第34話

「はい? 勇者、もう魔王城に着いたの?」

「はい、最速便の伝達でそのような内容のお手紙をいただきました」

「見せてもらえる?」

「はい」


 ルミナスが今日も今日とて部屋でくつろいでいると、相変わらず金髪と碧眼の綺麗なキアラが一通の手紙をもって入室してきた。


 彼はキアラが差し出した手紙を受け取り、開く。恐らく異世界の文字なのだろうがなぜか読めるその手紙には、このようなことが書かれていた。


『拝啓 ルミナス様へ

 本日もまた魔王城は暗闇に包まれた良き天気です。

 さて、ご挨拶もこのくらいに本題なのですが、助けてください。勇者が本気で殺しにかかっています。出来るだけ早くお願いします。

敬具 いつだかの首無し騎士デュラハンより』


「ああ、いつだかの首無し騎士デュラハンからの手紙なのね。てっきり魔王からの応援要請かと思ったわ」

「そちらに関しては相変わらずないですね。やはり、魔王様もお強き方。きっと自信がおありなのでしょう」

「それもそうね。でも、首無し騎士デュラハンが応援要請ねぇ。個人的なお願いのようだけど、勝手に受けてもいいのかしら。というか、あのデュラハンもそれなりに強かったと思うのだけれど、勇者はそれを倒せるほどなのかしら」


 思い出すのは、顔がない癖に喋ったり表情の変化を見せるあの首無し騎士デュラハンだ。愉快な奴だったと彼は記憶している。それに、纏う覇気は本物だったとも。初見ではかなりビビっていた彼なのでそこは間違いないだろう。


「あら? そう言えば首無し騎士デュラハンのもとに向かうにはあの人を越えなければいけないはず……まさか、すでに勇者に負けてしまった? いや、そんなまさか……」

「ルミナス様? 大丈夫ですか?」


 考え込み、小言でぶつぶつというルミナスを心配に思ったのか、キアラがルミナスの顔を覗き込むように言った。


「あっ……え、ええ、大丈夫よ。ただ、魔王城の門番は知り合いでね。魔王城内部で最初のボスであるいつだかの首なし騎士デュラハンを倒そうとしているのなら、もしかしてやられてしまったのでは、と少し心配になってね」

「ルミナス様に心配されるようなお方……羨ましいですね。ですが、その方もお強いのでは?」

「そのはずよ。それこそ、初めて会った時にはわたくしでも殺されると思ったほどにね」

「そ、そうなんですか!?」

「あの時に感じた覇気は間違いなく本物よ」


 間違いではないが、正解でもない気がする。


「で、でしたらなおさら心配なさる必要はないのでは? それほどまでにお強い方ならば安心ではないでしょうか」

「まあ、それもそうね。きっと、首無し騎士デュラハンが変な勘違いを起こしたか、相当ビビりなだけね。また明日にでも様子を見に行ってみましょうかしら」


 ルミナスが視線をずらして窓の外を見れば、すでに夕暮れ時。

 体調の悪いルミナスは早寝早起き+三食の時間をしっかりと定めて生活しているため、そろそろ夕食を食べて寝る時間だった。


「そうですね。その際はお供させていただきます」

「明日の当番は……キアラだったわね。ええ、お願いするわ」

「はい。では、キアラはこれで失礼します。すぐに今日の当番のミティムが食事をお持ちするかと思いますので、少々お待ちください」

「ええ。手紙ありがとうね」

「恐悦至極にございます」


 小さくお辞儀をしてから、キアラは優雅に部屋を出て行った。

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