第13話『日焼け止めを塗ってほしい』

 今は午前10時過ぎだけど、夏休み中の日曜日なのもあって、海の家の近くを中心にレジャーシートやビーチパラソル、サマーベッドなどで既に確保されている場所が多い。8人一緒にゆっくりできそうなスペースを確保するのは難しそうだ。

 海水浴場の端が見え始めたところで、ようやく人がまばらになり、陣地確保されていないフリーなスペースも広くなる。俺達はここに今回の海水浴場の拠点を構えることに決めた。

 俺、道本、鈴木が持参したビーチパラソルを砂浜に挿し、パラソルで日陰になった場所に愛実、海老名さん、須藤さんが持参したレジャーシートを敷いた。そのことで、結構広い日陰のエリアが完成した。


「完成しましたね、涼我君!」

「そうだな。広い場所を確保したかったから、去年よりも端の方になったな」

「そうだね、リョウ君。でも、海の家が見えるし、お手洗いも近いところにあるから結構いいんじゃない?」

「確かにそうだな」


 お手洗いにすぐに行けるのは大きいな。それに、端の方に近いから、この周辺があまり混まずに済むかもしれないし。

 自分達の場所ができたことでようやく落ち着けるように。それもあって、あおいや海老名さん、須藤さんのスマホで写真撮影会が行なわれる。

 俺はあおいや愛実と幼馴染かつお隣さん同士のスリーショットや、道本と鈴木と男性陣のスリーショットを写してもらった。

 また、あおいや海老名さんはスマホの三脚を持ってきていたため、8人全員での写真も撮影した。今撮った写真はLIMEの8人のグループトークのアルバムにアップされた。

 写真撮影会が一段落したので、俺はあおいや愛実と一緒にレジャーシートに入る。俺持参のビーチパラソルの下に敷かれた愛実持参のレジャーシートに腰を下ろす。


「日陰に入るだけでも違うな」

「快適だよね。それに、リョウ君は日なたでこのビーチパラソルを挿していたもんね」

「お疲れ様でした。おかげで快適に過ごせていますよ」

「いえいえ」


 あおいと愛実の今の言葉で、家からビーチパラソルを持ってきて、この砂浜で頑張って挿した甲斐があるよ。まあ、今年は佐藤先生が運転する車で来たから、運ぶことに関しては去年よりもだいぶ楽だったけど。

 俺達のエリアの中を見ると……3枚並べてレジャーシートを敷いたから結構広いな。8人全員でもゆったりできている。そう思いながら眺めていると、メガネを外してケースに入れる佐藤先生が視界に入った。

 そういえば、メガネを外した佐藤先生を見たのって初めてかもしれない。メガネを掛けていると落ち着いた雰囲気のあるクールで美人な女性だけど、メガネを外すと可愛らしい雰囲気の美人に変わるんだな。

 俺の視線に気付いたのか、佐藤先生は微笑みながらこちらに向いてきた。


「どうしたんだい、涼我君。私のことをじっと見て」

「メガネを外された姿を見るのが初めてだったので」

「ああ……そういえば、今まで涼我君の前でメガネを外したことないかも。女の子達の前では、さっき水着に着替えるときにメガネを外したんだけどね。海に入るときもあるだろうし、砂とかでレンズが傷つくかもしれないから外したんだ」

「そうだったんですか。メガネを外すと、クールですが可愛い雰囲気もあっていいなと思いますよ」

「ありがとう。嬉しいよ」


 お礼を言って、俺に向けてくれる笑顔はメガネをかけているときとはまた違った可愛らしさが。いつもは見ない顔なのでちょっとキュンとする。


「メガネを外しても大丈夫ですか? 見えますか?」

「この日陰に入っているみんなの顔はちゃんと見えるよ。酷い近視じゃないけど、メガネを掛けていないと教室全体をはっきりと見られないんだ。それに、メガネを掛けていれば広い景色が綺麗に見られるからね。だから、普段からメガネを掛けているんだ」

「そうだったんですね」


 日常生活を送る上で、視界がいいに越したことはないもんな。ただ、メガネを外した先生も魅力的だから、これからもそういった先生の姿が見られたら嬉しく思う。


「ねえ、リョウ君」


 愛実が俺の名前を呼んだ瞬間、肩をポンポンと叩かれる。愛実の方を向くと、愛実は右手にミニボトルを持っていた。


「今年も背中や脚に日焼け止めを塗ってもらってもいいかな?」

「ああ、いいぞ」

「その言い方ですと、愛実ちゃんは涼我君に日焼け止めを塗ってもらうことが恒例なのですか?」

「塗ってもらう年が多いね。もちろん、リョウ君にも塗るよ。ただ、中学以降は理沙ちゃんに塗ってもらうこともあるんだ」

「そうなんですね。さすがは幼馴染です。あの……愛実ちゃんの後でいいですので、私にも背中や脚に日焼け止めを塗ってもらえますか? それを海水浴の楽しみの一つにしていたんです」

「そうなのか。じゃあ、愛実の後に塗るよ」

「ありがとうございますっ!」


 えへへっ、とあおいはとても嬉しそうに笑っている。日焼け止めを塗ってもらうのをとても楽しみにしていたことが窺える。


「ねえ、あおい。順番を待っている間に、あたしの背中に日焼け止めを塗ってもらってもいいかしら?」

「もちろんいいですよ!」

「ありがとう」


 海老名さんはあおいに日焼け止めを塗ってもらうのか。これまでは愛実に塗ってもらっていたけど。あおいと仲良くなったし、あおいに塗ってもらったらどんな感じか体験したいのかも。

 愛実は俺に日焼け止めのボトルを渡して、俺の前にうつぶせの形で横になる。去年と変わらず綺麗な寝姿だな。あと……うつぶせをしていても、胸がはっきりと見えている。Fカップだからだろうか。


「リョウ君、日焼け止めを塗るのをお願いします」

「あ、ああ。分かった」


 ボトルから日焼け止めを出して、両手で愛実の背中に触れる。背中が傷つかないように心がけながら、愛実に日焼け止めを塗り始める。

 日焼け止めの影響かスベスベとした肌触りだけど、肌の柔らかさも感じられる。


「あぁ、気持ちいい。リョウ君、日焼け止めを塗るのが上手だよね」


 普段よりも甘めの声でそう言うと、愛実は顔だけこっちに向いてニッコリと笑う。日焼け止めを塗ると、愛実は今のような反応を示すことが多い。


「今回もそう言ってもらえて嬉しいよ」

「ふふっ」

「涼我君に塗ってもらうのは気持ちいいのですか。ますます楽しみになりました!」


 あおいは目を輝かせながら俺達のことを見ている。

 また、あおいは、愛実の横でうつぶせしている海老名さんに日焼け止めを塗っている。それをすぐ近くから、佐藤先生が恍惚とした様子で見ているのが気になるけど。水着姿の女子同士の戯れを間近で見られて幸せ……とか思っているんだろうな。

 また、3人の奥では、鈴木が道本の背中に日焼け止めを塗り、鈴木の背中には須藤さんが日焼け止めを塗っている。何だか、ホテルの大浴場や銭湯で見られるような光景だ。面白くて微笑ましいな。

 愛実の背中と腰を塗り終わり、今度は脚に塗っていく。


「気持ちいい。脚のマッサージを受けている気分だよ。車にずっと座っていたから、凄く気持ち良く感じられるよ」

「ははっ、そうか。塗り甲斐があるな」


 来年以降も海へ遊びに来たら、愛実に日焼け止めを塗ってあげようかな。

 愛実の太ももは背中以上に柔らかさを感じられるな。塗り心地がいい。スカートに隠れているお尻付近の部分は、愛実に許可を取った上で塗った。許可は取っているとはいえ、スカートをめくって塗る行為に色々な意味でドキドキした。


「……よし。これで両脚も終わったよ」

「ありがとう、リョウ君」

「理沙ちゃんも背中と脚を塗り終わりましたよ」

「ありがとね、あおい」

「あおいも終わったか。じゃあ、愛実のいたところにうつぶせになってくれ」

「分かりました!」


 あおいはワクワクとした様子でそう言った。もうすぐ、俺に日焼け止めを塗ってもらえるんだもんな。


「理沙ちゃんでも愛実ちゃんでもいいから、私に日焼け止めを塗ってくれるかい?」

「いいですよ、樹理先生」

「あたしも塗ります」

「ありがとう。2人に塗ってもらえるとは嬉しいな」


 佐藤先生は嬉しそうな笑顔で言う。もしかしたら、先生は女子高生4人の誰かに日焼け止めを塗ってもらうのを楽しみにしていたのかもしれない。

 あおいは俺に日焼け止めのボトルを渡すと、ヘアゴムで髪をサイドに纏めていく。日焼け止めを塗ってもらうために、背中に長い髪が掛からないようにするためだそうだ。

 纏め終わると、あおいはさっき愛実がいた場所にうつぶせの状態となった。そのことで、あおいの背面が露わに。愛実と同様に美しい。また、中学時代は部活でテニスをしていたり、高校以降はバイトしたりしているからか程良く引き締まっていて、くびれがある。

 愛実は何度も塗ったことがあるからまだしも、あおいは初めてだからドキドキしてくるな。愛実と同様に丁寧に塗っていこう。


「あおい、塗っていくよ。まずは背中から」

「はい、お願いします」


 ボトルから日焼け止めを出し、両手であおいの背中に触れる。その瞬間、あおいは「ひゃっ」と可愛らしい声を出し、体がピクリと震える。


「だ、大丈夫か? 背中が弱かったりするか?」

「い、いえ。日焼け止めがほんのり冷たいので、ちょっとビックリしちゃいました」

「そういうことか」


 背後から冷たさを感じたらビックリしちゃうか。

 両手であおいの背中に日焼け止めを丁寧に塗っていく。愛実のときと同じで、スベスベとした肌触りだ。女の子らしい柔らかさも感じられて。ただ、愛実よりも筋肉がついているのか、少し固さを感じる。


「あぁ、気持ちいいです」

「そう思ってもらえて嬉しいよ」

「気持ちいいでしょう? あおいちゃん」

「はい。背中のマッサージを受けている感覚です。これを何度も体験した愛実ちゃんが羨ましいですぅ……」

「ふふっ、良かったね」


 愛実のときと同じような塗り方をしているけど、気持ちいいと思ってもらえて良かった。あおいはこちら側に顔を向けて、気持ち良さそうな表情をしている。

 また、愛実の方は……あおいの隣でうつぶせしている佐藤先生の、愛実は背中、海老名さんは脚に日焼け止めを塗っている。佐藤先生は幸せそうな様子で「あぁ……」と甘い声を漏らしている。この姿も艶っぽい。


「背中と脚に同時に塗ってもらっているから、エステサロンに来ている感じだよ。運転の疲れが取れていくよ……」


 1時間半近く運転していたら疲れが溜まるよな。もしかしたら、日々の仕事の疲れも2人のおかげで取れているのかもしれない。教え子の女子2人に塗ってもらっているから効果覿面かも。

 あおいの背中を塗り終わって、今は腰のあたりを塗っている。ただ、塗り始めたときよりも体が熱くなっているような。


「あおい。体が熱くなってきている気がするけど大丈夫か?」

「大丈夫です。ただ、日焼け止めを塗ってもらうためだとはいえ、涼我君に背中や腰をいっぱい触ってもらっていますからドキドキして」

「そ、そうか。体調が悪いわけじゃなくて良かった」


 好きな人から肌に直接触れられているんだもんな。そりゃドキドキして、体も熱くなってくるか。今の話で俺も体がちょっと熱くなってきたな。

 腰も塗り終わって、両脚を塗り始める。

 脚も柔らかさは感じられつつも、筋肉の固さも感じられるな。中学時代のテニスや、今のバイトで鍛えられたのかも。


「あぁ、脚も気持ちいいです。昨日もバイトあったからでしょうか」

「常に立っているし、レストランの中を動き回るもんな。ちょっと揉んでおくか」

「お願いします」


 両脚については、ふくらはぎや太ももを中心に軽くマッサージする。気持ちいいのか、あおいは「あぁっ」と甘い声を漏らす。

 バイトの翌日だからか、ちょっと凝っているな。半日期間のあたりから、長めのシフトに入ることが多いらしいし、疲れが溜まっているのかも。海で思いっきり遊ぶためにも、あおいの両脚の凝りをほぐしていった。


「……はい。両脚の日焼け止めとマッサージが終わったよ」

「ありがとうございます! 脚はスッキリした感じがします」


 あおいはとても嬉しそうな笑顔でそう言ってくれる。俺のマッサージでこの笑顔が引き出せたのだと思うと、こっちも嬉しい気持ちになるな。

 あおいにマッサージをしていたからか、佐藤先生の方は終わっており、先生、愛実、海老名さんは自分で体の前面に日焼け止めを塗っていた。先生はもちろん、愛実や海老名さんも大人っぽく見えた。


「涼我君。お礼に涼我君に日焼け止めを塗りますよ!」

「わ、私もお礼にリョウ君に塗りたいな」

「ああ。2人にお願いするよ」

「お任せください! 脚にマッサージもしてもらったので、私が両脚を担当します」

「じゃあ、私は背中と腰に塗るね」


 あおいも愛実もやる気十分な様子。

 俺も佐藤先生のように2人から塗ってもらえるんだ。嬉しいな。

 バッグから海水浴用の日焼け止めのボトルを取り出して、それを愛実に渡した。

 レジャーシートにうつぶせの状態になると……ついさっきまであおいがうつぶせていたから、彼女の甘い残り香が感じられる。そのことにもドキッとして。


「リョウ君、背中に日焼け止め塗るよ」

「脚にも同時に塗りますよ」

「うん。お願いします」


 2人同時に塗ってもらうことは全然ないから、どんな感じが楽しみだな。

 それから程なくして、背中と右脚にほんのりと冷たさが。どちらも優しい手つきで塗られていく。


「おぉ、背中も脚も気持ちいい」

「良かったです」

「嬉しいね」


 ふふっ、とあおいと愛実の笑い声が聞こえる。その笑い声がいいユニゾンを生み出し、とてもいい聴き心地に。そのことでより癒やされる。

 まさか、愛実とあおいが一緒に日焼け止めを塗ってもらえる日が来るとはなぁ。去年の海水浴で愛実に日焼け止めを塗ってもらったときには想像もしなかった。


「ジョギングを再開して3ヶ月経ったからか、風邪を引いて汗を拭いたときよりも背中がしっかりとした感じに見えるよ」

「脚も引き締まって見えますね」

「3ヶ月続けているから筋肉がついてきたのかもな」

「素敵な後ろ姿ですよ」

「そうだね、あおいちゃん」

「ありがとう」


 走ることを楽しむためや体力作りのためにジョギング再開した。ただ、見た目を褒めてくれるのもジョギングの活力になるな。筋肉を付けたり、体型を維持したりするためにも今後もジョギングを続けていこう。

 それから少しの間、あおいと愛実のおかげで気持ちのいい時間を過ごせたのであった。

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