第19話『いつもの時間がお家デートに-前編-』

「リョウ君のことが好きです。あおいちゃんだけじゃなくて、私のことも考えてくれませんか? 私も……あおいちゃんと同じくリョウ君の恋人候補にしてくれませんか?」


 家に帰ってから、愛実に言われた告白の言葉を何度も思い出す。愛実の可愛らしい笑顔と一緒に。その度に激しくドキドキして。体がとても熱くなって。あおいに告白された直後と同じだ。

 愛実に告白されたことで、愛実のことを10年間一緒にいる幼馴染だけでなく、一人の女性として意識するように。

 ただ、思い返してみると……あおいに告白され、あおいのことを考えていると、愛実のことを不意に頭によぎることが何度もあった。きっと、あのときにはもう愛実を女性として意識していたんだと思う。

 あおいも愛実もとても素敵な女性だ。

 目を閉じて、あおいと愛実のことを考えると……笑顔を中心に、2人のことが次々と頭に浮かんでいって。考えれば考えるほど、熱くて深い沼に嵌まっていきそうだ。

 あおいと愛実の告白にどんな返事をするか。

 その答えはまだまだ見つかりそうにない。




 7月25日、月曜日。

 目を覚ますと、部屋の中がうっすらと明るくなっていた。

 ベッドの上で、あおいと愛実のことを考えていたけど……どうやら寝落ちしていたらしい。海水浴で疲れていたおかげで眠れたのだと思う。体を起こすといつも通りに体が軽くて、両親が作ってくれた朝ご飯もしっかりと食べられた。

 今日はバイトのシフトもないし、特に予定も入っていない。夏休みの課題はまだまだ残っているから、今日は課題をやるか。

 あおいと愛実の予定さえ空いていれば、2人と一緒に課題をするのが恒例だ。昨日、愛実に告白されたけど……誘ってみるか。そう思って、ローテーブルに置いてあるスマホを手に取った瞬間、

 ――プルルッ。

 スマホのバイブ音が響く。タイミングもあって、ちょっと驚いた。

 スマホのスリープを解除すると、愛実からLIMEでメッセージが送信されたと通知が届いている。昨日告白されたのもあり、ドキッとする。

 通知をタップすると、愛実との個別トークが開き、


『リョウ君。今日って予定は空いているかな? もし空いているなら、いつもみたいに一緒に課題をしたいな』


 というメッセージが表示された。

 いつもみたいに課題を一緒にしたい……か。課題をやらないかと誘おうと思っていたのもあって、愛実からメッセージが来たことがとても嬉しい。


『今日は特に予定ないよ。一緒に課題をやるか』


 と、愛実に返信を送った。

 愛実もトーク画面を開いているのか、送った瞬間に『既読』マークがつく。


『良かった! じゃあ、一緒に課題やろうね』


 と、愛実からすぐに返信が届いた。

 その後もメッセージのやり取りをして、俺の家で化学の課題をすることになった。愛実は化学を不安がっていたし、俺と一緒に課題をやろうと思ったのだろう。

 あと、個別トークにメッセージを送ったってことは、愛実は俺と2人きりで課題をしたいと考えているのだろう。あおいを誘うのは止めておくか。

 ――ピンポーン。

 愛実からの最後のメッセージが送られてから数分ほどして、インターホンが鳴る。きっと愛実だろう。

 扉の近くにあるモニターの応答ボタンを押すと、画面には愛実の顔が映る。画面越しでも愛実の顔を見るのは告白以来なので、体が少しずつ熱くなっていくのが分かった。


「はい」

『愛実です。来たよ』

「待っていたよ。すぐに行く」

『うんっ』


 愛実はニコッと笑って頷いた。

 モニターのスイッチを切って、俺は自分の部屋を後にする。

 玄関に行き、ちょっと緊張感のある中でそっと扉を開くと……そこには、ノースリーブのVネックのワンピース姿の愛実の姿があった。可愛い。昨日告白してくれたのもあっていつも以上に可愛く見える。

 愛実は俺と目が合うと、頬をほんのりと赤くしながら柔らかな笑顔を見せる。


「お、おはよう。リョウ君」

「おはよう、愛実。どうぞ」

「うん、お邪魔します」


 愛実を家に上げて、自分の部屋に通す。


「今日は智子ともこさんいないんだ」

「母さんはパートに行ってる。夕方までシフトに入っているって言っていたな」

「そうなんだ」


 そう言う愛実はどこか嬉しそうで。俺と2人きりだからだろうか。


「課題をやるから、あおいちゃんも一緒にって思っていたんだ。でも、昨日の夜に理沙ちゃんと3人で話しているとき、『午前中から一日バイトあるので寝ます』ってメッセージが来て。じゃあ、リョウ君の予定が空いていれば、課題しつつお家デートしようって思ったんだ。告白直後だし、緊張していたからメッセージを送ったのはさっきになったんだけど」

「そうだったのか」

「うん。リョウ君の予定が空いてて良かった」


 愛実は嬉しそうな笑顔でそう言った。

 俺をめぐっての恋のライバルになったとはいえ、元々はあおいも誘うつもりだったのか。愛実らしいな。まあ、初日に課題をしたとき、『これからも3人で課題をやりましょうね』というあおいの言葉に、愛実は快く受け入れていたからな。1学期のときも、2人が課題で助け合っているときもあったし。これからも予定さえ合えば、3人で課題をすることはあるのだろう。

 あと、お家デート……か。家で2人きりで過ごすのだからデートと言えるか。愛実と2人きりで夏休みの課題をするのは恒例のことだけど、特別な感じがしてきた。


「愛実。何か冷たい飲み物を持ってくるよ。何がいい?」

「う~ん……アイスコーヒーがいいな」

「分かった。じゃあ、作ってくるから愛実は適当なところにくつろいでて」

「うん、分かったよ」


 愛実は笑顔でそう言った。

 部屋を一旦後にして、1階にキッチンに行き、愛実と自分のアイスコーヒーを作る。これから課題をするので、ガムシロップを少し入れて。

 コーヒーの入ったマグカップを持って部屋に戻ると、愛実はローテーブルの周りにあるクッションに座り、スマホを弄っている。また、ローテーブルには化学の課題や筆記用具を置いている。


「ただいま、愛実」

「あっ、おかえり、リョウ君」


 俺に戻ってきたのに気付くと、愛実は可愛い笑顔で小さく手を振ってくる。いつも見る仕草だけど、凄く可愛らしく見えて。

 愛実の前と、自分が座る予定のクッションの前にマグカップを置く。

 勉強机から化学の課題や教科書、ノートなど必要なものを用意していると、後ろから「いただきます」という愛実の声が聞こえた。美味しくできているといいな。

 必要なものを持って、俺はベッドの側にあるクッションに腰を下ろした。


「コーヒー美味しいよ、リョウ君。苦味もあって、ほんのり甘くて」

「これから課題をするからちょっと甘くしたんだ。美味しくできていて良かった」

「作ってくれてありがとう。リョウ君の部屋でリョウ君の作ったコーヒーを飲めて幸せだな」


 柔らかな笑顔で、俺を見つめながら愛実はそう言ってくれる。

 俺の家で愛実がコーヒーを飲むことは数え切れないほどにあることだ。だから、それを幸せだと言ってくれると、嬉しいし胸がとても温かくなる。

 あと、これまで、こういうときに幸せだと言ったことは全然なかったのに。昨日、好きだって告白したことで、自分の気持ちをすんなり言えるようになったのだろうか。


「そう言ってくれて嬉しいよ」


 俺がそう言うと、愛実は「ふふっ」と可愛らしく笑った。

 自分のアイスコーヒーを飲むと……さっき、キッチンで味見したときよりも断然に美味しく感じられた。


「じゃあ、さっそくやるか」

「うんっ。化学だからリョウ君に訊くことが何度もあるかもしれないけど。そのときはよろしくお願いします」

「ああ。いつでも訊いてくれ」

「ありがとう」


 それから、俺達は化学の課題をやり始める。愛実も俺も化学の課題はまだ手をつけていなかったので、スタートラインは一緒だ。

 化学の課題はプリント。一学期の総復習と言える内容だ。夏休みの課題だけあって量は結構多い。ただ、教科書やノートを見ればすぐに解けそうな問題が大半なのが幸い。ただ、応用問題とも言える内容もたまにあり、そのときはちゃんと考えないと答えを導けない。化学の担当は佐藤先生なので、先生の不敵な笑みが頭に浮かぶよ。

 課題をやっていくけど……愛実と2人きりだから、右斜め前にいる愛実をチラチラと見てしまう。愛実は教科書やノートを見ながら、一生懸命にプリントに取り組んでいる。

 こうして見てみると……愛実って本当に可愛い女の子だ。あと、ノースリーブのVネックのワンピースという服装もあり、肌の露出が高め。腋が見えるのはもちろんのこと、たまにVネック部分の隙間から胸の谷間がチラッと見えるときもあって。愛実が大人っぽく感じられる。甘くていい匂いもするし。ドキッとして体が熱くなってきた。


「ねえ、リョウ君」

「う、うん? どうした?」

「問5が分からなくて。教えてくれるかな?」

「あ、ああ……いいぞ。問5はちょっと難しいよな」


 それから、愛実の分からない問題について、ルーズリーフに式などを書きながら解説していく。

 ただ、解説しているのもあり、愛実がかなり体を近づけてくる。そのことで、愛実の甘い匂いがより濃く香って。たまに、肩が触れて愛実の温もりを感じることもあって。愛実に意識が向かってしまいそうだけど、理性を働かせて解説することに努めた。


「それで、これが答えになるんだ」

「なるほどね。理解できたよ。ありがとう、リョウ君」

「いえいえ」


 愛実は持ち前の柔らかな笑顔でお礼を言ってくれる。俺の説明で分からないところを理解してもらえて、この笑顔を見ると、教えて良かったという気持ちになる。


「リョウ君は教えるのがとても上手だよね。分かりやすいし。私のペースで教えてくれて優しいし。そういうところも……好きだよ」


 俺の目を見つめ、優しい笑みを浮かべて愛実はそう言ってくれる。そんな愛実の笑顔には赤みが帯びていて。

 分からないところを愛実に教えるのは、これまで数え切れないほどにやってきていることだ。それを好きだって言われると、凄くキュンとくるな。好きという言葉もあって、顔が熱くなってきて。


「……そうか。ありがとう。教えて良かったって思えるよ」

「うんっ。また訊くね」

「ああ」


 愛実の疑問が解決したので、自分の課題を再開する。

 勉強を分かりやすく教えるところも好きだと言ってくれたのもあり、これまで以上に愛実のことが気になってしまう。愛実のことを見てしまい、何度か愛実と目が合うことも。そのときに微笑みかけてくれる愛実は本当に可愛くて。

 たまにくる愛実の質問に解説しながら、愛実と一緒に課題を進めていった。

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