第37話
「あ、頭、がぁ……」
魔王城を頂上まで制覇したルミナスはその場にキアラを下ろした。突然のことに驚いたキアラが頭を抱えてふらふらと千鳥足を踏んでいた。
「大丈夫? すこしとばしすぎたかしら」
「い、いえ、私は大丈夫です。……それより、ルミナス様こそ大丈夫ですか?」
「え、ええ、なんとかね」
キアラは足元を見下ろす。するとそこでは、両腕と膝をついて四つん這いになり、荒い息を吐く顔色の悪いルミナスの姿があった。
「ま、まさか階段を駆け上がるだけでここまで疲れるだなんて。直接転移魔法で移動すればよかったかしら……。うっ、吐き気が……」
「えっと、お手洗いまでお連れしましょうか?」
「いえ、大丈夫よ。堪える。……」
朝食を食べなかったのは正解だったなと過去の自分を称賛する彼だった。
「走っただけで瀕死とか、笑い事じゃないわ。本当にどうしましょうか」
「ははは……精霊薬を服用し続ければ、いつか良くなるはずですので、ご辛抱ください」
「それについても魔王に話さないとね。さて、そういう言うわけで、結局勇者はもう魔王と対面しているみたいね」
ここまでの階層には勇者にやられたボスの姿はあったが、肝心の勇者の姿はなかった。残るは魔王の部屋のみ、ということで勇者と魔王はもう戦ってるのだろう。ルミナスは覚悟を決めた。
「それじゃあ、軽くひねってあげましょう」
そう言って、重い扉を開けた。
「さあ勇者よ、戦いを始めようではないか! ――え?」
「覚悟しろ、魔王! ――ん?」
そして、まさに開戦と言った様子でにらみ合う魔王と勇者とそのお供四名がいる部屋に足を踏み入れた。
突然開いた扉にもちろん中にいた者たちは驚き、振り向く。そして、さらにそこにいる人物を見て驚く。
「ルミナスゥっ!?」
「あれは、人間!」
魔王はルミナスの顔を見て、勇者はキアラを見て、だが。
「そこの魔族! さらった人間を返してもらおうか!」
「ルミナス……様、どうしてこんなところに!?」
「あなたたち、騒がしいわね。まあ説明くらいしてあげるわ。《
ルミナスとキアラの姿が扉の前から消え、玉座から立ち上がった魔王の隣に現れる。
「瞬間移動!? それもほとんど準備もせずに、だと?」
「おお、さすがはルミナス様だ! そ、それで? どうしてこのような辺鄙なところへ? 見ての通り、今我と勇者が戦おうとしているところなのですが……」
勇者はルミナスの瞬間移動を見て驚きを叫び。魔王は先ほどから感じていた疑問をぶつけた。
「まあ、あなたには恩義があるもの。勇者との戦いと聞いて加勢に来たわ」
「それはありがたい! ちょ、ちょうど私もまだ出るのは早いと思っていたところだ。では、任せてもいいか?」
魔王はルミナスの表情を伺いながら受け答えを間違いないように言葉を選びながらそう言った。偉くなりすぎないように、しかしルミナスの厚意を無下にしないように慎重に。その首筋は、すでに冷や汗だらだらだった。
「そうね、前座は任せて頂戴。と言っても、わたくしも負けるつもりはないのだけれど」
そんなことを済ました表情で告げた彼の内心はこうだ。
(やばい、吐きそう。魔王にはまだやってもらわないといけないことがあるし守りたいが、さっさと終わらせないと……。ここ最近はルミナスの力の扱い方も様になってきたし瞬殺すれば何とかなるだろ)
といった感じで、実はまだ治まっていなかった吐き気と必死に戦っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます