第3話『17歳になってから初めての……』

 今日は朝からよく晴れている。早朝に道本と一緒にジョギングしたけど、空気がとても爽やかで走るのが気持ち良かった。道本も気持ち良さそうにしていた。

 天気予報によると、今日は一日ずっと晴天が続き、雨が降る心配は全くないという。空も愛実の17歳の誕生日を祝ってくれているような気がした。

 今日は午前中に愛実とお家デートして、午後からは愛実の誕生日パーティーの準備をして、夜にはパーティー。愛実の家でお泊まりをして、明日はバイトがないから愛実とずっと一緒にいられる。今日と明日を大いに楽しもう。




 午前8時50分。

 午前中は愛実とお家デートだ。午前9時にうちに来る約束になっている。愛実は約束の時間よりも少し早めに来ることが多く、今か今かとワクワクした気持ちになる。

 ――ピンポーン。

 インターホンが鳴った。

 鳴らしたのは愛実かもしれないと思い、俺はすぐに扉の側にあるモニターに向かい、スイッチを押す。すると、画面には愛実の顔が映る。


「はい」

『リョウ君、来たよ』


 画面に映っている愛実は笑顔になる。可愛いな。


「すぐに行くよ」

『うん』


 俺は自室を出て、玄関へ向かう。

 玄関の扉をゆっくりと明けると、そこにはロングスカートにフレンチスリーブのフリル付きのブラウス姿の愛実が立っていた。愛実は俺と目が合うとニコッと笑いかけてきて。本当に可愛いな、俺の恋人。


「おはよう、リョウ君」

「おはよう、愛実。その服……凄く可愛いよ。よく似合ってる」

「ありがとう! リョウ君もワイシャツ姿がよく似合っててかっこいいよ!」

「ありがとう」


 よく着る服装だけど、愛実にかっこいいと言ってもらえて嬉しいな。その嬉しさと、愛実の可愛さもあって、気付けば愛実の頭を優しく撫でていた。


「気持ちいい。リョウ君に頭を撫でられるの好き」

「それは良かった。……さあ、上がって」

「うんっ。お邪魔します。リョウ君の部屋に行く前に、智子さんと竜也さんに挨拶してもいい?」

「ああ、いいぞ」


 愛実を家に上げて、1階のリビングへ向かう。

 リビングに行くと、両親はソファーに座ってアイスコーヒーを飲みながら談笑していた。愛実と付き合い始めてから、両親の仲睦まじい様子を見ると凄くいいなぁと思うようになった。


「智子さん、竜也さん、おはようございます」

「おはよう、愛実ちゃん! いらっしゃい。あと、17歳のお誕生日おめでとう!」

「誕生日おめでとう、愛実ちゃん」

「ありがとうございますっ」


 愛実は嬉しそうにお礼を言う。10年以上家族ぐるみの付き合いがあるし、今は恋人の両親なので誕生日を祝われて嬉しいのだろう。


「今年も誕生日パーティー、楽しみにしているわ」

「今年も招待してくれてありがとう。楽しみにしているよ。プレゼントも用意しているから」

「はいっ」

「ゆっくりしていってね、愛実ちゃん」

「はいっ。午前中だけですが、リョウ君とのお家デートを楽しみます」

「楽しもうな」

「うんっ」


 愛実は俺の方を見て、首をちょこんと縦に振って。その仕草もとても可愛くてキュンとなる。

 その後、2階にある俺の部屋に愛実を案内する。

 愛実の希望を訊いて、アイスコーヒーを淹れることに。

 1階のキッチンに行き、愛実の分と俺の分のアイスコーヒーを淹れていく。また、愛実はガムシロップを入れてほしいと言われたので、愛実の方にはガムシロップを一つ入れた。

 俺のマグカップと、愛実専用のマグカップを乗せたトレーを持って俺の部屋に戻る。愛実はベッドの側にあるクッション座ってスマホをいじっていた。


「お待たせ、愛実。アイスコーヒーを淹れてきたよ」

「ありがとう、リョウ君」


 俺は愛実の前とその隣にアイスコーヒーの入ったマグカップを置いて、勉強机にトレーを置いた。

 愛実の隣にあるクッションに腰を下ろし、アイスコーヒーを飲むと……うん、結構美味しくできてる。

 愛実の方を見ると、愛実はアイスコーヒーを飲んでいた。


「うんっ。ほんのり甘くて美味しい。今日は晴れて暖かいから、冷たいのがいいなって思うよ」

「美味しく作れていて良かったよ」

「リョウ君の作るアイスコーヒーはいつも美味しいよ。ありがとう」

「いえいえ」


 いつもの柔和な笑顔で言ってくれるので、今の愛実の言葉が本心なのだと分かる。これまでにたくさんコーヒーを作ってきたけど、美味しいと言ってもらえて本当に嬉しい。そんな思いを胸に抱きつつ、アイスコーヒーをもう一口。さっきよりも味わい深く感じられた。


「愛実。今日は愛実の誕生日だし、愛実にとっては17歳になってから初めてのデートだ。だから、愛実のしたいことをしたいな」

「ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかな」

「ああ。何でもいいぞ」

「うんっ。まずは……キスしたいな」

「キス?」


 俺がそう言うと、愛実は優しく笑いながら「うん」と首肯する。愛実の笑顔は頬を中心に赤らんでいて。


「17歳最初のキスをしたいなって。いいかな?」

「もちろんだ」

「ありがとう!」


 嬉しそうな様子で愛実はお礼を言った。

 恋人として付き合い始めてから、愛実とはたくさんキスをしている。ただ、17歳最初のキスは一度きりしかないから、こうしてお願いをしたのかもしれない。

 愛実の指示で俺達は向かい合う体勢になる。その直後、愛実は俺のことをそっと抱きしめてくる。そのことで、愛実の優しい温もりや甘い匂い、体の柔らかさがはっきりと感じられて。これからキスするのもあってドキドキしてくる。


「大好きなリョウ君と付き合う中で17歳の誕生日を迎えられて嬉しいよ」


 俺を見つめながらそう言う愛実。至近距離で見つめられているし、笑顔が可愛いのもあって凄くキュンとする。


「愛実がそう言ってくれて嬉しいぞ。俺も愛実が大好きだぞ。改めて、誕生日おめでとう」

「ありがとう。……リョウ君、大好き」


 可愛い声に乗せて俺への想いを伝え、愛実は俺にキスしてきた。

 唇が重なった瞬間、愛実の唇の独特の柔らかさと温もりが伝わってきて。アイスコーヒーを飲んだのもあり、コーヒーの香りもしてくる。

 これまでに数え切れないほどにキスしてきたけど、愛実の17歳最初のキスなのもあって特別感がある。そういったことを思いながら、俺も愛実のことを抱きしめる。


「んっ……」


 愛実は甘い声を漏らすと、俺の口の中に舌を入れ込ませてくる。愛実の生温かい舌が俺の舌に絡んできて。そのことで、愛実のために作ったほんのりと甘いコーヒーの味が濃厚に感じられて。

 愛実の舌の感触や生暖かさ、舌の絡ませ方が気持ち良くて。俺からも愛実に舌を絡ませる。


「んんっ」


 こちらから舌を絡ませた直後、愛実は甘い声を漏らして、体をピクッと震わせて。俺を抱きしめる力が強くなって。17歳になっても、可愛い反応を見せるのは変わりないな。

 お互いに舌を動かしながら絡ませていく。

 愛実は甘い声をたまに漏らすので、凄くドキドキさせられる。体がどんどん熱くなって。愛実の体から伝わる熱も強くなって。

 たっぷりとキスをした後、愛実の方から唇を離した。

 目の前には恍惚とした笑みを浮かべる愛実がいて。舌を絡ませるほどのキスをしたので、愛実の唇は湿っていて。俺の口と愛実の口の間に唾液の糸が伸びて。なので、愛実はとても艶っぽさを感じた。そう思った瞬間、俺達の口を繋ぐ唾液の糸は切れた。


「17歳最初のキスだから……リョウ君に舌を絡ませてみました」

「そうだったのか。俺からも絡ませたら、愛実は甘い声を漏らして、体を震わせてたな。可愛かったぞ」

「凄く気持ちいいし、キュンときちゃって」

「ははっ、そうだったか」

「あと、舌を絡ませたから、リョウ君からコーヒーの味を感じたよ」

「俺もだ。愛実のアイスコーヒーにはガムシロップを入れてあるからから、ちょっと甘いコーヒーの味がした」

「そっか。リョウ君も私もコーヒーをよく飲むから、私達らしいキスの味だね」

「そうだな」


 これからしばらくの間、コーヒーを飲んだら今のキスのことを思い出しそうだ。アイスコーヒーを飲んだときには特に。


「……17歳最初のキスはとても素敵なキスになりました。ありがとう、リョウ君。自分から頼んだことだけど、リョウ君から誕生日プレゼントをもらった気分だよ」

「そう思ってもらえるキスができて良かった」

「うんっ。……リョウ君とキスしたから凄く幸せだよ」

「そう言ってくれて俺も幸せだ」


 そう言い、今度は俺から愛実にキスした。愛実からされるキスもいいけど、自分からするキスもいいなって思う。

 数秒ほどして、俺から唇を離すと、愛実は嬉しそうな笑顔で俺を見つめている。


「これが17歳になってから初めてリョウ君にされたキスだね。嬉しい」

「良かった。愛実からキスされたから、俺からもキスしたくなってさ」

「ふふっ、なるほどね。とてもいいキスでした。17歳の1年間ではリョウ君といっぱいキスしたいな」

「そうだな」


 きっと、これからの1年間で数え切れないほどにいっぱいキスするのだろう。そうなるように、愛実と仲良く付き合っていきたい。


「じゃあ、次は……昨日の深夜に放送されたアニメを観ようか」

「ああ。ちゃんと録画してあるぞ」


 それからは、クッションに隣同士に座り寄り添いながら、昨晩放送された俺も愛実も観ているアニメを観ることに。俺が淹れたアイスコーヒーを飲みながら。

 昨晩録画したアニメは2作ある。ただ、2作とも好きだし、何話も放送されているアニメなので、キャラクターやストーリーのことなどを中心に話して。だから、とても楽しくて。2作目のエンディングまであっという間だった。


「どっちも楽しかったな」

「楽しかったね。あと、17歳になってから初めて観るアニメだったけどとても楽しかったよ。リョウ君と一緒に観たから」


 愛実はそう言うと、俺に寄りかかってきて、俺を見上げてニコッと笑いかけてくれる。滅茶苦茶可愛いな。


「そう言ってくれて嬉しいよ。俺も愛実と一緒だから凄く楽しかったよ」

「リョウ君も同じで嬉しいな。リョウ君と一緒にアニメ観ることも、17歳の1年間でいっぱいしたいことだよ。これまで10年以上続いていることだけどね」


 愛実は可愛い笑顔でそう言ってくれる。

 愛実と出会ってから10年以上の間に、アニメを一緒に観ることはたくさんあって。だから、俺達の日常の一つになっていて。それを楽しいと言ってくれて、17歳の1年間でもいっぱい観たいと言ってくれることがとても嬉しい。


「嬉しい言葉だな。これからもいっぱい観ていこうな」

「うんっ」


 笑顔で返事をすると、愛実は俺にキスしてきた。

 その後は部屋にあるBlu-rayに録画されているアニメを観たり、アイスコーヒーを飲みながら談笑したりするなどして、17歳になった愛実との初めてのお家デートを楽しむのであった。

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