かって駆けだした!


 数分後、地面にしていたのは勇者たちだった。


「ど、どうして、ここまでの力量差が……」

「あり、えない。俺たちだって、強くなったはずなのに……ッ!」


 勇者とその仲間の大柄の男が悲痛な声を上げる中、ルミナスは宙に浮かんだ《死者の鎌デスサイズ》に腰掛けて勇者一行を見下していた。


「簡単な話よ。もともと、あなたたちに勝ち目なんてなかった、それだけよ」

「……この前は、加減していたとでもいうのか?」

「うーん、正確には小手調べ、って感じかしら。勇者と言うからどれくらいの力か試しておきたかっただけよ」

「ははっ……魔王の従者と言うのは、こうも強いものなのか。現実は非情だな……」


 杖を支えに、勇者は立ち上がりながらそう言った。引きつった口端は、しかし、笑みを浮かべていた。


「最後に、名前を聞いてくれるか? せめて、その脳裏に刻んでくれ」

「それくらいならいいわよ。時空を司る邪神教最高司祭、冥府からの使者ルミナス・フレイア。あなたの名を聞いて差し上げましょう」

「っ!? ……やはり、か。ルミナス・フレイア。もしや、とは思っていたのだ」

「ん? どうしたの?」

「いや、何でもない」


 ルミナスの問いに、勇者はそう答えて深い笑みを浮かべる。握る剣の剣先を向け、叫ぶ。


「キズム帝国筆頭聖騎士、リムス・グランド。いざ、参る!」

「っ!?」


 勇者の言葉に、ルミナスは驚きを隠せなかった。なぜなら勇者の名乗ったその名は――


 ソシャゲにおいて、かつてルミナスが好敵手としていた、勇者の名だったからだ。

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