第33話『好きになったもの』

「リョウ君、選んでくれてありがとう! いいのが買えたよ!」


 会計を済ませて下着コーナーを出るとすぐに、愛実はとても嬉しそうな笑顔でそう言った。購入した下着の入った白い紙袋をチラチラと見ていて可愛らしい。

 俺が選んだことで、愛実がこういった笑顔になってくれたのだと思うと、本当に嬉しい気持ちになる。


「愛実の役に立てて良かったよ」


 女性の下着を選ぶのは今回が初めてだったけど。


「これからも、下着はリョウ君に選んでもらおうかな」

「選んでほしいときには言ってくれ」

「うんっ」


 愛実はニコッと笑って首肯する。下着でも服でもどんなものでも、愛実から選んでほしいと言われたら協力することにしよう。


「リョウ君。顔……ちょっと赤いよ? どうかした?」

「……ドキドキして体が熱いんだ。女性の下着を選ぶのは初めてだったからさ。試着した愛実の下着姿を何度も見たし」

「ふふっ、そういうこと。リョウ君可愛い。じゃあ、体を冷やすためにも、1階のフードコートでアイス食べない?」

「おっ、アイスいいな。お腹も空いてきたし」

「午後3時過ぎだもんね。私もお腹空いた。じゃあ、行こうか」

「ああ」


 愛実と手を繋いで、フードコートの近くに降りられるエスカレーターまで向かう。

 エスカレーターで1階に降りると、フードコートの近くなので、食べ物や飲み物の美味しそうな匂いが香ってくる。そのことでお腹がより空いてきた。

 おやつ時なのもあってか、フードコートは結構賑わっている。部活帰りなのか、調津高校を含め制服姿や体操着姿、ジャージ姿の人もいて。

 俺達はフードコートの中にあるアイス屋さんに行く。

 今日は晴れて暑いし、おやつ時だからか、アイス屋さんにはかなりの長い列ができている。大学の食堂で愛実が並んだ列よりも長い。そう思いながら、俺達はアイス屋さんの列に並ぶ。1列なので、愛実、俺の順番で。


「結構並んでるね。この長さだと、10分から15分くらいかかりそうかな」

「そうだな。ここのお店のアイスはかなり美味しいからな。それに、今日みたいな日はアイスを食べたくなる人が多いんだろう」

「晴れて暑いもんね。冷たくて甘いものが食べたくなるよね。今日は何にしようかなぁ。美味しいアイスがいっぱいあるし」

「迷うよな」


 俺がそう言うと、愛実は口角を上げて頷く。

 ここのアイス屋さんは美味しいから、好きなアイスはたくさんある。列が長いから、考える時間はいっぱいある。ゆっくりと考えよう。


「私、チョコミントにしようかな。暑いから、スーッとするチョコミントを食べたい気分」

「美味いよなぁ、チョコミント。今の時期にはピッタリだ」

「だよね。リョウ君は決まった?」

「まだ考え中。迷ってる」

「ふふっ、そっか」


 愛実はチョコミントか。愛実とアイスを一緒に食べると交換することが多いし、違うアイスにしよう。

 確か、前に食べに来たときは……チョコクッキーバニラを食べたんだったな。あれは甘くてとても美味しかった。

 前回は甘い系のアイスだったから、今回はさっぱりと食べられるアイスにするか。さっぱり系のアイスで好きなのは――。


「俺は抹茶にしようかな」

「抹茶か。さっぱり食べられていいよね。リョウ君、小さい頃から抹茶が好きだよね」

「ああ。緑茶も好きだし。あとは緑色だからな」

「リョウ君らしい」


 ふふっ、と愛実は朗らかに笑う。

 抹茶は苦味もあるさっぱりとした味が好きだけど、緑色だから心惹かれる。同じような理由で緑系統のビジュアルであるメロンやマスカットアイスも好きだ。

 大学の食堂でのことを中心に愛実と話しながら、列での時間を過ごした。それもあり、愛実の順番になるまであっという間で。

 事前に話していた通り、愛実はチョコミント、俺は抹茶をカップで購入した。

 フードコートには結構多くの人がいるけど、2人用のテーブル席はいくつか空いていた。俺達はそのうちの一つに座って食べることに。

 愛実と向かい合う形で座り、お昼ご飯のときと同じようにスマホでアイスを撮った。


「じゃあ、食べようか」

「そうだな。いただきます」

「いただきますっ」


 スプーンで抹茶アイスを一口分掬って、口の中に入れる。

 アイスの冷たさと一緒に、抹茶の苦味とミルクの甘味が口の中に優しく広がっていく。さっぱりしていて美味しいな。


「抹茶美味い」

「チョコミントも美味しい! ミントがスーッとして爽快だよ」

「ここのチョコミント美味いよな。チョコの甘味とミントのバランスがいいし」

「美味しいよね。でも、昔はこのスーッとするのが苦手で、チョコミントはあまり食べられなかったな」

「昔、俺のチョコミントアイスを一口あげたとき、スーッとしていてちょっと苦手って言っていたよな」

「うん。このチョコミントアイスはそこそこだけど、スーパーで売っているチョコミントのお菓子が、かなりミントが強くて。それがトラウマになってね」

「そうなのか。ミントの風味が強いお菓子とかガムってあるよなぁ」


 小さい頃、父さんの好きなミントガムを一粒もらったら、あまりにもミントの風味が強く、結構辛くて。2、3回噛んだだけで包み紙に吐き出した記憶がある。人によったら、そういったことがトラウマになってミントが苦手になるよなぁ。


「でも、リョウ君が美味しそうに食べているのを見たり、一口もらうときにリョウ君がチョコが多めの部分をくれたりして、段々と食べられるようになって。いつの間にか好きになっていたよ」


 そう言って、愛実はチョコミントをもう一口食べる。う~ん、と可愛らしい声を漏らして、笑顔で食べる姿はとても可愛らしい。

 小さい頃、愛実はミントは苦手だったけど、チョコは大好きで。だから、チョコの多い部分を一口あげていたっけ。そのときは今のような笑顔で食べていたことを覚えている。そんなことを回顧しながら抹茶をもう一口食べると、さっきよりも味わい深く感じられた。


「リョウ君。チョコミント、一口食べる?」

「ああ、いいぞ。俺の抹茶も一口食べるか?」

「うんっ!」


 愛実は元気良く返事した。やっぱり、一口交換する展開になったか。

 愛実はスプーンでチョコミントを一口分掬い、それを俺の口元まで運ぶ。


「はい、リョウ君。あ~ん」

「あーん」


 愛実にチョコミントを食べさせてもらう。

 口の中に入った瞬間、ミントのスーッとした香りが広がっていく。抹茶を食べたときよりも冷たく感じられる。暑いからと、愛実がこれを食べたい気分になったのも納得だ。また、抹茶がさっぱりしているから、チョコが結構甘く感じられた。


「チョコミントも美味いな。最近はスーパーやコンビニでもチョコミントアイスがあるけど、ここのが一番美味いって思う」

「私も。昔、何度かリョウ君が食べさせてくれたのもあるけど」


 愛実は可愛らしい笑顔でそう言ってくれる。チョコミントで爽快な気分になるけど、冷やされた体が少し熱くなるのが分かった。


「じゃあ、俺の抹茶を一口あげるよ」

「うんっ」


 スプーンで抹茶アイスを一口分掬い、それを愛実の口元まで持っていく。


「愛実、あーん」

「あ~ん」


 愛実に抹茶アイスを食べさせる。

 抹茶アイスが美味しいのか、愛実はさっきと同じように「う~んっ」と可愛い声を出している。この可愛らしさは小さい頃から変わらないな。温かい気持ちになる。


「抹茶アイスも美味しいね。苦味もあるからさっぱりもしていて」

「美味しいよな」

「うん。……そういえば、抹茶アイスも昔は苦手だったな。昔の私には苦味が強くて。ただ、抹茶もリョウ君が美味しそうに食べていて、何度か食べさせてくれたおかげで、段々と好きになれたんだ」


 優しい笑顔でそう言う愛実。

 ここの抹茶アイスの苦味はそこまで強くはないから、小さい頃から抹茶が好きになれて、食べることも多かった。そのアイスを愛実にちょっとあげていたっけ。


「アイス以外にも、コーヒーもリョウ君きっかけで好きになれたな。きっと、これからも、リョウ君のおかげで好きになれる食べ物や飲み物がいくつもあるんだろうな」


 ニッコリと笑って、愛実は俺の目を見つめながらそう言ってくれる。そのことにキュンとなって。頬が自然と緩んでいくのが分かる。


「そうなると嬉しいな。まあ、人の好みはそれぞれでいいと思っているけど、同じものを一緒に美味しいって言えるのは嬉しいし」


 今とかお昼のときのように、一口あげて美味しいって喜んでもらえると嬉しいし。高校生になった今でも、女子の愛実やあおいと一口交換を快くする理由の一つはそれだ。

 次、愛実が俺きっかけで好きになる食べ物や飲み物はなんだろうな。昔に比べて苦手なものは減ったけど。楽しみにしよう。

 その後は今日のオープンキャンパスのことを中心に話しながら、愛実とアイスを食べるのを楽しんだ。

 アイスを食べた後は、これまでたくさん行っているアニメイクへ。気になる漫画やラノベを買って、帰路に就くのであった。

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