第32話『涼我の誕生日』
午後11時55分。
昨晩録画していた深夜アニメを観たり、読みかけのラノベの続きを読んでいたりしていたら、もうこんな時間になっていたのか。凄く楽しいし、期末試験から解放されたのもあって集中できたからかもしれない。
「あと5分か……」
17歳になるまで。
七夕祭りで短冊を書いたときにも思ったけど、16歳としての一年間はとても良かった。そう思えるのはあおいと10年ぶりに再会できたり、3年前の事故を発端とした走ることのトラウマが解消できたりしたからだろう。1年前、16歳になったときには想像もできなかった。あおいが調津に戻ってきてからの3ヶ月がとても濃かったな。
17歳としての一年間ではどんな出来事が待ち受けているだろう。予想もつかないいいことを経験できると嬉しいな。
「3、2、1……9日になった」
これで、俺も17歳になったか。誕生日おめでとう、俺。17歳としての一年間も、どうかとてもいい一年でありますように。
――プルルッ、プルルッ、プルルッ……。
スマホがたくさん鳴っている。このタイミングで来るってことは、きっとみんながお祝いのメッセージを送ってくれたのだろう。去年までもそうだったから。
スマホのスリープを解除すると……LIMEのグループトークや個別トークに新着メッセージが送られたと通知が。
いつもの6人のグループトークを見てみると、
『涼我君、17歳の誕生日おめでとうございます!』
『17歳のお誕生日おめでとう、リョウ君!』
『お誕生日おめでとう、麻丘君』
『麻丘、誕生日おめでとう』
『誕生日おめでとうだぜ! 麻丘!』
あおい、愛実、海老名さん、道本、鈴木の順でメッセージを送ってくれた。全員、誕生日になってから3分以内に送ってくれるとは。本当に嬉しいな。
グループトーク以外では……おっ、佐藤先生と須藤さんからも来てる。先生は俺の好きな漫画のLIMEスタンプをくれた。これが先生からの誕生日プレゼントかな。
『涼我君。17歳の誕生日おめでとう! プレゼントに、君の好きな漫画のLIMEスタンプを送るよ』
『誕生日おめでとう、麻丘君』
2人も誕生日を祝うメッセージを送ってくれたのか。嬉しいなぁ。
俺はグループトークと、佐藤先生と須藤さんの個別トークに『ありがとう』と返信を送った。先生にはプレゼントしてくれたLIMEスタンプの中にある『ありがとう』の文字付きのスタンプを。そういえば、先生は去年もスタンプをプレゼントしてくれたな。
ここ何年かはこうやってメッセージをやり取りするのが、誕生日を迎えた直後の過ごし方の一つになった。幸せだ。
――プルルッ。
スマホが鳴った瞬間、LIMEの愛実との個別トークに新着メッセージが届いたと通知が届く。通知をタップすると、愛実との個別トークが開き、
『窓を開けてくれるかな?』
愛実からのそんなメッセージが表示された。このメッセージを見た瞬間、頬がより緩んでいくのが分かった。
了解、と愛実にメッセージを送り、愛実の家の方にある窓を開ける。
小雨が降っているけど、風はないので雨が吹き込んでしまう心配はないだろう。
愛実の部屋の窓も開いており、桃色の寝間着姿の愛実がこちらを向いて立っていた。俺と目が合うと、愛実はニコッと笑って小さく手を振る。そんな愛実に俺も手を振った。
「リョウ君。17歳のお誕生日おめでとう!」
愛実はとても可愛らしい笑顔で、俺にそう言ってくれた。
誕生日を迎えた直後に、こうして窓越しに愛実が直接おめでとうと言ってくれることは昔から変わらない。愛実におめでとうって言われると、温かい気持ちで満たされていく。
「ありがとう、愛実。今年もこのタイミングで言ってもらえて嬉しいよ」
愛実の目を見て、俺は彼女に感謝の言葉をしっかりと言った。そのことで、愛実の口角がさらに上がっていく。
「メッセージで送るのもいいけど、直接顔を見て言いたくて。窓を開ければリョウ君と話せるし。小さい頃からやっているのもあるけど」
「ははっ、そうか。愛実が直接言ってくれると、新しい年齢になったんだなって実感するよ」
「ふふっ、そっか」
「……愛実。17歳になった俺もよろしくな」
「うんっ、よろしくね!」
愛実はニッコリと可愛らしい笑顔で言ってくれる。今の愛実を見ると、17歳もいい一年間になりそうな気がするよ。
「ありがとう。じゃあ、また明日な」
「うん! また明日ね!」
愛実は笑顔で手を振って、ゆっくりと窓を閉めた。
愛実と話し終わったら急に眠くなってきたな。今日の放課後はバイトしたからかな。明日は土曜日で学校も休みだし、期末試験も終わったからゆっくり寝よう。
それから程なくして、眠りにつくのであった。
翌朝。
昨日まで期末試験だったのもあって、午前8時近くまでぐっすりと眠った。最近はジョギングするために休日も早く起きることが多かったけど、たまにはこうしてゆっくりと起きるのもいいだろう。それに、今日は誕生日だからな。
曇っているけど、雨は降っていないし、そこまで暑くないので17歳初のジョギングすることに。その際、鈴木からプレゼントされたキャップを被り、海老名さんからプレゼントされた緑色のスポーツタオルを首に巻き、ランニングポーチには道本からプレゼントされた水筒を入れて。水筒には冷たい麦茶が入っている。
家を出発するときから走り始める。
4月にジョギングを再開したときは、全てジョギングしたせいで体調を崩してしまったこともあった。ただ、体力がついてきたので、今は全てジョギングしても平気になった。
7月なのもあって、曇りでも走っていると体が熱くなって汗が出てくる。休憩するときにスポーツタオルで拭くと気持ちいいし、水筒で飲む麦茶はペットボトルよりも冷たくて凄く美味しい。また、途中で薄日も差してきたけど、キャップのおかげで眩しくない。3人のくれたプレゼントがさっそく活躍しているよ。
「ふぅ、気持ち良かった」
3人からの誕生日プレゼントのおかげもあり、いつもよりも快適な気分で17歳初のジョギングすることができた。これらがあれば、今後、梅雨明けして夏本番になっても、気持ち良くジョギングできそうだ。
今日はバイトもないし、試験明けだから特に課題も出ていない。誕生日だし、今日は好きなことをして羽を伸ばすか。
昨日の深夜に放送されたアニメを録画してあるから、まずはこれらを観ていこう。ただ、この中にはあおいも愛実も好きなラブコメアニメもある。2人も一緒に観るか誘ってみようかな。
『昨日放送されたアニメを、今から俺の家で一緒に観ないか?』
と、俺達3人のグループトークにメッセージを送る。2人の予定は大丈夫だろうか。パーティーの料理の下準備をするから断られる可能性はあるかも。
17歳になってからまだアニメを観ていないし、あおいと愛実と一緒に観られたら嬉しいな……と、トークが画面を見ていると、俺の送ったメッセージは『既読2』となり、
『いいですよ! 観ましょう!』
『いいよ! 今すぐに行くね』
あおいと愛実から誘いを受ける返信が届いた。2人の返信を見て、とても嬉しい気持ちになる。
それから数分もしないうちに、あおいと愛実は一緒に自宅にやってきた。俺が誘ったからなのか、2人は結構嬉しそうな笑顔になっている。
「2人ともいらっしゃい。来てくれてありがとう。料理の準備をするから断られるかもしれないって思っていたけど」
「そうだったんですか。午後になってから作り始めようって話になっています」
「昨日、材料の買い出しに行ったときにね。だから、午前中はフリーだよ」
「私もです。ですから、涼我君が誘ってくれて嬉しいです。ありがとうございます。あと、涼我君! 17歳のお誕生日おめでとうございます!」
「おめでとう、リョウ君!」
「ありがとう」
何度でも、「誕生日おめでとう」って言ってもらえるのは嬉しいな。
あおいと愛実を自分の部屋に通し、俺を含めた3人分のアイスティーを淹れる。
アイスティーを持って自室に戻り、俺はあおいと愛実と一緒に、昨晩録画したラブコメアニメを観始める。
このアニメは3人とも持っている漫画の原作で、TVアニメの第2シリーズ。なので、2人と楽しく話しながら観ていく。
愛実だけでなく、あおいと3人でアニメを観るのもすっかり恒例になったな。1年前、16歳になった頃には想像もできなかったことだ。2人と楽しく観られることに幸せを感じながら、アニメを観ていった。
「今回も面白かったですね!」
「そうだね!」
「面白かったな。あっという間の30分だった」
原作漫画を読んでいて展開も分かっていたし、あおいと愛実と話しながらだったからな。時間の進みが本当に速く感じられた。
「実はこれが17歳になってから最初に観たアニメだったんだ。好きな作品だし、あおいと愛実と一緒に観たくて呼んだんだ。一緒に観られて嬉しいよ。ありがとう」
あおいと愛実に感謝の気持ちを伝える。俺が呼んだのがきっかけだけど、2人から誕生日プレゼントをもらった気分だ。
あおいも愛実も嬉しそうな笑顔になり、2人の間で目が合うとニコッと可愛く笑う。
「いえいえ! そう思って私達を呼んでもらえて嬉しいです! 私も3人で観て楽しかったです」
「私もだよ、リョウ君。3人とも好きなアニメは、これからも3人で観ていきたいね」
「ああ。一緒に観ような」
俺がそう言うと、あおいも愛実も笑顔で頷いてくれた。
それから、午前中の間はあおいと愛実と3人でアニメのBlu-rayを見続ける。今日は誕生日だからと、俺の選んだBlu-rayを。
誕生日という一年に一日だけの特別な日だけど、こうしていつも通りの楽しい時間も過ごせることを幸せに思った。その「いつも通り」が愛実とだけでなく、あおいも一緒であることも含めて。
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