第70話『恋人との朝』

 8月28日、日曜日。

 とてもいい気分の中でゆっくりと目を開けようとする……けれども、普段よりも目が開けづらい。いったいどうしたんだ? 目やその周辺の病気になったのかと思ったけど、痛みや違和感といったものは特に感じない。

 何とかして目を開けると、視界は肌色で埋め尽くされている。……いや、視界の端の方に黒い線が一本見えるか。

 意識がはっきりしてくる中で、とても甘い匂いが香ったり、鼻から顎の辺りまで温かくて柔らかいものが当たったりしているのが分かって。あと、背中からも優しい温もりを感じる。この状況から推測するに、寝ている間に愛実の胸に顔を埋める寝相になり、そんな俺を愛実が抱きしめている形になったのだろう。

 愛実の体から顔を少し離すと、薄暗い中で愛実の胸元やデコルテが見える。この明るさでも、愛実の体が綺麗なのがよく分かる。


「あっ、起きたんだね、リョウ君」


 愛実の優しい声が聞こえたので、顔を見上げると……愛実が俺のことを優しい笑顔で見ていた。俺と目が合うと、愛実はニコッと笑う。そのことに癒やされる。


「おはよう、愛実」

「おはよう、リョウ君」


 朝の挨拶を交わすと、愛実は俺にキスしてくる。おはようのキスだろう。

 目覚めてすぐに、唇を含めて全身から愛実の温もりや柔らかさを感じられるなんて。とても幸せな気持ちになる。今までで一番の朝だ。

 愛実の方から唇を離す。すると、すぐ目の前には頬を赤らめた愛実の笑顔があって。


「リョウ君のベッドの中で起きて。そうしたらリョウ君の寝顔が見えて。リョウ君が目を覚ましたらおはようのキスができて。本当に幸せな朝だよ。今までで一番の朝だよ」

「俺も今までで一番いい朝だと思ったよ」

「リョウ君も思ったんだ。嬉しいな」


 愛実はとても嬉しそうな笑顔を見せる。

 いつかは愛実と一緒に住んで、毎日一緒に同じベッドで眠る生活を送りたいな。


「そういえば、愛実は目を覚ましたら、俺の寝顔が見えたんだよな。じゃあ、俺は愛実が起きている中で、胸に顔を埋めたことになるのか」

「ううん、違うよ。リョウ君の顔が胸に埋まるようにして私が抱きしめたの」

「そうだったのか」


 まさか、愛実による寝相だったとは。


「10分くらい前に起きてね。リョウ君の頬や額にキスしたら、もっとリョウ君に触れたくなって。それで、リョウ君のことを抱きしめたの。それに、抱きしめれば、リョウ君もいい夢を見られるかなと思って。あと、昨日の夜のえっちで、リョウ君は私の胸が大好きだって分かったから。私の胸に色々なことをしていたし」


 愛実は柔らかな笑顔でそう言う。

 愛実のGカップの大きくて柔らかい胸はとても魅力的で……大好きだ。それが分かって、俺の顔を胸に埋めたのか。さすがは俺の恋人だ。


「な、なるほどな。どんな夢を見ていたのかは覚えていないけど、凄くいい気分の中で起きられたから、きっといい夢を見ていたんだと思う。愛実の言う通り、俺は愛実の胸が好きだからな。愛実、ありがとう」


 と言って、今度は俺から愛実にキスする。愛実からされるキスもいいけど、自分からキスもいいなって思う。

 数秒ほどキスして俺から唇を離すと、愛実は可愛らしい笑顔で「いえいえ」と言った。

 そういえば、この前のお泊まりでは、俺が先に起きて愛実の寝顔を見たんだよな。そのとき、愛実が寝言で「俺が胸に顔を埋めて愛実吸いをする」って言っていたっけ。愛実の胸に顔を埋めていたし、愛実の甘い匂いを直に嗅げたので、あの日愛実が見た夢は正夢になったと言えるかな。

 俺はゆっくりと体を起こして体を伸ばす。その際に壁に掛かっている時計を見ると、今の時刻は午前7時過ぎだと分かった。

 俺に合わせてか、愛実も体を起こし、伸ばしている。その際、「う~ん」と言っているのが可愛くて。

 俺も愛実も一糸纏わぬ姿。だから、昨日の夜に愛実と肌を重ねたのが本当なんだと実感できて。愛実の体を見ていると特に。ドキッとして体がちょっと熱くなる。


「どうしたの? 私の体をじっと見て。顔もちょっと赤いね」

「いや……お互いに裸だから、昨日の夜に……したんだなぁと思ってさ。凄く幸せで気持ち良かったから。昨日、愛実が夢みたいだって言ったのがよく分かる」

「ふふっ、そうだったんだ。昨日のえっちは本当に幸せで気持ちいい時間だったね。リョウ君、体は大丈夫? その……腰をたくさん動かしていたし、たまに激しかったから」

「大丈夫だよ。愛実こそ大丈夫か? 愛実も腰を激しく動かすときがあったから」

「き、気持ち良かったからね。私も大丈夫だよ。特に痛みとかはないよ」


 肌を重ねているときのことを思い出しているのか、愛実ははにかみながらそう言った。


「良かった」

「うん。……ねえ、一緒にお風呂に入らない? 昨日はえっちしてそのまま寝たから」

「そうだな。一緒に入るか。夜のうちにお湯を抜くことはしないから、すぐに入れると思う」

「そっか。じゃあ、入りに行こうか」

「ああ」


 俺達は下着や寝間着を着て、必要なものを持って1階の洗面所に向かう。今は午前7時過ぎで、しかも日曜日だから両親はまだ起きていなかった。

 浴室に入って、浴槽の蓋を開けると、昨日入った濁り湯がまだ残っていた。なので、愛実と一緒に朝風呂に入ることに。

 昨日の夜に肌を重ねたので、昨日とは違い、互いの姿が見える状態で寝間着や下着を脱いだ。その際、愛実の全身を見るけど……愛実の体には特にキスマークや傷などの痕はついていなかった。昨日、肌を重ねているときに、愛実をぎゅっと抱きしめたり、キスしたりしたけど、愛実の体に痕がついてしまっていなくて安心した。

 浴室に入り、俺達は髪と体、顔を洗っていく。髪と背中は洗いっこして。

 全て洗い終わり、俺達は一緒に湯船に浸かる。昨日と同じように、互いに向かい合う姿勢で。


「朝から檜の香りがするお風呂に入ると旅行に来た気分だよ」

「愛実も俺も、朝にホテルの大浴場に入ることが多いもんな」

「そうだね。ただ、混浴をした10年前の旅行でも、朝風呂は一緒に入らなかったよね」

「そうだったな。じゃあ、朝に一緒にお風呂に入るのはこれが初めてか」

「そうだね。リョウ君と一緒に初めて朝風呂に入れて幸せです」

「……俺もだ」


 ホテルの大浴場や露天風呂に比べるとかなり狭いけど、愛実と一緒に入っているから今までの朝風呂の中で一番気持ちがいい。

 それにしても、昨日と同じ体勢でお風呂に入っているのに、昨日よりも愛実がかなり艶っぽく見える。昨日の夜にベッドで一糸纏わぬ愛実をたくさん見て、触れたからだろうか。そんな愛実に見惚れる。


「ねえ、リョウ君」

「うん、どうした?」

「……そっちに行って、リョウ君を抱きしめてもいい? リョウ君と触れながら湯船に浸かりたいの」


 愛実は俺の目を見つめながらそうお願いしてくる。


「もちろんいいよ」


 おいで、と俺は両手と両脚を広げる。

 愛実はニッコリと笑って「ありがとう」と言うと、ゆっくりと俺に近づいてくる。俺の脚の間に入ってきて、俺のことをそっと抱きしめてきた。そのことで、愛実の柔らかさを感じて。お湯だけじゃなくて、触れた肌から愛実の温もりも感じられて。シャンプーやボディーソープの匂いが香ってきて。それがとても気持ちいいなと思いつつ、両手を愛実の背中の方へと回した。


「あぁ、気持ちいい。触れたところからリョウ君の優しい温もりも感じるし」

「俺も愛実の体が温かくて、柔らかさを感じるから凄く気持ちいいよ」

「良かった!」


 愛実は俺を見上げてニッコリと笑いかけてくれる。至近距離からの可愛い笑顔なのでかなりドキッとする。


「こうして裸同士で抱きしめ合うと、リョウ君の体は筋肉がしっかりとついていて、立派になったんだなって思うよ。凄くいいなって思う。大好きだよ」

「ありがとう。これからもジョギングを頑張ろうって思えるよ。俺も……抱きしめていると愛実の体は華奢だって分かって。でも、女の子らしい柔らかさも感じられて。胸の感触もいいなって思うよ。好きだ」

「ふふっ、ありがとう。嬉しい」


 嬉しさのあまりか、愛実は俺の胸元や首筋に何度もキスしてくる。愛実の柔らかな唇の感触が心地いい。昨日の夜も俺の体にキスしていたなぁ。

 愛実にたくさんキスされているので、俺も愛実の体にキスしたくなってきた。

 愛実のキスの隙を狙って、俺も愛実のデコルテや首筋、胸の膨らみ始めの部分にキスする。キスマークがついてしまわないように、唇を当てる感じで。


「んっ」


 たまに、愛実はそういった可愛い声を漏らして、体をピクつかせる。頬を赤くして恍惚とした表情になって。その反応が可愛くて、もっと強くキスしたくなる。だけど、理性を働かせて唇を当てる優しいキスをするに留めた。


「体にしたり、されたりするキスもいいな。でも、リョウ君の口にもキスしたい」

「……俺も体にいっぱいキスしたら、口にもキスしたくなってきた」

「リョウ君……」


 俺の名前を口にすると、愛実は嬉しそうな笑顔になり、俺にキスしてきた。

 お湯の温もりや愛実の体から伝わる温もりも気持ちいいけど、愛実の唇から伝わるキスが一番気持ちがいいな。このままずっとしていてもいいくらいに。

 愛実は唇を離すと、幸せそうな笑顔を見せてくれる。


「口と口のキス……凄くいいです」

「……俺も」

「良かった。……もうちょっと、リョウ君と抱いた状態でいいかな?」

「もちろんだ。ただ、ちょっとじゃなくていいよ。俺は愛実をずっと抱きしめたい」

「……ありがとう」


 それから、湯船を出るまでの間、愛実と抱きしめ合ったり、俺を背もたれにして座る愛実を後ろから抱きしめたりと、愛実と密着し続ける。そのおかげで、今までで一番気持ちのいいお風呂になったのであった。

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