第29話

「綺麗な花ね。名前は分かる?」

「これはブラッドクリムゾンと言って根から血を吸って成長するという――」

「見た目に反して恐ろしいわね」 

 

 彼は綺麗な赤色の花を前にそう呟いた。


「ここはさっきから恐ろしい名前の植物しかないわね。人食い花だとか死鷺爪草しろつめぐさだとか。火器かきの種もあったわね」

「まあ、死の森と呼ばれていますから」

「そうなの!? 初耳なんだけれど!?」


 彼は心底驚いた。ネオンが魔獣がいそうだと言って連れてきた森は、どうやら死の森というらしい。


「ま、まあいいわ。適当に魔獣を倒して、と思ったけれどこれもしかして植物を倒した方がいいのかしら」

「さすがにそれはだめです。動かない相手と戦っても格好良くないじゃないですか」

「それもその通りね。……というか、ここら辺花粉すごいわね。さっきから花がムズムズ……はっくしょん!」


 彼が大きくくしゃみをすると、ネオンが心配そうに近寄った。


「大丈夫ですか?」

「え、ええ一応大丈夫よ。さっさとこんなところはなれて――」


 森の中がざわめいた。先ほどまで驚くほど静かだったというのに、一気に喧騒に包まれた。


「な、何事? まさか、今のくしゃみで魔獣が寄ってきた?」

「あ、そう言えばこの森に棲む魔獣は皆夜行性でしたね」

「……先に言ってくれないかしらぁ!?」


 夜行性なら出てこないのは当然だし、その睡眠を邪魔して怒りを買うのも当然だ。彼一人ならともかくネオンも連れた状態で怒りをあらわにした多数の魔獣を相手にする自信が彼にはなかった。

 しかし、魔獣たちは無情にも彼の予想通り襲い掛かってきた。


 木々の向こうから足音が聞こえ、彼は死者の鎌デスサイズを呼び出す。


「こうなったら意地でも生き残ってやりましょう。あなたを守りながらっていうのが難しいけれど、頑張ってみるわ」

「はい、頑張ってください!」


 無表情に近しい表情をとり続けているネオンに頑張ってと言われても皮肉を言われている気にしかならなかったが、ネオンとしては本気で応援しているのだろう。彼はそれが分かっているため気合を入れなおし、草影から飛び出してきた魔獣たちに一歩踏み出した!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る