第48話『ウォータースライダー』

 俺とのツーショット写真を撮り終わった後、あおいはスマホを戻すために女性用更衣室へ入っていった。

 元々、プールデートを楽しみにしていたけど、1ヶ月ぶりにあおいの水着姿を見たらより楽しみになってきた。あおいと一緒にプールデートを楽しんでいこう。


「お待たせしました」


 1、2分ほどして、あおいが戻ってきた。


「では、プールに行きましょう」

「ああ」


 あおいは俺の左手を握り、引いてくる。

 俺達は屋内プールの中に入る。

 屋内プールの中に入るとすぐに、正面にある大きな青いウォータースライダーのコースが目に入る。流れるプールを中心に普通のプール、学校のプールのような25mプール、子供でも楽しめるような浅いプールと様々な種類のプールがある。普通のプールや流れるプールには多くの人が入っていて賑わっている。

 また、端の方にはサマーベッドが大量に並べられている。サマーベッドはプールの利用客なら誰でも自由に利用でき、施設内で買えるドリンクを飲んでも大丈夫だ。それもあってか、サマーベッドでゆっくりしている人もそれなりにいる。


「うわあっ、立派ですね……!」


 あおいは目をキラキラとさせながら、屋内プールを見渡している。その姿がとても可愛くて。あと、今のあおいを見ていると、小学生の頃に初めてここに来たときの愛実に重なる部分がある。


「立派なところだよな」

「ええ! 色々なプールがあって、ウォータースライダーもありますから、たくさん遊べそうです! あそこにあるサマーベッドではゆっくりできそうですし」

「今までもいっぱい遊んだし、あのサマーベッドでゆっくりしたよ」

「そうですか! では、たっぷり遊ぶためにもまずはストレッチしましょうか」

「そうだな」


 ケガをしたら楽しめることも楽しめなくなるからな。ケガの防止のためにも、ストレッチはしっかりしないと。

 他の人の邪魔にならないように、俺達は屋内プールの端でストレッチしていく。

 あおいと向き合った体勢でしているので、ストレッチしているあおいの姿が自然と視界に入る。海水浴のときも思ったけど、ストレッチしているあおいの姿は美しい。体を伸ばしているから、全身に程良く筋肉が付いているのが分かって。思わず見入ってしまう。


「あそこにいるストレッチしている青いビキニの女の子、凄く可愛いな……」

「そうだよな。男連れじゃなければ話しかけていたのに……」


「青いビキニの黒髪の子、本当に綺麗だよね」

「そうだね。スタイルも良くて。憧れる……」

「憧れるし、羨ましいよね。金髪のかっこいい彼氏がいるのも含めて」

「ねぇ。優しそうだし、背も高いし」


 男女問わず、あおいのことを褒める声が聞こえてきて。あおいは美人でスタイルがいいから、性別関係なくあおいに目が留まるのだろう。

 あと、すぐ近くで一緒にストレッチしているから、俺のことをあおいの彼氏と勘違いしているようだ。まあ、男女2人で一緒に来ていればカップルだと思うよな。顔立ちが似ていれば仲のいい兄妹とかにも見えるんだろうけど。

 当の本人であるあおいは……滅茶苦茶嬉しそう。今みたいに、周りから注目を集めたり、自分のことを話されたりしても気にしないことが多いのに。


「涼我君とカップルに見えちゃいますかぁ。まぁ、2人きりですもんねぇ」


 デレデレとした雰囲気でそう言うと、あおいは「えへへっ……」と嬉しそうに笑う。俺とカップルに思われていることが嬉しかったのか。それが分かって、今のあおいがとても可愛く思えて。

 その後も、上機嫌なあおいを見ながらストレッチしていった。


「……よし、このくらいでいいかな」

「私もストレッチ終わりました」

「うん。じゃあ、遊ぶか。あおいはどこか行きたい場所はある?」

「ウォータースライダーに行ってみたいです!」


 食い気味に、そして元気良くそう言うと、あおいはウォータースライダーの方を指さす。目を輝かせているし、ウォータースライダーにかなり興味があると窺える。


「ウォータースライダーか。いいぞ」

「ありがとうございます! ウォータースライダーは大好きなので、ここのはどんな感じなのか楽しみです!」

「ははっ、そうか。遊園地の絶叫系アトラクションが好きだから、ウォータースライダー好きは納得だな。ここのウォータースライダーはスリルあるぞ」

「そうなんですね!」

「よし、入口に行くか」


 あおいと手を繋いで、ウォータースライダーの入口に向かって歩き出す。

 多くのお客さんとすれ違うけど、男性中心にあおいのことを見る人が多い。ただ、あおいはウォータースライダーが楽しみなのか、そちらの方ばかり見ているが。


「あっ、今……滑り終わった人が見えました。ここのは浮き輪に乗って滑るタイプなんですね」

「ああ。1人用と2人用の専用うきわがあるんだ。あおいはどっちがいい?」

「2人用がいいです! 涼我君と一緒に滑りたいです!」

「分かった。一緒に滑ろう」

「はいっ!」


 あおいはとても嬉しそうに返事する。2人用もあると教えたら、一緒に滑りたいって言うだろうと思っていたよ。それでも嬉しい気持ちになる。

 それから程なくして、入口に到着する。入口に立っていた男性スタッフに1人用か2人用の浮き輪どちらがいいかと訊かれ、あおいは元気良く、


「2人用をお願いしますっ!」


 と答え、2人用の浮き輪を受け取っていた。ただ、結構大きいので、その直後に俺が持つことにした。

 スタート地点に行くために階段を上っていくけど、人気があるから階段の途中まで待機列が伸びている。俺達は列の最後尾に並んだ。


「ここから並ぶんですね」

「人気だからな。これまでも、階段から並ぶことが多かったよ」

「そうですか。それを聞いてより期待が高まりますねっ」


 あおいはワクワクとした様子でそう言う。


「……ところで。2人用の浮き輪があるということは、愛実ちゃんとも一緒に滑ったことがあるのですか?」

「ああ、何度もあるぞ」

「そうですか。それを知ってより滑りたくなりましたね」


 あおいは笑顔でそう言う。愛実が体験していることは自分も体験したいってことかな。ましてや、大好きなウォータースライダーなら。

 愛実はスリルのある絶叫系は苦手ではない。だから、ここのウォータースライダーは何度も一緒に滑り、楽しんでいたな。一緒に家族旅行に行った先のホテルにあるウォータースライダーも一緒に滑ったことがある。


「……そうだ。あおい。この浮き輪は前後に座るタイプなんだ。あおいは前と後ろ、どっちに座りたい?」

「そうですね……前がいいですね。前の方がよりスリルを味わえそうですから」

「確かに、前の方がスリルを感じられるな。じゃあ、前にあおい、後ろには俺が座ろう」

「はいっ」


 やっぱり、あおいは前の方がいいと言ったな。

 それからは、プール絡みの思い出話をしながら、待機列での時間を過ごす。その中で、あおいも家族旅行でウォータースライダーのあるホテルで泊まったときは、スライダーをいっぱい滑ったことを知った。また、母親の麻美さんも大好きで、麻美さんと一緒に滑ることもあったのだそうだ。あおいの絶叫系好きは麻美さん譲りか。納得した。

 思い出話に花を咲かせたのもあり、気付けば次が俺達の番になっていた。


「次の方は……お二人で滑るんですね」

「はいっ!」


 スタート地点にいる女性スタッフさんの問いかけに、あおいはとても元気良く答える。

 俺がスタート地点に浮き輪を置き、さっき話したように前にあおい、後ろには俺が座る。そのことで、あおいの後ろ姿がすぐ近くに見える形に。水着姿なのもあってドキッとするな。


「それでは、カップルさん! いってらっしゃ~い!」


 女性スタッフさんは元気な声でそう言い、俺とあおいが乗る浮き輪を押した。あおいとの初ウォータースライダーのスタートだ!

 俺達の乗る浮き輪は水の流れに乗り、スライダーのコースを進み始める。


「スタートしましたね!」

「ああ。水の流れに勢いがあるから、スピード上がっていくぞ!」

「それは楽しみですっ!」


 ウォータースライダーがスタートしたからか、あおいの声はかなり弾んでいる。

 水の流れやコースが下っているのもあり、俺達の乗る浮き輪のスピードは段々上がっていく。カープに差し掛かったときなどには水しぶきがかかるように。


「きゃあっ、冷たいっ! 速くなってきましたね!」

「そうだな!」


 きゃーっ! と、あおいは黄色い声を何度も上げている。この声色からして、怖さよりも楽しさによるものだろう。

 たまに、傾斜が急に大きくなってスピードがグンと上がったり、コーナー角度がキツくて浮き輪が左右に大きく揺れたりして。何度も滑ったことはあるけど、結構スリルがあるな!

 スリルの感じる場所ではあおいの黄色い叫び声が大きくなって。そんなあおいと一緒に、俺も「おおっ!」と叫びまくった。

 スピードが落ちることなく、俺達の乗る浮き輪はゴール地点のプールに到着した。その瞬間、

 ――バシャッ!

 ウォータースライダーでの勢いがあったため、俺もあおいも浮き輪から投げ出されてプールに落ちてしまった。今までも、ゴールに到着するとプールに落ちることが何度もあったっけ。

 プールにはまだ一度も入っていなかったので、プールの水が結構冷たく感じる。そんなことを思いながら、水面から顔を出した。


「冷たっ」


 顔についた水を右手で拭いながら周りを見ると……ひっくり返った浮き輪はあるけど、あおいの姿は見えない。まさか、溺れたり、意識を失ったりしてしまったか?

 また、この光景を見て、海水浴のときにあおいが波に飲み込まれ、胸をポロリしてしまったことを思い出す。まさか、今回も同じことに? 勢い良くプールに落ちたから。


「ぷはあっ!」


 あおいは水面から顔を出した。俺と目が合うと、あおいは爽やかな笑顔になって。プールの水に濡れたあおいの顔がとても綺麗で。あと、あおいが溺れたり、意識を失ったりしたわけじゃなくて良かった。

 また、あおいはゆっくりと立ち上がると……水着は脱げていなかった。そのことを含めてほっと胸を撫で下ろす。


「どうしたんですか? ほっとしていて」

「……こ、今回は脱げていなくて良かったと思って」

「……な、なるほどです。勢い良くプールに落ちましたもんね」


 そう言い、あおいははにかむ。ポロリしてしまったときのことを思い出したのだろう。


「ご、ごめんな。あのときと状況が似ていたから」

「いいんですよ。気にしないでください。心配してくれて嬉しいですから。それにしても、ここのウォータースライダーとてもいいですね! スピードがありますし、スリルのあるポイントがいくつもありましたから! いっぱい叫んじゃいました!」

「いっぱい叫んでたな。久しぶりだったから、俺も結構叫んだよ」

「一緒に叫べて楽しかったですっ!」


 あおいはニコニコでそう言う。ここのウォータースライダーを気に入ってくれたようで良かった。


「とても楽しいですから、また一緒に滑りませんか?」

「もちろんさ」

「ありがとうございます! 今度は私が後ろに座りたいです!」

「ああ、いいぞ。じゃあ、行くか」

「はいっ!」


 座ってきた浮き輪を持ってプールから出て、あおいに手を引かれる形でウォータースライダーの入口へと向かった。

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