第27話

「よく来たな挑戦者よ、私の名は首無し騎士デュラハン。さあ、かかってくるが――」

「あら、久しぶりね」

「あ、ご無沙汰しております! どうぞお先にお進みください!」 


 首無し騎士デュラハンは挑戦者の気配を感じてお決まりのセリフを述べようとして、ルミナスの顔を見たとたんに態度を豹変させて恭しく敬礼をした。


「え? 今の方ってここのボスとかじゃないんですか?」

「そうだけれど以前攻略しているし、良いんじゃないかしら」

「へえ。そう言えばルミナス様は魔王様のところまで自力で行かれたんでしたね。では、ここより上のボスたちも?」

「一瞬で蹴散らしてやったわ」


 中には姿も見られずに致命傷を負ったものもいることを、彼は知らない。


「さて、着いたわね」

「皆さん親切でしたね。お優しい方々でしたし、本当に魔王城なのか疑いたくなりましたよ」

「それもそうね。以前来たときは本当に瞬殺だったからまともに顔を合わせてないのに、よくわたくしが分かったものだわ。挨拶くらいしていこうと思ってはいたけれど、ああもぺこぺこされるのは逆に気分悪いわね」

「ルミナス様のようなお人でもそのように感じるのですね。新発見です」


 ネオンはここにきて最も驚いいたような表情をとった。


「やっぱりあなたはあなたで変わっているわね……さて、では魔王に挨拶しましょう。報告書を準備しておいて頂戴」

「かしこまりました」


 ネオンはここまで肩にかけてきたカバンの中を覗き込み、一束の書類を取り出した。


「準備万端です」

「じゃあ、入るわね」


 コンコンコン――


「入るがよい」


 彼がドアを三回たたいて少し間が開いた後に中から入室を了承する声が聞こえてきた。


「魔王、入るわよ」

「失礼します」


 彼に続いて ネオンが部屋に入る。部屋の突き辺りには玉座が置かれており、そこに魔王が腰かけていた。相変わらずの好青年である。

 しかし、そんな好青年はルミナスの顔を見たとたん見下すようなイカした表情を崩し、顔を青くした。そして、媚びるような口調でまくし立てた。


「ご、ごごごごきげんようルミナス嬢。此度はどうかしたかな?」

「いえ、領地の進捗の報告をと思ってね。一応資料をまとめたから提出しておくわ」

「さ、左様か。では、受け取ろうではないか」

「ええ。ネオン、頼んだわよ」

「かしこまりました。魔王様、こちらでございます」

「ああ、ご苦労」


 冷や汗を流しながら魔王は手前まで近づいてきたネオンから資料を受け取る、かと思われたとき、ネオンが魔王との距離を一気に詰め、背伸びをして耳元に口を近づけてこういった。


「魔王様、私はあなたの弱みを握ってしまったかもしれません」

「っ!?」


 魔王は驚きに目を見開くと、さらに汗をだらだらと流しながらネオンを凝視した。ネオンの顔には、まさしく悪女の笑みが浮かべられていた。


「では、資料はこちらになります。これからは、お背中にご用心を」

「あ、ああああああそうだな。忠告、かかか感謝するぞ。あははっ、ははは!」

「いえ、もったいないお言葉です」


 魔王は焦りからか声が震え、ネオンはそれを可笑しそうに、というより滑稽そうに笑っていた。


「ん? 二人ともどうしたの?」


 彼は、何も知らずに疑問符を浮かべていた。

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