特別編4

プロローグ『招待したい』

特別編4




 9月10日、土曜日。

 俺・麻丘凉我あさおかりょうがは今、幼馴染で恋人の香川愛実かがわまなみと、幼馴染の桐山きりやまあおいと一緒に、昨日の深夜に放送された3人とも好きなアニメを観ている。

 愛実とあおいからの誘いで、今日は昼過ぎから俺の家で昨日の授業で出た課題をして、その後にアニメを観ているのだ。今年の春にあおいと10年ぶりに再会してから、俺達にとって定番の過ごし方の一つだ。

 定番ではあるけど、こういう時間を過ごせることをとても幸せに思っている。そう思う理由は、数日前にあおいと愛実が立て続けに風邪を引いて学校を欠席したからだ。2人とも、欠席した日の朝は辛そうにしていたし。だから、元気な2人と一緒に過ごせて幸せなのだ。2人の笑顔を見ていると特に。


「今週のエピソードも面白かったですね!」

「面白かったね!」

「ああ。面白かったな。あっという間にエンディングだった」


 アニメを観終わり、俺達はそんな感想を口にした。

 好きなアニメの最新話が面白かったし、愛実とあおいと話しながら観たのでとても満足している。愛実とあおいも同じような気持ちなのか、満足げな笑顔になっていて。2人の笑顔を見ながら、俺の淹れたアイスコーヒーを一口飲むととても美味しく感じられた。


「昨日のアニメも観終わったし……次は何をしようか? 2人は何かしたいことはあるか?」

「そうですね……他のアニメを観たり、テレビゲームをしたりするのも面白そうです。愛実ちゃんは何かしたいことはありますか?」

「したいこと……あるよ。来週末絡みのことなんだけど」

「来週末絡みですか」

「来週末か……」


 来週末の日付を考えると……愛実が何をしたいのかだいたいの想像がついた。そう思いながら、俺はあおいと一緒に愛実のことを見つめる。


「来週の日曜日……9月18日に、リョウ君とあおいちゃんを誕生日パーティーに招待したいです」


 俺とあおいのことを交互に見ながら、愛実は優しい笑顔でそう言ってきた。想像通り、誕生日パーティーのことか。

 愛実の誕生日は9月18日なのだ。来週の日曜日が18日だし、毎年、愛実の誕生日には愛実の家で誕生日パーティーが開催される。なので、そのこと絡みだろうと思っていた。パーティーへの招待はだいたい10日から1週間くらい前にしてくれるし。今年もパーティーが開かれると思い、誕生日当日はバイトのシフトは入れていない。


「招待してくれてありがとう。今年も参加するよ、愛実」


 もちろん参加するに決まっている。愛実と出会ってから毎年欠かさず参加しているし。それに、去年までとは違って、付き合い始めてから初めて迎える愛実の誕生日なのだから。


「招待してくれてありがとうございます! 私も参加しますっ!」


 あおいは持ち前の明るい笑顔で元気良く返事した。


「分かったよ。2人ともありがとう!」


 俺とあおいが誕生日パーティーに参加すると話したからか、愛実はとても嬉しそうな笑顔でそう言った。


「来週末に愛実の誕生日があるし、毎年、今くらいの時期にパーティーに招待してくれるから、パーティーのことかなって思っていたよ」

「私も誕生日パーティーかなと思っていました。愛実ちゃんと一緒に凉我君の誕生日パーティーの準備をしているとき、愛実ちゃんの誕生日と毎年パーティーをすると教えてもらっていましたので」

「そうだったんだ」


 7月9日が俺の誕生日だ。今年の俺の誕生日パーティーでは、愛実とあおいが美味しい料理をたくさん作ってくれたっけ。誕生日パーティーの準備をしているから、誕生日のことが話題になったのだろう。


「誕生日当日はシフトを入れてありませんし、愛実ちゃんさえ良ければ愛実ちゃんの誕生日パーティーの準備をさせてください」

「俺も、今年も準備をさせてくれないか?」


 愛実の誕生日パーティーでは、愛実と一緒にパーティーで食べる料理を作ったり、会場となるリビングの飾り付けをしたりするのだ。

 あと、あおいも愛実の誕生日当日はバイトのシフトを入れていないのか。


「もちろんいいよ。当日は一緒に準備しようね」


 愛実は可愛らしい笑顔で快諾する。それもあって、あおいは嬉しそうな笑顔に。


「ありがとうございます! 当日は素敵なパーティーにしましょう!」

「そうだな、あおい」

「2人ともありがとう。今年はあおいちゃんも参加してくれるから、きっと今まで以上に素敵なパーティーになるよ」

「俺もそう思うよ。今年の俺の誕生日パーティーは今までで一番良かったし」

「そう言われると何だか照れてしまいますね」


 えへへっ、とあおいは言葉通りの照れくさそうな笑顔になる。そんなあおいも可愛らしい。


「他には誰か招待するのですか?」

「あおいちゃんの御両親の麻美あさみさんとさとるさん。リョウ君の御両親の智子ともこさんと竜也たつやさん。リョウ君の誕生日パーティーのときのように、3家族で集まりたいから」

「なるほどです」

「うちの家族は、愛実が調津に引っ越してきた小1の年から、家族で愛実の誕生日パーティーに参加しているからな」

「あとは、理沙りさちゃんと美里みさとちゃんも。2人は去年も招待したの」

「そうだったな」


 去年の愛実の誕生日パーティーを思い出す。麻丘家全員、クラスメイトで愛実の親友の海老名理沙えびなりささん、俺達のクラスメイトで友人の鈴木力弥すずきりきやの恋人である須藤美里すどうみさとさんがパーティーに招待され、愛実の御両親と一緒に愛実の16歳の誕生日をお祝いしたっけ。愛実がとても嬉しそうにしていたな。


「理沙ちゃんと美里ちゃんも呼ぶのですね。理沙ちゃんは愛実ちゃんの中学時代からの親友ですし、美里ちゃんは会う回数は少ないですが、LIMEでよくメッセージしますよね。愛実ちゃんと美里ちゃんと理沙ちゃんと私のグループトークでも話しますし」

「そうだね。それと……リョウ君と付き合い始めてからは、美里ちゃんと個別トークで話すことが多くなったよ。恋人絡みのことで……」


 そう言うと、愛実の頬がほんのりと赤くなる。いったい、須藤さんと2人でどんな話をしているのやら。


「ふふっ、そうなんですね。あと、てっきり、凉我君のときのように3家族だけで祝うのかと思いました」

「愛実の誕生日パーティーは麻丘家だけじゃなくて、友達を呼ぶことが多いよな」

「そうだね。といっても、多くても2、3人くらいだけど」

「なるほどです」

「ちなみに、俺の誕生日パーティーは、去年までの何年かは家族ぐるみで付き合いのある香川家だけを呼んでたな。友達からは学校で誕生日プレゼントをもらう形で祝ってもらうのが基本で。もちろん、それも嬉しく思ってるよ。俺も友達の誕生日のときは学校でプレゼント渡すことが多いよ」


 友達の道本翔太どうもとしょうたや鈴木、海老名さんが俺に今年の誕生日プレゼントを渡してくれたときのことを思い出しながら、あおいに話した。


「そうなんですね。私も誕生日には学校で友達からプレゼントをもらうので、凉我君の気持ちがよく分かります」


 あおいは爽やかな笑顔でそう言った。あおいの言葉に愛実が笑顔で頷いていて。あおいと愛実に共感してもらえて嬉しいな。

 実際、愛実は学校で友達から誕生日プレゼントをもらうと嬉しそうにしていて。去年までにそういった愛実の姿をたくさん見てきた。


「私も誕生日には毎年パーティーをするので、今年の誕生日は麻丘家のみなさんと香川家のみなさんを招待しますね!」

「ああ。ありがとう。……そういえば、幼稚園の頃、あおいの誕生日パーティーに家族で招待されたな」

「そうでしたね」

「その話、リョウ君が今までに何回か話してくれたね。……うちも招待してくれてありがとう、あおいちゃん」

「いえいえ」


 あおいの誕生日を祝ったのは幼稚園の頃の1回きり。もちろん、あおいの誕生日パーティーに参加したのもそのときだけだった。今年からあおいの誕生日をまた祝えると思うと嬉しいな。


「あ、あの。リョウ君」

「うん?」

「……リョウ君にはパーティーの他に、お泊まりにも招待したいです。パーティーの後も、誕生日の夜をリョウ君と過ごしたくて。誕生日の翌日は月曜日だけど、敬老の日でお休みだから。どうかな?」


 愛実は俺の目をじっと見つめながらそう言ってくる。ほんのりと頬が赤くなっているのが可愛くて。

 誕生日の夜を俺と過ごしたい……か。一年に一日しかない特別な日だし、一緒に過ごしたいよな。しかも、翌日が休みなら。まあ、俺の家と愛実の家は隣同士だから、どの曜日でも泊まろうと思えば泊まれるけども。


「もちろんいいぞ、愛実。誘ってくれて嬉しいよ」

「ありがとう、リョウ君!」


 愛実はぱあっ、と明るい笑顔になってお礼を言ってくれる。誕生日に俺とお泊まりしたい気持ちが強いのが窺える。


「良かったですね、愛実ちゃん。凉我君とラブラブな夜を過ごしてくださいねっ」

「ありがとう、あおいちゃん。パーティーにお泊まり……今年の誕生日はとってもいい日になりそうだよ。楽しみだな」


 ニコッとした笑顔で愛実はそう言う。

 誕生日は愛実がたくさん笑顔を見せられるように、誕生日パーティーやお泊まりを楽しいものしたいな。




 その後、愛実から誕生日パーティーの招待された俺の家族やあおいの家族、海老名さんと須藤さんは、みんな参加することが決まった。

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