第32話
「タオルをお持ちしました! って、あれ? ミティム先輩?」
「キアラ、良いからタオル」
「は、はい!」
ドアを蹴破る勢いで開けたキアラがルミナスの部屋に入ると、落ち着いた表情のミティムが待っていた。一瞬固まったキアラだったが、ミティムにタオルを手渡した。
ルミナスの顔にかかった精霊薬を優しくふき取りながら、ミティムはキアラの方を見ずに言った。
「あなた、前の場所ではこんなミスしなかったのに。ルミナス様がいい人だからって気を抜きすぎなんじゃないかしら」
「あ、す、すみません……そんなつもりじゃ、なかったんですが」
「まあ、ルミナス様は本当に人がいいお方だから、きっとお叱りになったりはしないんでしょうけど。気を付けないと、いつ見限られるかわからないわよ」
「は、はい……」
ミティムに抑揚のない声で言われて、キアラが肩を落とす。言われた通り、自分は気を抜きすぎていたかもしれない、とでも思っているのだろう。反省している様子を横目で見て、ミティムは口元を緩めた。
「はい、この話はこれで終わり。確かにこれは痛恨のミスと言えるけど、ルミナス様の熱中症という病気は良くなったようだし、私から責めることはないわ」
「え? ……あ、本当だ。顔色がよろしいですね」
見てみれば、ルミナスは伸びているのではなく安らかに眠っているだけだった。小さく寝息を拭きながら、可愛らしい寝顔を浮かべていた。
「精霊薬、だったかしら? かける薬だったの?」
「そうではないと思いますが……何はともあれ、良かったです。今度、それについても調べてみますね」
「ええ、そうして」
それから二人でルミナスの寝顔を見ていると、ネオンがティナを連れてやってきた。
「だ、大丈夫ですか!? ルミナス様に何か……? あら? 特に問題はないようだけど」
「え? ……本当だ。よかったぁ……」
緊迫した表情を解いて、呆けたように曖昧に笑うティナと、心底安心したようにその場にしゃがみ込むネオンを見て、ミティムとキアラは笑みを浮かべた。
「説明は私の方から。何はともあれ、事態は収拾しましたよ」
「そのようで何よりです。では、お願いしますね、ミティム」
「はい。あと、キアラとネオンに関しては今回はおとがめなしということで、お願いします」
「まあ、そこはルミナス様次第ですけれど、良いでしょう。それじゃあ、あとのことは任せますよ。キアラ、ネオン」
「「はい!」」
その後、ティナとミティムはその場を後にし、疲れたように笑みを浮かべるネオンとキアラだけがルミナスのそばに残った。
しばらく気まずい空気が流れたが、ネオンが切り出したことでその空気感は終わった。
「その、さっきはごめんなさい」
「いえ、キアラこそ……」
「……今回は、お互い反省する、ということにして終わりにしませんか?」
「はい、キアラとしてもそうしてくれると助かります」
「「はぁ……」」
二人とも、後悔が色濃く現れた表情でため息を吐いた。
それからしばらく二人でルミナスを見守っていると、彼が目覚めた。
「あら? わたくし、いつの間に眠っていたの? あら、二人ともおはよう。悪いわね、付き合わせちゃって」
「い、いえいえ、こちらこそです。はい」
「キアラも謝りたいくらいです」
「へ? 二人とも、何を言っているの?」
キアラとネオンの二人は、笑ってごまかすことを選んだようだ。彼自身自分に何が起こったのかわかっていないようだし、良い判断だったと言えるだろう。
「そう言えば、体軽くなったわね。眩暈もしなくなったし……精霊薬のおかげかしら」
そう言いながら、彼は体を起こそうとする。
「あ、大丈夫ですか? まだ動かないほうが……」
「お手伝いしましょうか?」
「いえ、大丈夫そうね。ありがとう」
ネオン、キアラの順でルミナスを気遣う言葉をかけたが、彼は難なく起き上がる。
体の調子を確かめるようにその場でストレッチをはじめ、最後に腕を上に伸ばして伸びをする。可愛い間延びした声が部屋に響いた後、ふぅ、とこぼしながら腕を下ろした彼はネオンとキアラに向き直った。
「本当にありがとう。かなり楽になったわ。これからもこの精霊薬とやらを使わせてもらおうかしら」
「それは良かったです」
「それでは、これからも追加発注してもらうようにキアラが言っておきます」
「ええ、頼んだわ」
ネオンもキアラも、安心したように笑みをこぼした。彼も、それにこたえて笑みを浮かべる。
「そう言えば、わたくし結局精霊薬を飲んだ記憶がないのだけれど、あれの副作用なのかしら。寸前の記憶が無くなるくらいだったら、わたくしの能力で見直すことができるからいいのだけれど」
「あ、いえ! 断じてそのような副作用はございません! ルミナス様は朦朧とされておられましたし、恐らくその影響かと! 問題はまず間違いなくございませんので、ご安心ください!」
「その通りです!」
キアラが早口でまくしたて、ネオンがそれに賛同する。
「そう? まあ、それならいいわ。でも、気になるわね」
「気にする必要はありません!」
「はい、私たちが保証します!」
「……後で確認するわ」
「「お待ちください!」」
二人の言動を不審に思った彼が過去を見たところ、彼は笑って流したが、ネオンとキアラは猛反省した。
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