第44話『ガールズナイト-後編-』

「涼我君絡みの話をしましたので、涼我君に会いたくなってきました。理沙ちゃんの気持ちを知ったのもあって、大好きだと言いたくなってきました!」


 興奮した様子でそう言うあおいちゃん。リョウ君のことで話が盛り上がったし、理沙ちゃんもリョウ君に告白したことを知って刺激を受けたのかもしれない。


「いいね、あおいちゃん。私も言いたくなってきたな。一緒に言う?」

「そうですね! 理沙ちゃんはどうします?」

「あたしは言わなくていいわ。……じゃあ、今から麻丘君と話しましょうよ。愛実の家に泊まると、窓を開けて彼と話すのが恒例になっているから」

「リョウ君も私達がお泊まりしているのは知っているもんね」


 小学生の頃から、私の家に友達が泊まりに来ると、必ずと言っていいほどに互いの部屋の窓を開けてリョウ君とお話ししている。

 窓からリョウ君の家の方を見ると……リョウ君の部屋の明かりが点いている。これなら大丈夫そう。

 ローテーブルに置いてあるスマホを手に取り、LIMEでリョウ君に、


『リョウ君。今から窓を開けて、ちょっとお話ししない?』


 というメッセージを送った。リョウ君……どうかな。

 すぐに気付いたのか、送ってから10秒くらいで『既読』のマークが付き、


『ああ、いいぞ。愛実達といつ話すだろうって思ってた』


 と、返信が届いた。私達がお泊まりするのを知っているから、窓を開けて話すのを楽しみにしていたのかな。もしそうだとしたら可愛いな。


「リョウ君から話そうって返事が来たよ」

「そうですか!」

「窓の側に行きましょう」


 私達はクッションから立ち上がり、リョウ君の家の方にある窓に向かう。

 窓を開けると、自分の部屋からこちらを見ている寝間着姿のリョウ君がいた。こちらが窓を開けたから、リョウ君は落ち着いた笑顔で手を振ってきて。そんなリョウ君に私達も手を振った。


「3人ともこんばんは。お泊まり女子会はどうだ?」

「とても楽しいですよ!」

「楽しいわ。ね、愛実」

「うんっ。楽しんでいるよ、リョウ君」

「それは何よりだ」


 そう言うと、リョウ君の笑顔が優しいものに変わって。ついさっきまで、3人でリョウ君が好きだって恋バナをしていたからか、リョウ君が凄くかっこよく見えるよ。


「夕ご飯は理沙ちゃんと一緒に、オムライスとピザと野菜スープを作ったの」

「とても美味しかったですよ! それで、夕ご飯の後は3人でお風呂に入りました」

「お風呂では髪や背中を洗いっこして。3人一緒に湯船に浸かったわ」

「お風呂の後はお菓子を食べながらアニメを観たよ」

「おぉ、そうなのか。盛りだくさんだな。楽しそうだ」


 リョウ君は楽しそうな笑顔で言ってくれる。そういえば、お泊まり中のことを話すと、リョウ君は今みたいに「楽しそうだ」って言ってくれることが多いな。


「あと、10時からは涼我君も好きなラブコメアニメをリアルタイムで観ましたよ! 涼我君は観ましたか?」

「ああ、俺もリアルタイムで観たぞ。面白かったな」

「面白かったですよね! 明日、一緒に観ませんか?」

「いいぞ。バイトとかの予定もないし」

「わ、私も一緒に観るっ」

「あたしも。明日までお盆休みで部活ないから」

「そうなのか。じゃあ、4人で一緒に観るか」


 リョウ君はいつもの落ち着いた笑顔でそう言ってくれた。

 明日はリョウ君と一緒にいられるんだ。嬉しいな。私と同じ気持ちだからか、あおいちゃんも理沙ちゃんも嬉しそうで。理沙ちゃんはフラれたけど、好きだって告白したからか、気持ちが結構顔に出ているな。可愛い。


「お泊まり女子会中だし、男の俺と話すのはここら辺にしておくか」

「そうしようか。外の蒸し暑い空気も部屋に入ってきているし」

「そうですね」


 あおいちゃんはそう言うと、こちらに顔を向けて、私と目を合わせてくる。このタイミングで一緒に「大好き!」って言おうってことかな。


「リョウ君」

「涼我君」


 私とあおいちゃんはリョウ君のことを呼び、あおいちゃんが小声で「せーの」と言って、


『大好きっ!』


 あおいちゃんの合図のおかげで、私達は声を合わせてリョウ君に大好きだと言うことができた。あおいちゃんと一緒だったけど、リョウ君に好きだって言うととても気分がいい。

 あおいちゃんと私が大好きだと言ったからか、リョウ君は目を見開く。

 ただ、それも少しの間のこと。リョウ君はとても優しい笑顔になって、


「ありがとう」


 と、私達を見ながら言ってくれた。そんなリョウ君にキュンとなって。体が熱くなってきて。ただ、外の空気の蒸し暑さと比べたら、この熱は心地良く感じられた。


「涼我君、おやすみなさい!」

「麻丘君、おやすみ。また明日ね」

「おやすみ、リョウ君」

「……みんなおやすみ」


 リョウ君は優しい声色でそう言い、私達に手を振りながらゆっくりと窓を閉めた。それを確認して、こちらも窓を閉めた。


「涼我君、驚いていましたね」

「私と一緒に言ったからかな。でも、ありがとうって言ってくれるときの笑顔が凄く良かった!」

「キュンとしましたね!」

「言っていないあたしもキュンとなったわ」

「ふふっ、理沙ちゃんも。一緒に大好きだって言ってみて良かったね」

「そうですね!」


 うんうん、と私達は3人で頷き合った。

 私達が大好きだって言ったことで、リョウ君をキュンとさせられていたら嬉しいな。

 その後は、私の部屋にある録画した『名探偵クリス』の中で、3人とも好きなエピソードを観た。みんな好きなエピソードだから結構盛り上がって楽しかった。

 日を跨いだ頃に、理沙ちゃんが眠たそうにしたので、そろそろ寝ようということに。

 私達は寝る準備をして、私は自分のベッド、あおいちゃんと理沙ちゃんはベッドの横に敷いたふとんで寝ることになった。


「今日のお泊まり女子会、とても楽しかったです!」

「あたしも楽しかったわ。夏休みのこの時期の恒例イベントになっているけど、今年はあおいも一緒だったから特に楽しかった」

「私も楽しかったよ。恒例だけど、この3人では初めてだったから新鮮だったし」


 あおいちゃんも理沙ちゃんも、今回のお泊まり女子会を楽しいと思ってくれて嬉しいな。


「今後もしていきたいね」

「そうですね! 美里ちゃんも一緒に4人でお泊まりしてみたいです」

「そうだね」

「あと、来年は受験生ですが、来年も夏休み中にお泊まり女子会をしたいですね」

「いいリフレッシュになりそうよね。勉強合宿っていう形でも良さそう。あたしは賛成。愛実は?」

「私もしたいな。じゃあ、来年もお泊まり女子会しようね」


 私がそう言うと、あおいちゃんも理沙ちゃんも笑顔で頷いてくれる。

 来年は受験生だから、夏休み中も勉強が大変だと思う。だからこそ、お泊まり女子会や海水浴といったイベントはしっかりと楽しみたいな。


「ふとんが気持ち良くてますます眠くなってきたわ。……おやすみ」

「おやすみなさい、理沙ちゃん、愛実ちゃん」

「うん。おやすみ、あおいちゃん、理沙ちゃん」


 ベッドライトを消して、ゆっくりと目を瞑る。

 今年のお泊まり女子会は本当に盛りだくさんだった。料理、入浴、アニメ鑑賞はもちろん、理沙ちゃんがリョウ君に恋心を抱いていると知って、あおいちゃんと一緒にリョウ君に大好きだって言って。今年のお泊まり女子会は忘れられないイベントになったな。

 来年の夏休みも、あおいちゃんと理沙ちゃんと一緒にお泊まり女子会したいな。そういったことを思っていると、布団から可愛らしい寝息のユニゾンが聞こえてきた。そのことに癒やされながら、私も眠りに落ちていった。




 ちなみに、ゴールデンウィークのお泊まりのときとは違い、夜中にあおいちゃんが寝ぼけて私のベッドに入ってくることはなかった。

 ただ、朝起きたら、あおいちゃんは理沙ちゃんの寝ているふとんに入っていて。理沙ちゃんの腕を抱きしめたり、脚を絡ませたりしながら理沙ちゃんと一緒に気持ち良さそうに寝ていた。そんな2人がとても可愛くて。

 これもまた一つ、高2の夏の思い出。2人の寝姿をスマホでこっそりと撮影したのでした。

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